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第八十七話 聖騎士と真面目なやり取りをしてみるが無双できない

誤字訂正 17/01/05


「関係と言われるとなんと答えていいのか分かりませんね。赤の他人と言うのが正しいのですがそれでは納得していただけないでしょう?」


 アスカは何も言わずに真っ直ぐ見詰めている。

 どうやら、貴也を見極めようとしているらしい。

 その眼を見ながら貴也も観察する。

 そして、大きく溜息を吐きながら話を続けた。


「はあ、信じて貰えないみたいでしすね。わたしと魔王には一切の関係がないのですが」


「別に信じてないわけではありません。こちらに情報が全くないので判断が出来ないだけです」


「そうですか」


 そう言い一拍置いて息を整えた、貴也。

 どうやら、彼女は生粋の騎士のようだ。

 普通、探りや交渉をする相手に「お前の情報を持ってない」なんて言わない。

 素人どころか交渉すらしたことがないのだろう。

 いや、交渉の必要のない立場の人間なのか?


 貴也は彼女の背景を思い出し、そう結論をつける。

 聖職者で騎士。

 なるほど融通の利かない相手に交渉しようとする貴族や商人はさぞ大変な思いをしたことだろう。

 こういう手合いの相手は簡単だ。

 交渉しなければいい。


 貴也はニヤリと笑う。


「わたしが異世界人というのは知ってますか?」


「はい。勇者様と同郷ですとか」


「はい。この世界に来て半年ちょっと経ちました。ですから、わたしはここと転移してすぐにいたパルムの街しか知りません。そうですね。エドワード様」


「はい。そうです」


「ですから、つい先日まで魔王トパーズホーンについては名前くらいしか知りませんでした。調べて貰えればすぐに分かることでしょう」


 アスカはジッとこちらを伺いながら貴也が嘘をついているかどうか見極めているようだった。

 だが、貴也は嘘などついていないので堂々としたものである。

 そんな態度で臨まれることが滅多にないのかアスカは少し困惑気味だ。


「嘘はついていないみたいですね。ではなぜ、この騒ぎの中、勇者と結婚などしたのです」


「ひとつ聞きますが、結婚するのに時期を選ぶ必要があるのですか? わたしにはトパーズホーンともジルコニアとも一切の関係がないのですから」


「でも、勇者様は両国と関係がある。それどころか今回の戦争の原因ですらあるのですよ」


 勢い込んで詰め寄ってくるアスカ。

 貴也は彼女をやんわりと窘めながら


「そうなんです。優紀が巻き込まれているんですよ。自分の為に戦争が起こるなんていくら優紀でも心を痛めるでしょう。だから、わたしはその原因を取り除くために魔王を誘き寄せたんです」


「誘き寄せたんですか?」


 その言葉に引っ掛かったのか小首を傾げて聞いてくる。


「ええ、あなたも知っている通り、魔王はああいう趣味をお持ちですので優紀とわたしが結婚すると聞けば跳んでくると思いましてね」


「なっ、なんでその話を」


 何を誤解したのかアスカが驚き思わず席を立ちあがった。

 貴也はその勘違いの理由を知っているので思わず吹き出しそうになる。

 それを堪えながらさも驚いているような顔で話をエドに振る。


「魔王の趣味は有名な話ですよ。そうですね。エドワード様」


「はい。そう言う話は何度か聞いております。まあ、あくまでも噂レベルの話ですが」


 貴族の言う噂に信憑性はない。

 相手を貶める為に平気で誤情報を流す奴らだ。

 だが、ここで示しているのはそういうことではない。

 魔王の同性愛趣味が世間に知れ渡っていることを教えるのが目的なのだ。


 どうやら、アスカはそんな噂があることを知らなかったようだ。

 自分の醜聞を知っているわけではないと思ったのかあからさまにホッとしている。

 本当に判り易い娘だ。

 

