File.1 天使の羽
「ふぁ~~~! 可愛い、かわいいですわ」
目の前には天使がいる。
ふっくらとした頬、翠がかった銀髪。空色の瞳。
這い這いをしてきて私の前まできたところで、私の顔を見上げて
にぱぁ
と満面の笑み。
私は思わず抱き上げましたとも。
天使は私の腕の中でキャッキャと機嫌よさそうに笑っている。
私はこの屋敷に使えるメイドのメル。
代々このサークレイド辺境伯家に使える家に生まれ、父は執事、母はメイドとして仕えております。
そして私は生まれて間もないシオン様に仕えるべく、十歳でこのお屋敷にあがりました。
この子はこの屋敷の天使、シオン様。
サインレイド辺境伯であるカールセン様の三男としてお生まれになりました。
カールセン様の側室、エレア様はシオン様をお産みになられて間もなく、天に召されました。
文字通り、天に還られたのです。
エレア様は天人であり、傷ついて天から墜ちてこられたのを旦那様が見つけて助けました。
そして二人は恋に落ち、シオン様を授かりました。
ですが、お身体の弱いエレア様は出産に耐え切れませんでした。
シオン様をお産みになった直後、旦那様に別れを告げて消えてしまったそうです。
なので、なんとシオン様の背中には小さく透明な羽があります。
本物の天使なんです。
おまけに両性具有。
腐女子であり、可愛いもの大好きな私の好奇心を満たす要素満載です。
実に将来が楽しみです。
ある日、その小さな羽をパタパタさせながら飛んでいる、というより浮かんでいるのを目撃した私は、
「シ、シオンさまー!」
と叫びながら鼻血を吹き出しました。
お屋敷中が萌えながらもいつシオン様が落ちないかと心配で追いかける騒ぎになりました。