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2 ファンタジー!


 日本でも食べたことない豪華な食事を頂き、お腹いっぱいになってとろ~んと意識を飛ばしていたら、クルト様の再登場です。

「食事は終わったようだな。それで、服を所望していたな」

「ああ、はい。ここにいても違和感ない服をです。この恰好でうろうろしたら怪しまれるでしょう?」

「そんなことはないが、其方が希望するならとこれを持ってきた。着替えるといい」

「ありがとうございます――で、何故微動だにしないのですか?」

「ん? 着替えるといい」

「いえ、だから、着替えるから外へ行ってくださいよ」

「ああ。あちらが湯殿だから、其方が行くといい」

 へいへい、わかりましたよ。


 そういえば、部屋の間取りを確認していなかったと我に返り、後で調べようと心に誓いながら扉を開けると――うわぁぁ……豪華ですねぇ……何でしょう?この無駄に広い浴槽と浴室は。おまけにキラキラしいし……。


 渡された服を広げてみると、女性用か男性用かよくわからないつくりをしていて、丈が長かったので、ベルト替わりと思われる布で丈を合わせて着込んでみました。物語であるような、えっと、魔導師みたいな人が着るような、膝下くらいまであるローブを羽織って完了です。

 湯殿から出ると、扉の近くにクルト様が待ち構えていたことに驚いたことは内緒です。


「――」

「え? どこか変ですか?」

「いや。まあいいか。腰ひもはもっと下で結ぶのだがな」

「後でリンジーさんに教えてもらいます」

「其方の身長に合った動きやすい服を用意しておく。それまで、これで辛抱してくれ」

「はい。ありがとうございます。で、早速お勉強ですよね?」

「ああ、これから行くところがある。其方が知らないと思われる重要なことを最初に教えておく」

「助かります」


 白いフードが常備のクルト様なので相変わらず顔はわかりませんが、身長が高い彼について部屋から初めての一歩を踏み出すと――えぇ……通路も豪華ですねぇ。さすが王宮ですねぇ……どこもかしこも触りたくないですねぇ……壊したら弁償できませんよ。

「道順を頭に入れておけよ」

「あ、はい」

「それと、これを携帯しておけ。これがあれば、どこにいても咎められない」

 渡されたのは、エンブレムが施された木片でした。身分証と思って大事にしましょう。今の私を証明してくれる唯一の物ですからね!

 いそいそと袖のたるみに仕舞うと、どこに仕舞ってやがるというような威圧を感じたので聞いてみれば、ちゃんと足の脇辺りにポケットがあるそうな。いやはや。


 そして連れていかれた先は、何やら見たこともない機材がいっぱい!おお!いよいよファンタジーっぽくなってきました!浮かれてでもいなきゃやってられません!

 他にも人がいらっしゃいました。この世界に来て、三人目の方との出会いです。

 おお。私の美的感覚から言えば、イケメンさんです。ちょっとミステリアスな雰囲気が素敵な男性。

「ラウル」

「はい、クルト殿」

「一緒に異世界から来たこの者に、魔法を教えてやってくれ」

「やっぱり、魔法があったんですね」

「魔法も知っているのか?」

「は? 一緒に来た聖女様は魔法を知らなかったのですか?」

「ああ。初めて見て驚いていたが」

「私も現実で見るのは初めてですが、魔法というものを使えなくても、そんな概念はありましたよ。あちらの世界では、ファンタジーという部類の物語では定番でしたから」

「ほう。貴女は魔法を見ても驚かないと?」

「あ、初めまして。ハル・クメと申します。ああ、いいえ、名だけを名乗るのでしたね。ハルです。よろしくお願いします」

「私は、ラウル・モンフォール。身分が高い者は、ファミリーネームも名乗るから覚えておくといい。それと、相手の身分が高ければ、先に名乗ってもらわないと危険だ」

「そ、そうですか。ご教示ありがとうございます。気を付けます」

 知らないと本当に命の危険がある!モンフォール様の器がでかくてよかった!

