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第九十一話 怒髪天をつくが無双できない


「ふざけんなよ」


「え? 何か言いましたか?」


 貴也の雰囲気が変わっていることに気付いたのかアスカが聞き返していた。

 そして、貴也の顔が上がった。

 全くの無表情。

 だが、目だけは不穏な輝きを発している。

 本能で悟ったアスカはその身を縮まらせている。


「ふざけんなって言ってんだ! テメエ、いい加減にしろよ。少しカワイイ顔してるからっていい気になりやがって。猫耳だからって好き勝手して良いわけじゃねえんだぞ!」


「猫耳?」


 貴也の豹変ぶりに目を点にしている、アスカ。

 その表情は優紀を覗いて全員が同じだった。


「てめえは何度言えばわかんだ! オレは剣が使えないって言ったよな。日本では剣なんて必要ないんだよ! 使える方がおかしいんだ。オレの世界じゃ真剣持ってるだけで警察呼ばれて豚箱行きだぞ」


「豚箱?」


 意味の分からない単語が出てきて思わず聞き返すアスカ。

 だが、そんな物は貴也の耳には届いていない。

 貴也の勢いは止まらない。


「てめえらのおかしな基準で物事を押し付けんな! なんだ。お前、魔法使いに剣で圧倒して嬉しいのか? ああん?」


「いや、そんなことは。貴也殿は魔法使いだったのか?」


「魔法使いのわけあるか! 日本には魔力なんてねえんだよ。こっちの世界に来て一年も経ってないオレがホイホイ魔法なんて使える訳ないだろう。それにオレの魔力容量はFなんだ。魔法なんて連発したらすぐに魔力枯渇を起こしてぶっ倒れんだよ!」


 そんなことを言いながら回復してきた魔力を使って回復魔法。

 骨折していた腕が癒えていく。

 貴也の使う回復魔法は低レベルの物なので骨折のような重症は完治させられない。

 しかし、かなり痛みは治まっている。

 と言ってもアドレナリン前回の今の貴也は痛みなど完全に忘れているのだが……


 そんな貴也に気圧されて後退りながらアスカは問いかける。


「じゃあ、何が得意なんだ」


「ああん。なにが得意かだ? オレの得意なもので戦うっていうのか?」


「そうだ。わたしの得意分野で戦うというのはこちらとしても配慮が足りなかったと思う。最初に話し合っておくべきだった」


「ふざけんな。じゃあ、オレは農業が得意だって言ったら、畑耕し勝負でもするのか?」


「いや、いくらなんでもそれないだろう」


「なんだ。お前は農家の人相手に剣の腕がないってバカにするのか! お前が食ってる飯は農家の皆様が精魂込めて作ってくれたんだぞ。感謝して飯を食え!」


「いや、わたしは別にそういうことを言っているわけでは……」


「ふざけんな! 全国のお百姓さんに謝れ。今すぐ謝れ!」


 もう言っていることが支離滅裂である。

 だが、貴也の剣幕と不可思議な勢いにアスカは完全に飲まれていた。

 立派な猫耳はへなっとしな垂れているし、もう既に涙目だ。

 いつ泣き出しても不思議じゃない。


 そして


「すみませんでした。わたしが悪かったです」


 なぜかアスカは頭を下げていた。

 それでも貴也の怒りは収まらなかったようで、怒涛の説教は続いていく。

 そして、外が暗くなり始めた頃にようやく貴也が我を取り戻した。


 うん、どうやらやってしまったらしい。


 貴也が気付いた時、目に光を失った猫耳少女はただ謝罪を繰り返すだけの機械と化していた。


「えっと、これはどうしたらいいのでしょうか?」


 貴也が聞くと何故か怯えた表情でエドが


「貴也さんの責任で解決してください。今回の件は公爵家は一切知りませんし、関わりを持ちません」


 そう言って足早に訓練場から出ていった。

 クロードも他の者も既にこの場にはいなくて残っているのは溜息を吐いている優紀のみ。

 仕方がないので貴也はなんでこうなったのか優紀に聞いてみた。


「…………」


 オーノー! なんてこったい。

 どうも怒りに任せて貴也は説教と言うか洗脳をしてしまったようだ。

 優紀は経験者なのでいつものことだと話してくれた。


 感情むき出して怒りをぶつける貴也。

 そして、勢いのまま、無軌道、支離滅裂な論理の展開にアスカは話についてこれなくなって混乱。

 そこに正論を叩き込み怒涛の勢いでやり込める。

 さらに、弱ったところを褒めて透かして、気持ちが回復してきたところでまた叩き潰す。


 さらに教会の教義を逆手にとってアスカの罪を散々糾弾した後に日本の価値観を言って聞かせる。

 そして、又もや正論攻撃。

 しかも、関係がありそうで実は全く関係ない話を延々と話される。

 いかに今まで自分はダメな人間だったかを諭し続ける。


 最初は真面目に反論をしていたが、論旨をすり替えられ、はぐらかされて、勢いに任せて論破される。

 教会で受けた教育が悪い意味で作用して洗脳されていく。

 一度洗脳された者は次も洗脳されやすいのだろう。


 しかも、貴也が巧妙なのは決して教会の教えを否定しない。

 教会は正しい。

 アスカがちゃんと教えを学べなかったのだ。

 終始この論調で話される。

 しかも終わらない。

 話を切り上げる暇を与えない。


 そうやって、貴也は徐々にアスカが正しいと思ってやっていた事が実は教義に反していたのだと思い込ませていく。

 まあ、教義なんてものは抽象的で曖昧な物だ。

 捉え方によってはどんなふうに解釈ができる。

 だが、それは正常な精神状態の者ならわかること。

 混乱している時に捲し立てられれば……


 そうやって完全にやり込めてしまった。

 これはもう洗脳と言っていいのではないだろうか?


 どうやら貴也には新興宗教の教祖になる素養があるようだ。

 うん。そんなものになる気はないけれど……


 そんなことを考えながら頭を抱える貴也の背後からは念仏のような声が木霊していた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。生きててごめんなさい……」


 不穏なセリフが混じっている。

 マジでどうしよう。


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