5話です
「はぁ~、なんて愚かな。」
「前任者は何も教えなかったのでしょうか。」
元管理者と名乗った少女が盛大にため息をつくと、女性、橋渡しの魔女が疑問をていした。
けれど、橋渡しの魔女は疑問を持ったというよりは答え合わせをしている雰囲気だ。
多分だけど橋渡しの魔女は管理者のことをよく知っている。
そうでなければ、世界をつなぐ役割を担わないだろうし、こうして元とはいえ管理者と一緒にお茶を飲んだりしないだろう。
まあ、同じ席に座ってお茶を飲んでいる僕もどうかと思う部分があるが、これはきっと逆らっては駄目なパターンだ。
「教わらなければ引き継ぐことなどできない。」
「じゃあ、」
「世界が未熟過ぎて一時的に管理を任せても大丈夫と判断したのか、それとも奪ったか。まあ、どちらにしろ例外以外で理を破って世界の境界に穴をあけたのだからその付けは払ってもらわないと。」
「例外があるなんて聞いたことがありませんが。」
定型句のような会話を元管理者の少女と橋渡しの魔女はしていたが、元管理者の少女が発した例外という言葉は橋渡しの魔女は知らなかったようで本気で驚いているように見えた。
二人を見ていると親しいなかであるのはわかるが、意思伝達が簡単にできるほどのなかではないらしい。
もしかしたら、橋渡しの魔女はアドリブに弱いのかもしれない。
「ここは偶発的か必然的か含めていついかなるどんな過程も関係なく来る者すべてを受け入れ、世界を渡ることができる理で定めた唯一の場所。例外を知ってるかどうかなど無意味。其方の前任者はそう考えたのだろう。もしくは、前任者も例外を知らなかったか。」
「ここの特異性を改めて実感させられるお言葉ですね。それで例外とは。」
「貴女、相変わらずしつこいわね。少しは前任者を見習ったら。本当、いい奴をなくした。」
元管理者の少女の意味は僕でもわかった。どんな経緯、理由があるにせよ結果は変わらない。ここはそういう場所。だから僕も頼ってここに来たのだが、いまさらながらそれを再認識した。
それでも、橋渡しの魔女は例外というのがとても気になっている様子だ。
僕としては、橋渡しの魔女にも前任者いたことと、死んでいたことの方が気になるのがそこはつっこんで聞いてもいいのだろうか。
「勝手に殺さないでください。自分の後釜の助手に連れて行ったの誰ですか。それに、奔放でも大雑把、細かいことを気にしないわけでもなく、ただ貴女がここにいることを気にしないようにしただけです。あと、いい加減、例外と名前を何とかしてください。」
前言撤回。前任者は元管理者の少女によって誘拐されたらしい。そして、橋渡しの魔女は元管理者の少女に若干迷惑? の迷惑をかけられているようだ。
「私はこうしてお茶のみに来ただけなのに、ひどいいいかがりだわ。」
「どうしても、例外と名前を教えないつもりなのですね。」
「しつこい人は好ましくない。貴方もそう思わない。」
出口が見えない堂々巡りをするかと思ったら僕の方に飛び火した。
気持ち的には元管理者の少女に肩入れした方がいいような気がするが、実際、元の世界に戻すのは、橋渡しの魔女。うんと言えば、きっと僕は帰れない。
なんで望んでもいないのに修羅場にも似た雰囲気を体験しているのだろうか。僕は早く対価を払って帰りたいだけなのにな。
そういえば、対価って何だろう。
「あの、世界渡るときの対価ってどうすれば。」
僕は、空気を読めない人をよそおって話を強引に変えた。
だって、どう言っても答えなどない気がする。それなら自分のことを優先しても問題はない。・・・・・・はず。
「それなら安心しなさい。対価は。」
元管理者の少女が言うと、右腕をまっすぐに伸ばしまるで綿あめを作るかのように手首を円を描きながら動かしだした。
「これでいいわ。」
何を持っているのかわからないが、元管理者の少女は手? 腕? についている何かを興味深そうに見ていた。
見えない何かで思い当たるのは自称女神が最後に僕に吹きかけた息ぐらいしか思い浮かばない。何かついてるようなことを言われた気がするし。
けれど、管理者の世界における基礎のようなものなのかもしれないが、そんなのを集めてどうするのだろう。
「勝手に対価を決められると私の立場がないのだけれど、それは何。」
橋渡しの魔女は、不満があるというように言葉を並べるが、出している言葉はあきれているように聞こえる。そして、僕と同じで集めた何かが気になるようだった。
「この子があった未熟者の残り香。こんなにはっきりと残ってるのだから十分な対価になるわ。」
「それは貴女にとってでしょう。」
「私がこの子を送るから問題ないわ。その方が何かと都合がいいし。」
「貴方がそこまで個人に固執するなんて初めて、じゃないか。師と合わせて2度目。」
「固執ねえ。それでは不正解よ。正解はこの子の呼び出された特殊な環境よる他の管理者のもどきのしりぬぐいよ。」
「管理者やめたのに。」
「管理者やめたからよ。理を無理に捻じ曲げるなんて私の矜持に反する。」
「好きにすれば。その代わり後で、場所代はいただきます。」
送られる本人不在のままあれよあれよと話が着々と進み、どうやら僕は元管理者の少女の下に置かれるようだ。
友達の友達は友達としての関係性は薄く、共通の友達がいなくなれば若干気まずい雰囲気になると聞いたことがあるがきっと今の空間がそれなのだろうか。
「さて、お茶も飲んだことだしそろそろ始めましょうか。そうしないと場所代だけじゃなくてお茶代も取られそうだし。」
「それだと、貴女破産するんじゃない。」
元管理者の少女が立ち上がり言うと、橋渡しの魔女は冗談かどうかもわからない言葉を付け加えた。
いったい僕は、何を飲んだろう。
空になった湯吞を眺めた。
「安心しなさい。ただ、あの人がここで呆れるほどお茶を飲んだだけだから。」
橋渡しの魔女はそう教えてくれた。
どうやら、塵も積もれば、というものらしい。
「あら、そうなの。なら、今度差し入れしてあげる。それより、君、そこに立って。送るから。」
僕は、橋渡しの魔女にお茶のお礼を言うと軽く頭を下げた。そして、元管理者の少女の言われるがままに指定された場所に立つと他の世界に渡った時のように足元が光りだした。
教室にいたときは確認する間もなかったが、僕を帰してくれる魔法陣には太陽と月、そして、鳥が書かれているような気がした。
読んでくださりありがとうございます。
多分、後1話か2話?続くかと思いますが、お付き合いいただければ幸いです。