クラス転移
昼休み、楽しみにしていた昼休み。
俺が、お弁当を持ち外に行こうと思ったときに、そいつらは来た。
教室がギスギスしている。
いじめが発覚したのだ。
来たのは、生徒会、風紀委員の数人、校長、あと怪我をしていたことを証明する養護教諭だ。
担任が学年主任なので、他の教師は来なかった。
被害者は、俺……ではなく俺の隣にいる富田奏太だ。
話をしたときに、言っても酷くなるだけだから、言うつもりはないって言ってたから、誰かが言ったか、学校側で見つけたのだろう。
恋人や友達と食べようと嬉しそうに教室に入ってきた他クラスの人も固まっている。
何人かは出ていった程だ。
「それで―」
担任が話を切り出す途中で異変は起きた。
教室が、一瞬のうちに別のどこかの部屋となった。
さっきまで明るかったLEDライトの光ではなくなり、弱々しい光だけの部屋。
そのため、薄暗く怪しい雰囲気だ。
「異世界の方々ですか?」
暗闇の向こうから声がかかってきた。
足音が聞こえ、だんだんと輪郭も見えてくる。
そして、その全貌が見えた。
顔は整っていて、気品溢れ、輝くように見えるほどの美しさを持った美少女だった。
「あ、あなたは?」
完璧イケメンのリア充君(名前は覚えてない)がそう聞き返した。
この意味不明な状況の中聞き返せるのは流石だ。
少なくとも俺には出来ない。
「申し遅れました。私はここアレーリ王国の第一王女、アイリス・ヴィエリ・ルー・アレーリです。気軽にアイリスとお呼びください」
「ぼ、僕は竜崎蓮哉。よろしく」
だんだんとリア充君(名前は忘れた)は調子が戻ってきたみたいだ。
最後のよろしくとか、もう笑顔が輝いていて眩しいくらいだった。
王女のアイリスさんも少し顔が赤くなっている。
「鶴ちゃん、鶴ちゃん」
隣から小声で話しかけてくる。
俺のことをこう呼ぶのはここには一人しかいない。
幼馴染の神林燈華だ。
「どうした?」
「えっとね、あの子が何言ってるかわからないんだけど、どうしよう」
「おとなしく聞いておけ」
「うん、わかった!そうするね」
こいつはかなりアホな分類に入る奴だ。
世界大会でも上位を狙えるだろう。
まあ、なぜか俺には従順なので、扱いやすいが。
「では、こちらに着いて来てもらえますか」
そう言って、また闇の中へと姿を消す。
ますか、とか聞いておいて、実際は強制みたいなものだ。
しかし、説明などもしてもらわないと言けないので、着いていくしかない。
「僕らも行こう」
こういう時に、リア充君(名前は記憶にない)は役に立つ。
先導するのを任せて、俺は人の流れに逆らわず歩いた。
途中、気になったことを(他の人に)聞いたり(させ)ながら。
「異世界の勇者よ、良くぞ召喚に応えてくれた」
(了承した覚えないんですけど!?)
所謂、暗黙の了解と言う奴だ。
違うかな……、違うな。
回避不可の強制イベントみたいなものだ。
「今、わが国は―」
「一つ!応じたことすらない、俺らをこの世界に勝手に呼び出したことについて、何かないのか?」
「お、おい、澄谷」
近くにいた、男子生徒A(名前を知らない)に小さな声で抗議される。
だが、そんなこと知ったこっちゃない。
明日届く、ゲームが出来ないのだ。
「それは、済まなかった。しかし、今この国は聞きに瀕しておって異世界の勇者に頼るほかなかったのだ。勿論、だから許せとは言わん」
その後、この国が具体的にどのような危機なのかを聞かされた。
少し前に戦略的思考を持つ魔族が起こした複数の魔族による侵略を、すべての国が一つとなり戦い辛うじて勝つことは出来た。
しかし、残ったのは少なくなった労働力、荒れた土地、治安の悪くなった国であった。
その後、もともと魔族との戦いのために集まった諸国は、バラバラになった。
自分の国のことで忙しくなったからだ。
この国もその例外ではない。
ただ、魔族の住む場所に近く、最近魔王となるものが現れたことが不幸だった。
魔王が現れたことにより、知恵があまりない魔物はともかく、知恵ある魔族は統率ある行動が増え、また力も強大のものとなっていた。
それだけでなく、魔の者の活動が活発となっていたのだ。
王国といっても、小国なアレーリ王国は信頼や、他の場所も忙しいことから他国の軍を頼ることが出来ず、このような方法となったわけだ。
