町への入口
アルアの耳に、いくつもの草をかきわけ、落ち葉を踏みしめる音が聞こえ、遠ざかって行った。まだ胸を激しく打ち付ける鼓動はおさまらなかった。何も考えることすらできない。何が起きたのかさえ、不安に飲み込まれて考えることができずにいた。
どのくらいの時間が過ぎたのかわからないが、アルアはぼんやりと木々の隙間から見える空を眺めていた。それはほんの少しの時間だったのかもしれない。静けさの中で、小鳥のさえずりが響き始めた。それはまるでアルアに語りかけているように思えた。
(急いで町に戻らなければ、母さんやサムが危ない)
アルアは立ち上がった。周りに誰もいないことを確かめ、来た道を戻り町へと急いだ。途中の小さな川で水を飲み、元気を取り戻した。走りながら辺りを気にして、見慣れない人がいないかと目をやった。誰か町の人はいないか、でも声は出さなかった。殺しに来た人たちが隠れているかもしれない。アルアは目立たないようにと、木々の間や建物のそばを駆け抜けた。
町の近くの畑でおばあさんが倒れていた。うつ伏せに倒れたおばあさんは、手が土で汚れていた。周りに抜き取った草が散らばり、突然襲われたように思えた。背中を槍のようなもので一突きにしたのか、おばあさんの背中は血で染まっていた。アルアの心に不安と恐怖が再び居座った。
アルアは自分の家に向かって走った。
(信じたくない。母さんは生きている。きっと生きている)
洞窟のそばで聞いた言葉。「一人残らず」そして「町は終わっているか」この言葉が頭の中と心を埋め尽くしていった。