ダンジョン行きたい
タイトル、自分でも適当さがわかる。
チーズバーガーを食べた日のお昼、詩鶴はあることを考えていた。
それは、やっと変動があったスキルのことだ。
つまり、CPの増やし方だ。
修練で増えるのならば、実戦ならもっと増えるのではないか、と思ったのである。
最近習ったことなのだが、スキルも実戦の中で使うほうが経験値も高いらしい。
昼ご飯を食べながら、どうやって抜け出すかを考え始めた。
まず、部屋を抜け出さなければならない。
部屋にはほぼ常にハスミンがいるので、ばれるのは確実だろう。
これは、もうハスミンには真実を伝えて、協力してもらうしかない。
ハスミンの協力があれば、部屋にいないときの対処もクリアだ。
一番の問題は、この城からどう抜け出すかなのだが。
抜け穴があればいいのだが、そんなのが普通に見つけられるところにあるはずも無く、考え込む原因となっている。
お昼休憩が終わり、訓練するために訓練所へと向かう途中、アイリスとばったり会い、挨拶してきた。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
まあ、可愛い子との会話はまだなれない。
しかも、それがこの国のお姫様となると、さらに難易度が上がる。
そのまま通り過ぎようとして、慌てて呼び止めた。
「あ、アイリス!」
「ふぇ?な、何ですか!?」
「少し、大事な話なんだけど……」
そう言って、アイリスに近づき耳元で言うことにする。
アイリスならいえるが、それを周りで護衛している騎士達に聞かれるとまずい。
アイリスも王族だが……まあ大丈夫だろう。
力を貸してくれる、そんな気がする。というか、応援してくれたアイリスを信じたい。
「はぅ~、ゆ、勇者様!?」
「もう、自分も言ってるじゃないですか。もっと、軽い呼び方で良いですよ」
「そんな場合じゃ……、うぅ」
なんか、アイリスの声が艶を帯びていて……とってもエロイです。
あと、護衛の騎士達の顔も強張っているような……気がする。顔はヘルムで隠れていて、見えないから勘だけど。
でも、視線が厳しくなっているのは確か。独特な重みを感じる。
「し、しずる、…様」
「だめですよ、様なんてつけちゃ」
だけど、止めない。
だって、もうエロイし可愛いから。
ドキドキしているが、天元突破していつも感じている様な緊張せずに会話できている。
「し、ず、る……」
「うん、アイリス。頼みが有るんだけど、良いかな」
「は、はいぃ」
「やっと、スキルの使い道がわかったんだけど、俺の考えではダンジョンに入ればもっといろんなことが出来る気がするんだ。だから、この城を夜の間だけでも抜けたいんだけど……」
そこで、一回言葉を切り、顔を離す。
アイリスも王女様だから、男には慣れていないのだろう。顔を赤くしている。
まあ、俺も同じなんだけど。
「協力してくれないか」
「わかりましたぁーーーー!!」
そう言いながら、走り去って行ってしまった。
さすがに耐えかねたようだ。
騎士達もいきなり走り出したアイリスを追いかけていった。
しっかりと、俺のことをにらみながら。
肩が当たるのも急いでいるから仕方ないのだろう。
全員のが当たるのは、凄い偶然もあるものだが。
しかし、俺もそれを甘んじて受け止め、何も言わない。
「やってしまった……」
さっきのことを後悔していてそれどころでもなかった。
訓練も終わり、晩御飯も食べ終え部屋に戻った。
ハスミンにも、事情を話し了解は取っている。
「頑張ってね」、だった。心配してないんじゃなく、凄く応援していることからの言葉だ。
これだけで、いくらでも戦える!といった感じだ。チョロとか言うなよ。
「し、しずる……?」
「アイリス?」
「はい、えっと、こっち来て下さい。抜け道まで案内しますから」
そんな簡単に、知り合ったばかりの男に教えて良いんだろうか?
