第八十六話 団長さんは猫耳大和撫子なので無双できない
話数が謝っていたので訂正 17/01/08
貴也達は急いで応接間に向かった。
本来なら謁見の間を使ってもいいのだが、それは相手側から辞退されたらしい。
なんでも今回の訪問は非公式なものだそうだ。
本当に貴族社会と言うのは面倒臭い物だ。
これだけ大っぴらに現れておいて公式も非公式もないだろう。
だが、建前上、薔薇騎士団がここにいるのはマズいとのことだ。
本当に厄介ごとにしか思えない。
貴也は盛大に溜息を吐いていた。
そして、ふと疑問を口にする。
「それにしても薔薇騎士団の団長さんがここに来るのは早過ぎませんか? 彼女はジルコニアにいたんですよね。魔王との決闘を見てからまだ半日も経ってませんよね?」
外を見るともう真っ暗になっていた。
だが、まだ日付は変わっていないだろう。
決闘が終わって直ぐに動画が流出してもまだ5、6時間しか経っていない。
そして、薔薇騎士団がいたと思われる場所はサラボネ山脈の麓、人類生存圏の最北端である。
仮に飛行場が傍にあって、直ぐにタイタニウム行きの飛行機があったとしても間に合う時間じゃないと思う。
まあ、この世界の科学力は所々、日本を凌駕しているので超音速旅客機なんてあっても不思議ではないが。
そんな疑問を浮かべている貴也にエドが答えてくれた。
「薔薇騎士団は最新型の超音速ヘリコプターを所持しています。移動速度は時速2500kmオーバー。また、聖教会の司教以上の方は入出国が自由に出来る権限を持っていますので、手続きも大幅に短縮されます。それにしても早過ぎますけどね」
エドのため息が止まらない。
本当に嫌そうだ。
それにしてもこの世界の科学力はよくわからない。
ヘリでマッハ2、5近く出るってどんなヘリだよ。
そんなもので自由に飛び回られたらそりゃ迷惑だ。
貴也は呆れて肩を竦めていた。
そんなことをしている間に応接間に到着した。
貴也達は大きく深呼吸した後にドアに手をかける。
「お待たせしました」
「いえ、こちらこそ。このような夜分遅くにすみません」
貴也達が入って来たのを察したのか一歩前に出る。
そして、白銀の鎧を身に纏った騎士が頭を下げた。
彼女はゆっくりと顔を上げ微笑む。
その時、貴也の目は釘付けになっていた。
「アスカ=ホウジョウです。よろしくお願いします」
「エドワード=フォン=タイタニウムです。こちらこそ宜しくお願いいたします」
そう言って握手を交わす二人。
エドの顔が引きつっているのはご愛敬だ。
かろうじて公爵の代理を務めている。
そんな中、この場を任されている貴也はと言うと
呆然としていた。
「貴也。……えっと貴也さん?」
エドが貴也の小脇を突っつきながら小声で窘めてきた。
いつの間にか全員が席についている。
我に返った貴也も慌てて腰を下ろした。
隣に座っている優紀が頬を膨らませているのは見なかったことにしよう。
なぜ、貴也が我を失っていたかと言うと
長く艶やかな黒髪。
そして、同じ色の凛とした瞳。
まだ、二十歳は迎えていないだろう少女が清楚で神秘的な雰囲気を漂わせて立っている。
容姿は白銀の鎧など着せずに緋袴に千早を羽織らせた方が似合う気がする。
西洋美人に見慣れた貴也にとって純和風な顔立ちはインパクトがあった。
それどころか、貴也の好みのど真ん中だった。
なるほど、魔王が襲いたくなる気持ちがわかる。
あんな変態と好みが一緒だなんて嫌だが、これは仕方がないだろう。
それになんと言っても……
「猫耳。獣人族?」
貴也はケモナーではなかったがモフモフは大好きだった。
猫耳大和撫子とか大好物である。
これ程オタク心を擽る存在があるだろうか。
ああ、耳の裏を掻いてみたい。
喉元を擦ってゴロゴロ言わしたい。
この世界に来て獣人族は何人か見てきたが、ほとんどが冒険者だったのでみんなむさいおっさんだった。
こんな至宝が存在していたなんて折角の異世界をなんと無駄にしていたことだろうか。
貴也は自分のバカさ加減に涙が出てきそうだった。
「貴也。失礼ですよ。騎士団長様に謝罪してください」
そんな貴也の反応を勘違いしたようでクロードが慌てて窘める。
だが、頭のネジがいくつか飛んでしまった貴也の反応は予想外の物だった。