「わかりま―」
「少し待て、アホ」
リア充(今ので評価がガタ落ち)が了承しようとしたのでとめる。
まだ聞くことはあるだろうし、さも総意とでも受け取られると迷惑だし厄介極まりない。
「王様よぅ、俺たちを帰すことが出来ないんだろう?あれはこちらに呼べるだけのもの。違うか?」
「何故そう思った?」
表情を買えずに聞き返してくる。
疑問に疑問で返すな!、と言いたい所だが今回は答えてやる。
「ここに来るまでに、俺たちを召喚した魔法のこととか、他の魔法やスキル。あとは術式のときの言語などを聞いてな。あれは今では再現不可能な魔法なんだろう?」
その言葉を聞き、王はここまで案内してきた王女に目を向ける。
王女は、自分の言葉でそのことがばれたことで驚いていた。
「しかし、お主も文字は読めないだろう?どうやって、あれが召喚するだけのものだと確信した」
「ん?まあ、いろいろ理由はあるんだが……王様さぁ、ポーカーフェイス本当にすばらしいよ。流石だといえるね」
王は、詩鶴の言葉に首をかしげる。
何を言っているのだと。
その顔は、そう告げているようだった。
「でも、俺が話題を切り出したときに、目が少し見開いたし、筋肉もいくらか緊張してた。それに、その後にしゃべる時の切り出しが、結構速かったぞ」
「はあ、つまり私の極僅かの反応で確信したと?」
「そうなるな」
王は、それを聞き目の前の少年を見る。
そして、一つ頷くと吹っ切れた顔で言ってきた。
「確かに、返す方法はない」
その言葉に、周りが五月蝿くなる。
気づくのが遅いし、もう賽は振られたのだ。
今頃、焦っても遅い。
「その分、生活とは保障してくれんだろうな?」
「そこら辺は気にしないでも大丈夫だ。何なら、誓約書を作ってもいい」
「誓約書ね……」
「魔法で、魂から縛る。約束を違える事は出来ない」
「了解した。では、後ほど。あと、あんたらの救済に参加するのは自由参加にしてくれ」
これは言っておかねばなるまい。
この国が滅びるのは確かに拙い。
俺たちにとってもだ。
しかし、俺たちは平和なところから来たんだ。
いくらお約束とかで力があっても、そう簡単には出来ることではないだろう。
『殺す』ことなんて
「まあ、まず訓練だろうから、そっちくらいなら万が一のためにもなる。そっちは全員参加でもいい。どうだろうか?」
「つまり、戦力が欲しければ自分たちで勧誘し、成功するようにしろと。ふはは、面白い」
クラスや、生徒会、先生方も会話の内容は理解できるが、付いていけてない。
みな、一様にポカンとしている。
俺がでしゃばるのはここまでだ。
「お主達異世界の者たちは全員、強力なスキルを一つ持っている」
あの後、言ったとおりに誓約書を問題ないことを確認し書かせた。
そして、戦力になるのか?という疑問に対しての答えがこれだった。
「僕たちには力があるですか……。それで、それはどうすればわかりますか?」
復活した、リア充がなおも質問を続ける。
まあ、こっちの世界で重要なことだ。
むしろ、もっと聞けと言いたい気分だ。
自分では言わないが。
さっきのは流石に自分にも被害が出るので動いただけだ。
「『ステータス』と念じれば出るはずだ」
王がそう言った途端、周りが静まった。
みんな試しているのだろう。
すると、ポツリポツリと何かが顔の前に現れた。
あれが、『ステータス』なのだろう。
「そこでは、自分の詳細が見れる」
俺も、念じるとちゃんと出てきた。
やはり、異世界転移。
しっかりと抑えている。
シヅル・スミタニ 《男》
スキル
『Change』《ユニーク》 : Level 1 (1/100)
結構簡易だ。
それが、俺の一番の感想だった。
もっと、なんかいろいろあると思っていたのだが。
言語理解は普通だと思うのだが、ないということは標準装備なのだろう。
スキルの詳細も、スキルの詳細を見たいと思うと勝手に新しいウィンドウで開かれた。
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level 1 : 取引所
取引所を使える
―――――――――――
いささか、簡易すぎではなかろうか?