自分で聞いておいだがそう考えてしまった。
「しずるだけ、ですから」
うん、めちゃくちゃうれしい。
萌え死ぬかもしれない。
それを必死に抑えながら、アイリスへと着いていった。
アイリスが何も無いところで立ち止まり、壁に触れると階段へと続く隠し扉が開いた。
「ここを道なりに行けば城の外まで出れます。お気をつけて……それから、帰ってきてくださいね」
頬を赤らめながら、そう言ってくるアイリス。
正直、このままここで見ていたい。
いや、お、お持ち帰り?
「ありがとう」
気持ちを抑え、もう必死に抑えて走り出した。
すぐに、後ろで扉が閉まる音が聞こえると、部屋の蝋燭に勝手に火がついた。
それよりも―
「何でいるの?ハスミン」
「護衛だから、です?」
「いや、疑問系で言われても困るんだけど」
留守中のごまかし役を頼んだハスミンも着いてきてしまっていた。
確かに、これで帰えって来ない、なんてことになったら大変だ。
監視を付けるのはわかる。
「いや、部屋に誰か尋ねてきたらどうするのさ」
「ああ、あそこは勇者の部屋でも一番グレードの低い部屋ですから、取り入りたい貴族も寄り付ませんし、侍従も一人一人付いているので来ることが無いですね。まあ、一応お休み中としてあるので大丈夫です」
「この世の不条理な格差を実感した」
「ふふ、あの部屋は不満ですか」
「他のグレードの高い部屋がどうだかわからないけど、満足してるよ。ハスミンのおかげもあるけどね」
「お上手ですね。でも、うれしいです」
うん、俺もその笑顔見れただけでもうれしい。
いろいろ、思うところもあるが急がなければいけない。
時間は有限なのだ。
これ言ってみたかった!!
実際、みんなが起きてくる前までには戻らなければいけないので、時間が無い。
最低でも三時間くらいは寝る時間も欲しいので、さらに限られてくる。
少し駆け足で進むのだった。
数分で、また階段が見え、そのままのペースで登ると、出口が無かった。
入り口も隠し扉だったので、隠されているのが普通だと考え、探す。
天井を押すとやはり、少し浮き上がった。
そこから這い出ると、小屋のようなものの中みたいだった。
帰りも使うため、出てきたところに嵌っていた石で出来た床の一部を直すわけにもいかない。
「どうしたものか」
「シヅル、どうしたんですか?早く、床直してください。誰かに見つかったら困ります」
「いや、でも入れちゃうと、帰りどうするの」
「ああ、そういうことですか」
ハスミンは、俺の手から床の一部を持っていき、嵌め込んでしまった。
「こうして、二回叩けば」
ハスミンは嵌め込んだ場所へと、つま先で軽く二回叩く。
すると、石の床が浮かび上がり、横にずれた。
「開きますよ」
「魔法すげぇー」
やはり、魔法は凄かった、改めて感じる出来事だった。
床をまた直し、小屋の扉から外に出ると、暗く細い道に出た。
左を見れば、明るく広い道が見える。
「あれは、メインストリートですね。王都の真ん中にある、王国で一番広くて長い道です。いろんな店が並んでますし、ダンジョンへも続いています」
「じゃあ、そっちに出ようか」
俺は、道に迷うなんてことは考えていない。
ハスミンがメインストリートに詳しそうだったのもあるが、自分が覚えることが得意で初めて行った場所でも道を覚えることが出来る、というのが大きい。
明るい大きな道、メインストリートに出るとこの遅い時間だと言うのに、人でごった返していた。
「じゃあ、ダンジョン行きますか」
「そうですね、楽しみです」
ハスミンが大体の場所は知っていたので、案内を任せて詩鶴は周りを見て歩いていた。
多種多様な店で溢れかえっており、日本では見たこと無い武器や道具やなるものもあった。
服屋には、見たことも無いような服もあり、大いに楽しめた。
数分歩くと、人の数も増えにぎやかになってきた。
周りには、さらに剣や防具を売っている店や、回復薬などを売る店、何より酒場が増えた。