 貴也は自分の基本方針が間違っていないことを確信していた。

 こういう人には極力嘘をついてはならない。

 嘘を吐くくらいなら言えないと正直に言うべきだ。

 もし嘘を吐いたら、その瞬間に相手を信用しなくなりこちらの話を聞かなくなるだろう。

 腹を探るのも相手を不快にさせるだけだ。

 本当に貴族や商人には天敵だろう。

 だから、貴也はもう一つぶっこんで見ることにする。


「魔王は優紀にオリジナルの誓約の首輪をプレゼントするほど執心してましたからね」


「貴也さん!」


 いきなり真実を話し始める貴也に驚いてエドが大きな声を上げていた。

 貴也はそれを視線だけで抑えて話を続ける。


「では、魔王が勇者様を奴隷にしたというのは本当なんですね」


 ギリリと歯を軋ませる、アスカ。

 それを見ながら


「違います。誓約の首輪ではなく。オリジナルの太古のアーティファクトです。魔王と優紀はそれに永遠の友情を誓ってお互い付け合ったのです。奴隷契約などではありません」


「アーティファクトの誓約の首輪ですとそれは第一級危険指定魔導具ではないですか!」


「そうです。なんの考えもせず危険な魔導具を使ったこいつらは処罰されるべきかもしれません。だけど、それが戦争の火種に利用されるのは道理に反します。ジルコニアの宣戦布告の理由は勇者が魔王の奴隷にされたというものでした。戦争を防ぐには勇者が奴隷にされていないと証明する必要があったんです」


「そうなのですか。……それで魔王をここに誘き出して首輪を外させたのですね」


 貴也は黙って頷いた。


「この件を利用して魔王を討とうとは思わなかったのですか?」


 探るような視線をこちらに向けるアスカ。

 貴也は両手を広げて肩を竦めて見せる。


「神の使途たるあなたがそれを言いますか? 戦争になれば多くの人が死ぬ。回避する手段があればそれを講じるのは人間として当たり前じゃないですか。本当にジルコニアが兵を出せばトパーズホーンに着く前に全滅ですよ」


「それは魔王を倒すための尊き犠牲ではないのですか?」


「それを本気で仰っているのですか?」


「魔王は邪悪な存在です。討伐する必要がある」


「本心でそう言っているのならわたしは聖教会を軽蔑しなくてはいけなくなりますね。信念を持っている物が勝手に正義の元に死ぬのは結構です。ですが、王に騙されて死地に送り込まれる兵を巻き込むべきではない!」


 思いのほか声が大きくなってしまっていたことに気付いて少し恥ずかしかったが視線は逸らさない。

 しかし、それは不幸中の幸いだった。

 意図したわけではないがこの反応は貴也の憤りを素直に表していた。


 二人の視線が交錯する。

 しばしの膠着状態。

 そして、先に引いたのは意外にもアスカの方だった。


「そうですね。失礼なことを言いました。それに彼等には別の目的があったみたいですし」


「ほう、その辺をお察しでしたか」


「あまり見縊らないでいただきたい。魔王との戦いに我らが加勢すると言えば普通喜ばれます。我らは強いですからね。だけど、今回ジルコニアの王は困惑していました。多分、別の目的があったのでしょう。それには我々がいるのは不都合だった」


「ええ、その通りです。最初からジルコニアはトパーズホーンになど攻める気はなかった。偶然とは言えあなた方が参加することによってそれは未然に防がれました。そう、これこそ神の思し召しと言うものでしょうか!」


「その言は不愉快です」


 ぶすりと不機嫌そうに頬を膨らませる、アスカ。

 多分、今回の結果は彼女にとって不本意なのだろう。

 貴也は思わずクスリと頬を緩ませる。


「まあ、そう怒らずに誤解は解けたみたいですし、お部屋を用意しますので今日はお休みになられて明日にでも戻られたらいいのではないですか?」


 どうやら大役を終えたと貴也はホッと息を吐いていた。


 ところが


「そう言う訳には参りません。貴也殿、わたしはあなたに決闘を申し込みます」


「へ?」


 何を言っているのか分からずただただ困惑する貴也だった。



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