閑話 教えてアル先生 初代国王と公爵の伝説2
「「「教えて、アル先生。ドンドン、パフパフ!!」」」
「本当に続ける気なんですね」
「だから、コーナー化するって言ったじゃん」
「もういいです。わかりましたから」
「わかって貰えて結構! では、アル先生、続きをどうぞ」
「はあ、なんだかこのノリにはついていけない」
「何か言いましたか?」
「何でもありません。――確か、エメラルドウィングが消えた所まで話しましたね。それでは………」
エメラルドウィングが消息を絶って一か月。
いっこうにその所在は掴めなかった。
他の魔王にも招集がかかり、彼の捜索は大規模なものとなった。
そして、最も憤って精力的に動いたのが魔王ルビーアイであった。
彼とダイアモンドハートは親友と言っていい間柄だった。
普段は憎まれ口を叩き合い。
時には殺し合いとも思えるような大喧嘩をしてきた。
だが、そこには人には決してわからない絆のような物が確かにあった。
だから、彼の死を知った時、真っ先に駆け付けたのだ。
そして、面倒くさがってパーティーに参加しなかったことを悔いていた。
彼はエメラルドウィングの野心に気付いていたのだ。
自分がいれば決してダイアモンドハートを殺させなかったのに……
そう思って寝る魔も惜しんで捜索活動に参加していた。
そして、彼が懸命に探しているのには別の理由がある。
魔王の欠片のその性質だ。
魔王の欠片は邪神の魂を封印して七つに割った物。
それには膨大な魔力と固有の能力が存在する。
ルビーアイには火の力。
エメラルドウィングには風の力。
オパールテイルには土の力。
サファイヤネイルには水の力。
トパーズホーンには転移の力
そして、ダイアモンドハートには時の力が込められている。
そうダイアモンドハートには時の力が込められているのだ。
これが魔王ダイアモンドハートが最強とうたわれた所以だ。
ルビーアイは焦っていた時間は相手を有利にさせる。
魔王の欠片はそう簡単に扱えるものではない。
欠片に込められた膨大な魔力さえ持て余すだろう。
エメラルドウィングはまだ魔王になって間もない。
自分のエメラルドウィングすら満足に使いこなすこともできないだろう。
だが、もし魔王の欠片を自在に扱うことが出来るようになったら……
その脅威を考えると落ち着いてはいられなかった。
エメラルドウィングくらいなら物の数には入らない。
攻撃力だけ見れば魔王の欠片の中で火の力を宿すルビーアイは最強だ。
それにルビーアイは魔王になって三百年以上経っている。
ヒヨッコ魔王に負けることなど考えられない。
例え、二つの欠片を持ちルビーアイを軽く凌駕する魔力を持っていてさえも。
ただ、問題が一つ。
それはダイアモンドハートの存在だ。
あれはマズい。
魔王の欠片の中であの存在は規格外と言っていい。
時の力。
時間を止め。
時間を跳んで未来を覗き、過去を知る。
さらには時間を巻き戻すことすら可能だ。
一瞬で灰にしなければ何度でも時を戻せる。
対策を練り、やり直しがきくのだ。
そんな相手と戦うのははっきり言って不毛だ。
だから、奴がダイアモンドハートをものにする前に倒さなければならない。
あれは規格外の存在なのでそう簡単に使いこなせるとは思わないが。
そう思い少し冷静になるルビーアイ。
焦ってもいい結果は招かないだろう。
そう思い捜索隊の者に一言告げて自分の城に帰った。
彼は山々に囲まれた辺境の古城に住んでいる。
いまの彼には休息が何より必要だったのだろう。
そして、自分の城に帰りに異変に気付いた。
彼が住む城には誰もいない。
ルビーアイは趣味人で自由人だ。
好きな時に好きなことしか出来ない。
だから、国を治めるなんて面倒くさいことは出来なかった。
だから、山々に囲まれた僻地に城を構えて暮らしている。
いるのは凶悪な魔物くらいだ。
そんな城に何故か人の気配がする。
そして、周りには魔物たちの屍が山のように積まれていた。
ルビーアイの疑惑は確信に変わっていた。
「出てきたらどうだ。エメラルドウィング」
「折角、隠れて騙し討ちをしようと思ってたのに」
「この状況で何を言ってるんだ!」
憤りを顕わにして火球を放つ。
青く燃え盛る炎は土さえ溶かしてエメラルドウィングに肉薄する。
彼はそれを風の壁で受け流した。
逸らされた青き炎はそのまま地を抉りながら進路上の山を吹き飛ばした。
「怖い、怖い。流石は魔王ルビーアイだ。魔物を倒しながら欠片が馴染むのを待っていたがこれくらいの時間では相手にすらならないか」
「なら、死ね!」
さらに火球を三つ放つ。
今度の火球は白く輝いていた。
もうどれ位の温度が上がっているのか分からない。