周りの人も、防具をつけた人が多い。
意外にも、女性の姿も何人も見かけられた。
「女性も意外といるもんだね」
「まあ、冒険者は男女ともにあこがれる職業ですからね。当たれば大もうけできる、強ければ憧憬のまなざしを向けられるなど、自分の努力が結果として現れるものですから」
「へぇー、じゃあ、ハスミンも?」
「私は、こっちのほうが性にあってますね」
そう言って、一回転して笑った。
その際、メイド服のロングスカートがひらりと舞い、とても絵になる光景だった。
周囲からも注目を集めるほど、輝いているようだった。
「ハスミン、目立ってる、目立ってるから!」
慌てて、手を掴んで人通りの少ない方へ退散する。
迷わないように、主意はしっかりと確認しながら。
「すみません、少しこのシチュエーションに興奮してしまって」
「こういう機会無かったんだ」
「まあ、夜は危険ですからね」
「ああ、なるほどね……ん?危険なの?」
「はい、特にこの辺りは酔った冒険者がいるので絡まれやすいですね」
もう少し早く言って欲しかった。
まあ、もう手遅れっぽいんだけど。
「おう、坊主、そこの女置いてけや」
おー、まさにテンプレのような悪党。
まあ、小者臭が半端じゃないが。
「逆らうつもりならやめとけ、俺らはここらでは有名なCランクの冒険者だからなぁ」
うん、Cランクがどれだけ凄いかわからないけど、凄い小者っぽい。
それと、また近くに誰か来たな、これ以上増えるとか面倒なんだが……。
「おい、何やってるんだ!」
「ん?誰だ……って、聖槍のエリオット!?」
なんか、強そう。
二つ名って大事!
そこには、女を3人連れた男がいた。
リア充イケメンだった。
「ちっ、邪魔しやがって」
そう言いながらおっさん二人はメインストリートの方へと戻っていった。
「大丈夫だったかい?」
俺でなく、ハスミンへとそう声かけるイケメン。
まあ、そうだろうとは思ったけどな。
はあ、やはりイケメンの保有スキルにはナデポなどの女を落とすものが常備されているのだろう。知らないけど。
そう思って、ハスミンを見るととても不満そうだった。
「邪魔しないでください」
とっても不満のようだった。
そう言って、俺の手を引っ張るとダンジョンへと向かっていった。
俺は、引っ張られながらも頭は下げてお礼をしておく。
すぐに、ダンジョン前に着いた。
二人で入ろうとすると、入り口の傍にいた衛兵に止められた。
「待て待て、冒険証はどっちが持ってるんだ?」
「ハスミン冒険証とは?」
「さあ?」
「持ってないですね、では」
そう言って歩こうとすると次は腕を掴まれた。
「待てって、冒険証を誰か持ってないと入れないんだって」
「ハスミーン」
「私も初めてなので、こういうこともありますね」
衛兵の兄ちゃんから説明してもらうことにした。
「すいません、どうとればいいですか?」
「はあ?知らないのか?どこの貴族様だよ……」
「ハストン家ですが」
その一言で、周りが一気に静かになった。
「マジ……ですか?」
「はい、ハストン家の次女のハスミンと申します」
「し、失礼しました!!」
なんだかわからないが、ハスミンの実家が凄いらしい。
聞いた衛兵の兄ちゃんが、ぶるぶる震えながら土下座するくらいには。
「えっと、冒険証が欲しいんだけど……」
「すいません、お許しを!」
全く、話が聞ける雰囲気ではなかった。
「ハスミンさーん」
「えっと、別に気にしていないので、冒険証のこと教えてもらえますか」
「も、もちろんです!」
衛兵の兄ちゃんは、嬉々として語りだした。
「冒険証は、ダンジョンのテレポート機能を使うのに必須のもので、さらに身分証の代わりにもなります。とり方は、すぐそこにある冒険者ギルドから登録すればもらえます」
「ありがとうございます。行きましょう、シヅル」
「あ、うん」
ハスミンの実家のことは後で考えるとして、今は冒険者登録をしに行くことにした。