女の子と亡霊
「知り合いでもいたのか」
おじさんは、アルアに聞いてきた。
「時々、花畑に来る女の子がいたから、聞いただけだよ」
「それで、その兵隊はどこにいるんだい?女の子を連れていた兵隊」
ナタクは、アルアがモスルーシから逃げてきたことを感づかれないように、話を進めた。もし、兵隊がモスルーシの住民の全滅を指示されているのなら、アルアを追いかけてくるかもしれないと思ったからだ。
「この町を通り抜けたから、メルダ屋敷に戻ったんじゃないか。もう一つ、面白い話があるんだ。死霊の館を知っているかい?あそこに亡霊が出るようになったらしい。俺なんか、とてもじゃないが入れないとこだ」
「誰の亡霊だ?」
「カルティナ・メルダ様らしいんだ」
「なるほど、カルティナ・メルダ様なら魔力が強い方だったから有り得る話だ。いろいろ教えてくれてありがとう」
ナタクはおじさんに礼を言って、アルアと宿に戻った。
「いい情報が聞けたな。明日一番に死霊の館に入ってみよう。私の帰り道の途中にあるし、入るための鍵もある。亡霊がカルティナ・メルダというのが本当なら、何かわかるかもしれない」
「メルダ屋敷ってどのあたりにあるの?」
宿の部屋は二階で、ベッドが二つ、ソファーが一つあった。
「ここから西に進んだところだ」
ナタクは、部屋に入ると窓から外の様子を確認して、廊下に出た。すぐに戻ってきて、アルアにこう言った。
「いつでも逃げられるようにはしておくんだ。町の住民を全て抹殺なら、アルアを見逃すことはないだろう。廊下の左奥に窓がある。屋根づたいに逃げられる」
「僕がモスルーシから来たこと、ばれている?」
「広場で誰が見ていたかわからないだろ。あの男だってどこまで信用できるか疑問が残る。女の子の情報は嬉しいことだったが、聞き返したのはミスだ。済んだことをあれこれ言うつもりはないが言葉には注意したほうがいい」
「わかった、気をつけるよ」
その夜、アルアはなかなか寝付くことができなかった。目を閉じるとモスルーシの町で見た光景がよみがえってくるのだった。灯りを消し、窓からの薄明かりの中で、ナタクが起き上がり窓を覗いた。
「アルア、起きているか。宿の前に兵士がいるぞ」
ナタクは小さな声でささやいた。
「なんでわかったの?僕、気づかなかった」
「足音がしてたから、もしかしてと思っただけだ。さあ、逃げよう」
二人は部屋から廊下に出て、左に進み、突き当たりにある窓から逃げた。ナタクは付近の様子を屋根の上から見ながら進んだ。
「他に兵士は集まっていないようだ。近くに森でもないか?隠れるには好都合なんだが」
「ええっと、確かビステルの森があるはず。こっちの方向だ」
屋根から飛び降り、空き地を走り抜けた。と、ナタクが後ろを振り返り、アルアを覆うように腕を広げた。
「誰だ!」
アルアはナタクが見ている方向に目をやった。一人の兵士が走って来ていたのだ。