新しい部屋
詩鶴は近くから見ると首が痛くなるほど見上げなければいけないほどの学校を見ていた。
周りを確認すると、ほかの人も同様のようで皆驚きで固まているようだった。
一部の男子は何やら興奮しているようだが、今はそれどころではない。
「異世界に来てまで学校に通わされることになるとは……これいかに」
「鶴ちゃん、私明日から風邪ひくから」
「大丈夫だ。俺が無理やりにでも連れてってやるから」
「うぅー、勉強やだよ~」
まあ、こいつのこの反応もいつも通りだ。
他の奴らも、ようやくこの学校の驚きから醒めてきたのか、話し合いがあちらこちらから聞こえてくる。
不安、歓喜、希望、殺気など……。
なんか、一部変なのも混じったが、ここはおいておこう。
「では皆さんもうすぐに登録が終わりますので準備してください。………終わったようですね。では、中に入りましょう」
案内の人にまたついて行き、また歩く。
隣の女がうるさいが、O☆HA☆NA☆SHIをすると、大人しくなった。
静かになった燈華は黙々と俺の後をついてくる。
こうしてみると、上品に見え、どこかのお嬢様のように見えなくもない。
喋らなければモテるのにね、とはこいつの母親の言だ。
そういえば、こいつがうざくなったのはいつ頃だったか。
少なくとも、小学校まではお淑やかにしていたと思うんだが……。
そう思いながら見ていると、灯火が無言で首をかしげてくる。
目は………逝ってるな。
「あー、燈華。喋ってもいいぞ、ていうか喋れ。いや、喋ってください、マジで。目がやばいから」
最後の言葉でやっとわかってくれたみたいだ。
それから、反動なのかわからないがマシンガンのごとく喋る燈華に付き合わされたのは言うまでもない。
「ここが。これから勇者様達に暮らしてもらうことになった宿舎です」
外側はとても煌びやかで、豪華な感じがする。
いや、そんな豪華な所をいくつも見たことないけど。
周りを見渡すが、意外とこれには驚いている人が少ない。
なんか裏切られた気がする。さっき、みんな驚いてたじゃん!
なんの違いがあるのかわからないが、ここにいる奴の半分くらいはお嬢ちゃん、お坊ちゃんなので、明確な違いがあるのだろう。
豪華なのは、外側だけでなく内装もドラマでしか見たことないシャンデリア………いや、最近城でも見たか。
一気に、新鮮さがなくなったが、気持ちを切り替えて。
「なんか城より豪華な感じはしないよね?」
それを俺に聞くな、燈華。
俺は、この新鮮さというものを感じたいんだ。
わかってても、しゃんでりが小さいことも、階段もなんかそこまですごく見えないのも、壁にかかっている絵画は…わからないが剣などの武具も安そうな感じがするのも言ってはいけない。
「急な話だったので、こんなところですが、どうかご了承ください」
ほら、絶対急に作らされたんだよ。
だってあった場所も、明らかに学校前にあった広いスペースに無理やりって感じだったもん。
だから、そこの男子生徒不満な顔をするんじゃない。
お前らの部屋がどんな豪華で、俺のとどれくらい違うかは知らんがこの人たちも頑張って作ったんだ、文句を言うな。
「はあ?こんな小さいのかよ」
おーい!そこの不良!話も聞かないで部屋のドア開けるわ、文句は言うわとか、どんだけ礼儀がないんだよ。
ほかの奴らも、今の言葉聞いてがっかりするなよ。
どんだけいい部屋もらってたんだよ。
段々と自分のもらってた部屋が、どれだけグレードの低いものだったのかを思い知らされ、気持ちが落ち込むが、逆に考えればここでもあまり変わらない生活ができるということだ。
まあ、部屋で使ってたのはベッドと、机にソファーであとは、ハスミンがいればすべて事足りたのだけれど。
案内の人も、凄く顔青くしながら部屋割りを話し出す。
あらかじめ、執事やメイド達には伝えてあったのか、この世界に来た時と同様に案内してもらうこととなった。
のだが……。
「ねえ、ハスミン」
「なんですか?」
「結構奥来てない?」
「まあ、一番奥の部屋ですから」
ハスミンから、部屋の詳細を聞くとどうやらここでも城でのグレードが生かされているらしい。
それに加え、ここ最近の俺への妬みも加わり最悪の場所となったようだ。
詳細を聞くと、出てくる出てくる悪いところが。
部屋数が足りないことに気づき、急遽離れたところに作った監視部屋を作り替えたところだの、日当たりがすごく悪いというか一日中日の光が入ってこないだの、窓がないだの、部屋が狭いだのと………。
「え?いじめじゃない?」
「まあ、一種の有名税?みたいなものですね」
「理不尽だ……。これが、格差社会なのね」
補足で、今の監視部屋はもうちょっといい部屋のようだ。
いや、そっちくれればいいんでない?と思っても仕方ない。
部屋に着くと、ドアのそばにはろうそくが灯っており、何とも雰囲気がある。
ドアもなぜか材質がほかのものと違い、普通の木っぽい。
「ねえ、マジでここ?」
「はい。雰囲気ありますね」
いや、それ思ったけどそうじゃなくない?
さっきまで魔石を明りに使ってたじゃん。なんでこころうそく?
それに、さっきまでは磨かれた石のような扉だったのに、何でここ木製なの?
「いや、俺黴るかもしれない」
「私が阻止します!」
「うん。張り切ってるところ悪いけど、そういう問題じゃないです」
ひとまず中に入ると、そこは―
「地下牢に近いですね」
いやーーー!言わないで!!
思ったけど、壁一面壁で思ったけど、明りもなんか微妙に暗いし。
ああ、ついに精神攻撃をしてきたってことか。
上を見ると、天井が異様に高い。6メートルくらいありそうだ。
「ああ、ここの天井が高いのは、スペースを広げるためって、ここに書いてますね」
ハスミンが開いたか意味を見せてもらう。
そこには既定の広さ以下にならないように、縦に広げると書いてあった。
広げるの前に誤魔化すと書いてあり、二重線がひかれているのは気にしないことにした。
「手抜きが過ぎるでしょ」
「シヅル、紅茶入りました」
「ありがとう」
ハスミンの入れてくれた紅茶を一口飲む。
とても温かく、染みわたった。
まあ、住めないことはないと思う。
2ヶ月の我慢だ。それに住めば都という、住んでみないとわからない、いいところが見つかるかもしれない。
食事の場も小さくはないが、大きくもないほどだった。
まあ、貴族たちがいないのでゆっくりできるのはいい。
変態も新しい場所で興奮しており、こっちに来ないのも助かっている。
食べ物も、城でのものよりはやはり落ちるが、美味しいので問題ない。
一つ問題があるとすれば、ここに来るのに時間がかかるくらいだ。
この場所があるのが、入ってすぐの場所から階段を上がり3階のすぐの所にある大部屋だ。
つまり、なぜか1階だけ奥行を長くし作った、俺の部屋からはとても遠いのだ。
「鶴ちゃん。考え事?」
「ん?いや、まあ、あれだ。あれ」
「なにかは、わからないけどわかったよ」
燈華がアホなのを再確認し、食事を再開する。
部屋のこともそうだが、明日からはこの学校で学ぶことになるのだ。
少し、わくわくしてきた。
食事を早めに食べてしまうのは、そのせいだろう。
その、気持ちも食事を終え、部屋へと帰る道のりを歩くうちに暗くなった。