名前のままじゃん。
「スキルは《ユニーク》、《一般》、《特殊》がある。《ユニーク》は持つのはその人のみ、《一般》は名前の通り一般的なもので持っているものも一人ではない。《特殊》は自分だけでなく、周りにも影響する。スキルのレベルは7が最高だ」
「あの、魔力とかは無いんですか?」
オタグループの一人、薮田誠一がステータスを見ながら言った。
ちらっとスキルの欄を見ると『光魔法』とあった。
確かに、魔法があるならその表示が欲しいよな。
「まりょく?というのは聞いたことが無いな。どんなものだろうか?」
「えーと、魔法を使うときに消費したりするもの?ですかね」
薮田が周りに確認しながら、答える。
首を振っているのは、まあ少なくないとだけ言っておく。
「む?そんなのは、聞いたことが無いな。そなた達の世界では、そのようなものがあるのか?」
「まあ、そんなものです」
「サウロ、説明せよ」
王のその言葉に、今まで下のほうに並んでいた中から、いかにも研究者といった感じ男が前に出てきた。
「はじめまして、勇者様。私はサウロ・ウィールドンといいます。見ての通り、研究者をやってるものなんですがね。その研究と言うのが、スキルです!スキルはですねぇ、とても奥が深く―」
「簡潔に、大事なところだけでよい」
王も、この研究者の熱いトークはうんざりらしい。
顔をしかめて、次を促した。
「了解しました。ここからがいいところだったんですが……。スキルと言うのは、その人の能力を示します。つまり、その人の価値が決まると言っても過言ではありません」
確かに、このステータスは職業レベルとか、体力というものもない。
よくあるRPGのようなものは無いのだろう。
まあ、現実的に考えてモンスター倒してレベルが上がると、強くなると言うのは変だしな。
まあ、スキルが見えてそれが使えるだけで、俺らとしちゃ変なことか。
「スキルには、その人の経験が現れます。剣を振って訓練すれば、ある一定の技量に達したときに剣術のスキルが発生します。つまり、剣術のスキルが高い方が勝負すれば勝つのがほぼ当たり前です」
「ほぼ、と言うことは、勝てないこともありますよね」
「イケメン君、君は鋭いですね。確かに、レベルが低いほうが勝つ場合があります。まずは人間なので体調などが絡んでくるからです。他には、そのスキルが低くても補助するスキルが高い場合です。心眼や、身体強化がこれに当たります」
一つ目は言われてみると、確かにそうだ。弱っているときに勝負しても力は出せないだろう。まあ、これでスキルはその人の達している技量を表しているということがわかった。
二つ目も納得だ。剣の技量で勝てなくても、剣の振る速さや力でゴリ押しは出来るだろう。
「私、剣道してたのに剣術が無いよ?」
「ばか、剣道と剣術はべつなんだろう」
クラスメイト達の話し合いが聞こえてきた。
しかし、それは男の言い分は間違っているだろう。
俺はあっちで真剣を振ったことがある。
技量も、こちらの世界の水準がかなりのレベルで高くなければ、ついてもおかしくないのに、付いていない。
それに、その人の経験を表すと言うなら、戦闘系でないたとえば裁縫などと言ったスキルもあるだろうし、違うだろう。
「それは、まだこちらの世界で経験していないからですね。少しでも経験すれば前の世界での経験によってレベルが出るはずです」
なら、早く剣を振らなきゃな。
ああ、別に問題ないのか。
表示されないだけで、技量が無いってことではないし。
「この世界では経験をつめば積んだ分スキルと言う見てわかるものに現れます。そして、そのスキルがあなた達の価値を決めるのです。なんと、面白いものでしょう!そう思いませんか!?だから私も、この研きゅ―」
「サウロ、研究で忙しいとこ苦労だった。もう戻ってよいぞ」
王がそういうと、男は嬉々として部屋を出て行った。
満面の笑みで。
「優秀なのだがな……」
王のつぶやきには、呆れと疲れが含んでいるように感じた。
まあ、いつもあのような感じなのだろう。
疲れるのもわかる。
「そういうことだ、我々のほうにスキルの詳細を言い終えたものは、それぞれ担当の者について行ってほしい。そこが、これからの王宮内でのそなたらの私室となる」
王の言葉が終わると、それぞれ男にはメイド、女には執事が傍に来た。
「これから、王宮内でお世話をさせて頂くハスミン・ハストンです」
「あ、うん。澄谷詩鶴、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げてくるメイドのハスミン。
日本人の俺にとって凄くやり辛い。
使用人なんてものは、家にはいなかったし。
他にも、同じように思っているのは多そうだ。
一部、王達の策略にまんまと引っかかって、目を輝かせてメイドや執事を興奮気味に見てる奴がいたが。
一部(の女子)では、男と一緒の部屋が駄目なのか、メイドにチェンジしてもらってる人がいるが。
代えられてやることの無くなった、執事がものすごくがっかりしてる。
多分、勇者達を世話したというのだけで、一種のステータスなのだろう。
まあ、この世界にはそれよりも重要なステータスがあるようだが。
さてさて、これからどうなることやら。
凡そ戦闘では役立たずなスキルを見て、今後を考えた。