常人ならその輝きを見ただけで目を焼かれ失明してしまうだろう。
そんな火球が回り込むように奴に襲い掛かる。
三方向から囲むように放たれた火球は確かに奴を捕らえた。
しかし
「手ごたえがない。そこか!」
背後に火球を放つ。
奴は風を操って何とか火球を逸らした。
だが、完全には逸らせなかったみたいで右側のエメラルドの翼が三分の一ほど消し飛んでいる。
「くっ、流石はダイアモンドハートと双璧をなす存在だ。子供騙しは通用しないか」
そう言って頭を振る。
そこには今まで見えていなかったものが現れていた。
「貴様がなぜそれを!」
「魔王ルビーアイ様と戦うのに何の用意もせずに来ると思うか?」
クククと厭らしく笑うエメラルドウィング。
その頭にはトパーズの角が生えていた。
「トパーズホーンはまだ生まれたばかりの赤子に宿っていたはずだ」
「ええ、だから何とか手に入れることが出来ました。まさか一歳に満たない赤子が転移できると思わなかったので少々手古摺りましたがな」
「この外道が!」
ルビーアイの怒りは頂点に達していた。
だが、怒りに燃えながらも頭の片隅で冷静に計算していた。
まずはトパーズホーンの力。
転移の力を使ったが、多分あれはこちらに見せるために使ったのだろう。
転移が使えることを教えてこちらを警戒させようと言う訳だ。
だが、二撃目を躱せなかったことから連続では使えない。
それにまだ長距離移動は出来ないはずだ。
しかし、奴がトパーズホーンを奪っているというのは計算外だった。
こうなることは予め考えておくべきことだった。
いつものルビーアイならトパーズホーンの身辺警護を厳重にすることくらい指示できたはずだ。
やはり、ダイアモンドハートの死で動揺していたのだろう。
それにしてもこれはマズい。
魔王の欠片は集めれば集めるほど力を発揮する。
まずは三つ目で力が桁違いに上がる。
さらに五つ目でその力はこの世界を破壊できるほどになる。
そして、すべて集めた時、その者は邪神と化す。
邪神はすべての世界を破壊し、創造し得る存在だと言われている。
そして、奴は三つの魔王の欠片を身に宿した。
そう大魔王への階を駆け上がっているのだ。
だが、時間はまだある。
まだ、覚醒はしていない。
そんなことを考えているルビーアイに奴は語りかけた。
「さっきも言ったが、まだ我では貴方には敵わない。なら何故に大魔王に覚醒する前にこの場に来たと思う?」
それはルビーアイも考えていた疑問だ。
こんな不安定な状態で来るメリットがない。
だが
「貴方に訊きたいことがあるのだ。我は七つの魔王の欠片を集めて邪神に至る。しかし、最後の、名も分からぬ魔王の欠片について知らねばならぬ。貴方ならその所在について知っているのではないか?」
ルビーアイは唇を噛み締めていた。
その仕草を奴は逃さなかった。
決して油断はしていなかったがこれは間違いなく失態だろう。
奴が大魔王になっていれば決して犯さなかったミスだ。
「ふははははは。やはり知っているのだな。貴方が知っているそれだけ分かれば十分だ。今度は大魔王になって貴方の前に現れよう」
そういうと深緑の翼をはためかせて飛び立っていく。
「逃がすか!」
ルビーアイは天に右手を掲げて極大の白炎を生み出す。
それを凝縮し、指先ほどの大きさの球にする。
それはもう色すら持っていない。
純粋な輝きと化している。
一瞬で周囲がその熱で蒸発した。
球を生み出した魔王の腕も蒸発を始めている。
ルビーアイは虚空に逃げていく奴の背にそれを解き放った。
あっという間に小さくなっていく奴の背を球が捕らえた。
大爆発が起こり、爆風でルビーアイは地面に押しつぶされる。
しばらくしてすべてが無くなった大地の上に一人魔王は佇んでいた。
「逃がしたか」
手応えはあった。
だが、致命傷までは与えていないだろう。
ルビーアイは呆然と空を見上げる。
「次ぎに会う時、狩られるのは余の方かも知れぬな」
不吉な予言を残してルビーアイもこの地を去った。
「「「…………」」」
なかなかのお話である。
貴也は改めて魔王が規格外の存在だと知って戦慄していた。
「それって本当の話なのか?」
「それを知っているのはルビーアイ様だけでしょうね。この話は初代公爵様がルビーアイ様に訊いてまとめた話だそうです」
「やっぱり魔王ってとんでもない存在なんだな」
「そうですよ。間違っても戦おうなんて思わないでくださいね」
そう言っている本人が後日魔王に決闘を挑むことになるとはこの時は本人すら知らなかった。
続く。
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