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帰り方を忘れた日 知った日  作者: ザ・ヴィンチ
6/6

憑かれた日

この部分は完結した時にもしかしたら消すかもしれません。なんかずっと部屋にいてしつこい感じがするので。

 俺は自分の部屋のソファに座りながら悶々としていた。

 なぜかというと、昨日行った自然公園の帰り道に風華に言われたあの一言、その解釈に深く悩んでいたからだ。

『じゃあ、しょうがないから、あんたが寂しくないように私が元気付けてあげる』

 あれって、これからずっとってこと? それともあの瞬間の話? これからもずっと部屋にいるってこと? それとも落ち着いたら出てっちゃうのか?

 ――以上が、現在の悩みのテーマである。

 

「風華」

「なに?」

 いつものように風華はお供えした駄菓子を食べている。そろそろ前回買ったのが尽きるな。明日にでも買ってくるか。……いやいや今はそれは置いといて。

「昨日言ってたことなんだけど」

「昨日? なんか言ったっけ?」

 言ったよ! なのにそんな心当たり皆無ですって顔されたら聞き辛い。

「いや、やっぱいいや」

 全然よくないがそう言ってしまう。風華も「あらそう」とあまり気にしていていない様子で会話が切れてしまう。

 パクパクと幸せそうに駄菓子を食べている風華をみて、もしかして彼女的には当たり前にここにいることが決定しているのではないかと推測する。しかしだ、もしそう思い込んで急に「じゃあそろそろ出て行くわね。男の人がいると落ち着かないし」などと言われて出て行かれたらショックで寝込みそうだ。

 いや、なぜショックを受けるのだろう。会って3日と経たないのに、なぜそんなにショックを受けると思うのだろうか。

 少し考えて、俺はやはりかなり寂しいのだなと結論づけた。近くに友達が住んでいないわけじゃない。しかしみんな新しい環境で新しい人間に囲まれていて、しばらくは昔の友達を考えることはないだろう。それに、友達ができないことを知られるのも恥ずかしくて素直に連絡もできない。

 とにかくだ。どんな理由があれ風華が残る残らないの問題は変わらずそこにあるのだ。はっきりさせなくてはいけない。

「風華は、ここにいるの?」

 数分かけて覚悟を決め、やっと口に出した。

「いるけど?」

「いるの⁈」

 聞き返してしまうほど、風華の返答は軽かった。悩んだのが馬鹿みたいじゃないか。だが次の一言でその軽さの理由がわかった。

「え、もしかして見えてない? おーい! ここよここ。ちゃんといるわよ!」

「見えてる見えてる」

 俺の顔の前で激しく手を振る風華。そのテンションとは裏腹に俺の返答は感情緩やかだ。いるってそういうことじゃない。

「なによ驚かさないでよ」

「いや違うんだって。これから風華はずっとここにいるのかってこと」

 最近気付いたことだが、俺は口に出してから「しまった!」と思うタイプらしい。風華がアホの子すぎて何も考えず言いたいことを言ってしまった。しかし今回に関してはこれでいいだろう。聞きたいことなのだから。

 風華のことだからサバサバした感じにサラッと答えるかと思ったのだが、なんだか様子がおかしい。

「…………私、追い出されるの……?」

「いやいや何でそうなる……、え、いや、どうしたの? ごめんごめんごめん」

 風華は目に涙をため、今にもそれが決壊しそうだった。ちょっと俯きがちだし、どうしてこうなった。

「違うんだって! 俺はいて欲しいんだけど風華がどうなんだろうなって思ったんだよ!」

 押し黙ったまま風華は喋らない。涙の決壊やその他諸々の我慢をしているように見える。「しまった!」なんてものじゃない。自分で自分を殴り倒せば彼女は許してくれるだろうか。

 どうしていいかわからず風華の横でオロオロしていると、落ち着いたのか風華が口を開く。

「…………いる」

「わ、わかった! これからよろしくな? な?」

 精一杯に風華を励ますように「よろしく。めっちゃよろしく」とシェイクハンドのジェスチャーをする。

「もっと喜んで‼︎」

「うおーーーーー! やったぜーーーーー!」

 神の怒りを鎮めるかのように、舞のような動きで部屋を走り回る。誰かに見られたら気が触れたと思われることだろう。

 おそらくかなり滑稽であろう状態の俺を見て、風華はやっと笑ってくれた。

「はあ、良かった……」

 焦りと激しい運動によって憔悴しきった俺は床に突っ伏す。女の子を泣かしてしまったのは人生で初めてのことだった。こんなにも申し訳なく、自分にもストレスなことだったとは。胃に石でも詰められたかのような鈍い痛みと重みがあった。風華をこれから絶対に泣かせないように細心の注意を払おうと、この世の全てに誓った瞬間だった。

「信政、お供え」

 鼻をすすりながら風華が言う。

「は、はい!」

 俺は机の上にある残り少ない駄菓子を両手で一気に掴み上げ風華に差し出す。

「足りない」

「そ、そう言われましても」

 冷蔵庫に何かあっただろうか。いや、確か調味料とお茶ぐらいしか入っていなかった気がする。

「ないなら、買ってくるわよ」

「今から⁈」

「今から!」

 落ち着きを見せたと思ったら、次の瞬間には威圧感さえ感じる態度の風華だ。く、これが女の子を泣かせてしまった男の扱われ方なのか……! 絶対に逆らえないと本能が告げている。

「……行こう」

 鶴の一声とはこういうことか、と考えながら外出の準備を始める。

 さあ出発、と玄関に向かった時にふと肩が重くなった気がした。玄関にある姿見を見ると、風華が俺の肩に座って手を組んでいる。肩車の状態だ。

「あの……」

「罰として、憑きました」

「憑きました⁈」

 そんな罰として家事やっといてね、ぐらいのライトさで憑いて欲しくないんだけど! なんてことは言えるわけもなく、俺は駄菓子屋まで風華に憑かれた状態のまま歩いて行った。

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