「私は平民の出だ。だが、宮廷魔導師の称号を貰っているから名乗るだけだ。気にしなくていい」

「おお! 魔導師様ですか! 魔法に長けていらっしゃるんですね!」

「くくっ。其方は好奇心も強かったか」

「目の前で魔法が見れるなんて凄いですよ! あちらの世界では創造物ですから。でも、危険なものでもあるんでしょうから、そう簡単なものではないのですよね?」

「ああ。貴女は理解が早いな。魔法は生活と密着していても、力が強い者は敬遠もされる。魔力が高ければ、それだけ人を害する力が強いうということだからな」

「でも、そんな方たちがいるから、暮らしの安定が図れるのでしょう? 魔導師様達が国の安全を守っていらっしゃる。で、今回の魔族討伐にも行かれるのでしょう?」

「――貴女のように考える者は少ない。貴族の令嬢たちなどは我々魔法士を毛嫌いする者もいる。騎士と同様にな」

「それって、感謝を知らないからですよ。そうですかぁ。どこにでもジレンマはありますねぇ……」

 遠い目になっていると、背後から新しい声が飛び込んできました。

「こちらでしたか。探しましたよ、クルト殿。聖女殿が呼んでいました」

「――俺は今忙しい。適当に王太子殿下でも宛がっていればいいだろう」

「――そうですか」

 またまたイケメンさんのご登場ですが、もしかしたら騎士様でしょうか!きっとそうですね!帯剣してますものね!カッコイイ制服ですよ!

「おや? こちらの服装をしていたので気づきませんでしたが、目が覚められたようですね。私はヴォルター・アマーストと申す。お見知りおきを」

「初めまして。ハルと申します。よろしくお願いします」

「ファミリーネームは何と?」

「クメ、です。ハル・クメ」

「貴女の名前は憶えやすい」

「聖女様の名は、発音しにくいでしょうね」

「そうですね。ですからご本人は、ヒメと呼んでくれと仰っていましたね」

「でも、皆さん聖女様と呼んでいると?」

「ええ、まあ」

「こちらの世界は、愛称を呼ぶのは決まった相手だけですか?」

「ああ、その通りだ。察しもいいな、其方は」

「はぁぁ……常識を覚えるのに苦労しそうです……細かいルールがいっぱいありそうですよ」

「平民に拘りはない。ルールが厳しいのは、貴族だけだ」

 平民出身と仰ったモンフォール様が励ましてくださいます。

「ありがとうございます、モンフォール様。希望の光が見えてきました」

「ラウルでいい。堅苦しいのは好きではない」

「あ、はい」

「なら、私もヴォルターで構いませんよ」

「え。ヴォルター様はどう見ても貴族の方とお見受けしますが? それを口にしたら殺されませんか?」

「そのような狭量で野蛮な騎士は私の部下にいませんよ。それに、貴女は騎士を毛嫌いしていない。それだけでも、貴女の評判は騎士たちの間では上昇気流でしょう」

 どうでもいいことですが、こういう時、あっちでは鰻上りって言いますよね。こっちには鰻っていないんでしょうね。残念だ。美味しいのに。

「部下ですか。もしかして、団長様ですか?」

「ええ。近衛騎士団の副団長を仰せつかっています」

「ですよね~。見たままですね~。鍛えた筋肉が隠れているんでしょうねぇ~」

「おい」

「あぅ」

 頭に手が圧し掛かってきていますが!クルト様!重いですが!

「女性が何を想像している――」

「いえいえ。癖みたいなものですよ」

「癖?」

「その専門の仕事特有の癖ですよ。例えば武闘家の方って、相手の動きとか筋肉の動きを目で追うって聞いたことがあって、それを日常でもやってしまうような、そんな癖がないですか?」

「ほお。貴女はそんなことまでご存じか。ええ、我々騎士は、常に相手の初動を見て判断しますからね」

「で? 其方は、どんな仕事だ?」

「それは――役に立たない事なのでどうでもいいです。そんなことより、手が重いですが! 魔法を教えていただけるのでは!」

 時々、ぐりぐりと無駄に頭を揺すりましたよね!痛いですが!

「まあ、初歩的な魔法はこれだ」


 顎が外れそうなくらい大口を開けて、目の前の光景を食い入るように見つめています!

 だって!掌の上で!水!水の玉が浮いているんです!