「何を言っているんですか。猫耳ですよ。しかも。黒髪黒目で巫女猫美少女ですよ! ぬっこぬこですよ! これが黙っていられますか。ああ、異世界に来て良かった! リアル、猫耳っ娘が見られるなんて。もう恥も外聞もなく萌えと叫びたい心境です!」
貴也の壊れっぷりに頼ろうとしていたクロードとエドは困惑気味である。
そして、アスカも目を丸くしていた。
「勇者様も何か仰ってください」
助けを求めるようにエドが優紀に視線を向ける。
優紀は盛大に溜息を吐きながら
「まあ、気持ちはわかるのよね。わたしも猫耳美少女は初めて見たもん。こんな場合じゃなかったら感動してると思うし」
頬を膨らませてジト目を向けながらも優紀は貴也に同意してくれた。
そうだろう。
この素晴らしさがわかるのは日本人だけだと貴也はウンウンと頷いている。
そんな中、おずおずとアスカが聞いてきた。
「勇者様や貴也殿は異世界から来られたというのは本当なんですか?」
「はい、そうです。わたし達は日本から来ました」
幾分、棘があるものの優紀が正直に答えている。
「日本にいる獣人はそんなに敬われる存在なんですか?」
「いいえ、日本には獣人はいませんよ」
二人は視線を交わして首を傾げている。
どうやら、意思疎通が出来ていないようだ。
だから、貴也はその説明を買って出た。
「獣人がいないからこそ、我々は想像を膨らませてその存在を崇拝するのです」
余計に混乱するアスカを見て貴也はいかに猫耳が素晴らしいかについて語って聞かせた。
その描写は割愛させてもらう。
貴也の名誉に関わるから。
10分後
「どうどう。貴也。抑えて抑えて」
「申し訳ありませんでした。少々取り乱してしまいました」
ドン引きして若干震えているアスカを見ながら、貴也は現状を鑑み、頭を抱えてしまった。
うん。穴があったら入りたい。
そして埋めて、コンクリで固めて永久封印だ。
羞恥に耐えられず、屍と化しました。
そんな貴也に優しくアスカがフォローする。
「気にしてませんよ。ですが、羨ましいですね。この大陸では人間が多いこともあってどうしても差別的なことがあるのです。わたしは幼い頃、両親と死に別れて教会に預けられたのですが、この耳のことを色々と言われていじめられました。何度、この耳を切ってしまおうかと考えたことやら」
「なんて勿体ないことを…… どこなんですか? そんな不届き者はわたしが行って惨殺してあげます」
目を爛々と輝かせる貴也。
もうどっちが狂信者かわからない。
猫耳教があったら間違いなく貴也は狂信者になれるだろう。
そんな貴也をアスカが窘めていた。
うん。この娘は良い猫耳だ。
貴也は惚けえとアスカを見詰めている。
そんな貴也の脇腹を優紀が思いっきり抓った。
あまりの痛さに悲鳴を上げかけたが懸命に堪える。
そして、優紀を睨み付けようとしたのだが、逆に睨み返されてしまった。
流石の貴也もここで反論するほど空気を読めなくはない。
と言うか怖かった。
貴也は視線を逸らして気にしないことにする。
それに少し冷静に慣れた。
貴也は大きく深呼吸して本題に戻る。
「それで騎士団長様。わたしに話があるということですがどういうご用件ですか?」
「あなたがそれを言いますかね。まあ、それは良いです。確かに夜も遅いのでさっさと本題に移りましょう」
いまのやり取りでエドも我に返ったみたいだ。
冷静な口調で話をアスカに振る。
そして、アスカもやっと本題に入れると表情を緩めた。
「いくつかお伺いしたいことがあったのです。単刀直入にお伺いします。貴方たちと魔王とはどういう関係なのでしょうか?」
一拍置いて表情が無くなったかと思うと矢継ぎ早に話を切り出した。
アスカの鋭い眼差しが貴也を射抜く。
どうやら標的は貴也だけらしい。
全員に訊いているようで視線は貴也だけに向いている。
貴也はそれに怯むことなく真正面から受け止めた。
どうやらここからが本番らしい。
悪ふざけはここまでだ。
貴也は気合いを入れなおしてアスカと対峙する。
今年最後の更新となります。
本編を最後に更新出来てよかった。
皆様、よいお年を。
そして、来年もよろしくお願いいたします。
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