「凄い! もしかして、火とかも出せるんですか? 熱くないんですか?」

「ああ。魔法士本人はな。だが、他人が触れば怪我をすることになる。魔力で生み出した本物の火だからだ」

「ほぉお。もしかして、火属性というんですか?」

「ふ。其方の知識量は面白いな。その物語という代物を好きだったのか?」

「ええ! そりゃあ勿論ですよ! あんなに面白いもの読まなきゃ損ですよ。こうやって目の前で見れるなんて幸せ者です!」

「くくっ。それはよかったな」

「それでそれで、種類はいくつあるのですか?」

「四大元素の火、水、風、土と、光、闇の六属性だな」

「なんとなく想像できます。じゃあ、光というのが聖女様が使えるんですね?」

「そうだ。光は即ち聖なるもの。聖女以外にも使いこなす者達が神官を務めている」

「神官様もいらっしゃるんですね。そしたら、闇が魔族?」

「基本はそうだと文献にある。だが、闇属性を扱える魔法士も存在する。種類はそんなに多くないがな。扱いが難しい属性なのだ」

「へ~。魔法が使えたらどんなことができるんでしょうね。暮らしに密着といっていましたが、どんな魔法が?」

「魔法具という代物が生活に使われている。歴代の魔法士が開発したものだ」

「魔法具! おお、面白そう! その魔法具は誰でも使えるんですか? 魔法を使えなくても?」

「貴女は、限られた者しか魔法が使えないと思っているようだが、人は皆魔法が大なり小なり使えるのだ。だから、魔法具を使いこなせる」

 え――じゃあ、使えない私の生活はどうなるの……?

「――其方は使えるか分からないから不安だと思っているのか?」

 急に無言になったのでバレたようですが……仕方ないでしょう……聖女様は選ばれた人間だから使えるけれど、間違って来た私が使えるわけが……。

「まだ、分からぬぞ。そのために、其方をここに連れてきた」

「へ?」

「これに手を翳してみるといい。貴女に魔力が備わっているか分かる」

 反応しなかったら、絶望しかありませんよ……。

「怖がる必要はない。生活の保障はすると言ったはずだ。万が一魔力がなければ、それ相応に考える」

「本当に?」

「ああ。二言はない」

「……ありがとうございます……それで安心しました」

 お墨付きをもらったので、深呼吸しながら水晶玉のようなものに向き直りました。指示通り、それに手を翳します。

 ん?――小さな光が出現しました。その光が徐々に大きくなってきて、球体の中に安定した光の球体が出来上がりました。

「ほぉお」

「問題ない。貴女にも魔力が備わっていた。魔法陣の影響を遺憾なく受けていたようだな。言葉を理解しているから間違いないと思っていたが、これで証明された」

「ほ、ふはぁぁ……よかった。ん? じゃあ! 私も覚えたら、さっきの火とか使えるんですね!」

「くははは!」「はははは!」「ぷくくっ」

 ん?

「其方はもう立ち直ったのか! あれだけ怯えていたくせに!」

「生まれた時から知っている人と一緒にしないでください! 知らないことだらけで怖いんですからね!」

 顔が見えないフード男を睨んだところで、どこが目かわかりませんけどね!

「魔法に興味があるならここへ来るといい。聖女殿の訓練以外の時間なら私が見てもいい。私がいなくても、ここに入って魔導書を見ても構わない」

「ありがとうございます! 是非!」

「そこにある魔法陣内であれば、どんな魔法を試しても暴発したりしないからいろいろ試すといい。基本を習得すれば、後は貴女次第だ」

「はい、師匠! よろしくお願いします!」

「師匠、ねぇ。俺が教えるのに、俺とは随分態度が違わないか?」

「お? では、大先生とお呼びします!」

「はははは! だ、大先生っ。あははは!」

「――ヴォル――其方、死にたいようだな?」

「こほん。いえいえ、滅相もありません」

 お二人は、仲がよろしいですね。へ~、愛称で呼ぶ仲ですか。男同士なら呼ぶんですね。女性は女性に聞いた方がいいかも。リンジーさんに教えてもらいましょう。

「――大先生はやめろ。クルトでいい」

「はい!」

「其方は、返事だけはいいな」

「挨拶、返事は対話の基本です!」

「それはそうだが――何かこう釈然とせぬ――」


 こっそりヴォルター様とラウル様が笑ってらっしゃいますが、まあ、ご愛嬌といきましょうよ!





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