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第八話 魔力がないので無双できない。

 貴也は自分の能力を見て納得していた。

 なんとなく理解していたことにお墨付きをもらったようなものだろうか。

 うすうす気づいていた物理チートはどんなに鍛えても不可能なことが分かった。


 だが……


「ふふふふふ、異世界の神はやっぱり俺を見捨ててなかったのだな」


 現状の能力値は並以下だったが、貴也の注目したのは予測値、いわゆる素質の点だ。


 現状でも高い体力と器用さがB。

 そして、ある項目を除いて他の物はEだった。


 高い体力を使って壁職になれるかも? 

 というのはさっきのマリアの説明で無理なことはわかっている。


 体力Bの詳細を見ると免疫力がSでそれ以外、打撃耐性、斬撃耐性、基礎体力、スタミナなどなど全てEだった。


 どんだけ、病気に強いんだよ! 

 と思わなくもないが、それは仕方がない。

 なれないものはなれないのだ。


 器用さは冒険者として有利な項目だが全く決定打にならない。

 冒険者にとっては必要な項目だがあくまで補佐的ステータスだ。


 ここまでだとやっぱり冒険者は絶望的ということになるのだが……


 なんと、聞いて驚け! 

 ある一つの項目の素質が何とAなのだ。

 現状Fなのに素質がA。


 やっぱり、成長チートだったのだよ。


 FからAまで上げるのは至難の業だろう。

 だが、そこに希望があるのだ。


 これで異世界無双も夢ではなくなった。


 やるぜ! やってやるぜ!

 

 それに成長項目がなんと“魔法”なのだ!


 この世界に来て初めての嬉しい驚き。

 だって魔法だよ。

 異世界なら魔法でしょ。


 もう、拳を突き上げてガッツポーズだ。


 天は我が下にあり!


「マリアさん。見てください! 俺の魔法の項目。素質Aですよ。もう、人が悪いなあ。冒険者は無理だなんて言っておいてこんなサプライズを用意してるなんて」


 浮かれる貴也になんと答えていいのかわからないと言った顔をして返答に困るマリア。


 そんな彼女の雰囲気に気付いた貴也は首を傾げる。


「なにかあるんですか?」


 すまなそうに頷く。

 言いにくそうなマリアに先を促す。


「確かにあなた魔法の素質はAなんだけど、あなたには魔力が全くないのよ」


「へ?」


「異世界から来た人に多いのよ。この世界には魔力が満ち溢れているの。生まれてからずっとこの世界にいる人はずっと魔力に触れている。空気を吸い、食事をし、その時に魔力を体内に取り入れる。そんなことを続けていると自然に魔力を体内に溜められるようになるの。だから、魔力のない世界出身の人には魔力を体内に溜める能力のない人がいるのよ」


「ふえ、でも、素質Aってなってるじゃないですか?」


 すがるような目でマリアを見る。

 でも返ってくるのは悲しげ視線と溜め息だった。


「詳細を見てみて、魔力容量がFになってるでしょ。簡単に言うと、体内に溜められる魔力が少ないの」


 マリアは魔法について説明してくれた。

 魔法の中項目を見ると以下の項目がある。


魔力瞬間出力:体内から瞬間的に魔力を放出出来る量。魔法の威力に関係する。

魔力持続出力:魔力を放出し続ける力。効果時間が永久なもの以外の顕現時間にかかわる。

 魔力操作力:魔力の制御力。魔法の威力や範囲、動き方などの操作にかかわる力。

対魔力防御力:魔法に対する防御力。

 魔力回復力:魔力を体内に溜めるスピード。

 魔力容量 :魔力を体内に溜めることの出来る量


 そして、貴也の素質は魔力容量以外すべてS。

 総合評価Aとなるわけだ。

 残念なことに冒険者にとって最も大切な魔力容量がFの為、他の能力が全くの無駄になっているのだ。


 イメージしてください。

 目の前に超高級スポーツカーがあります。

 最高時速300km。

 加速性能最高。

 操縦性も最高。

 給油設備も万全で50Lを10秒で給油できます。

 でも、ガソリンタンクが100mlしかありません。

 

 うん。実に無駄。これじゃあ走れません。


 これが今の貴也の状態。


「じゃあ、俺って魔法は使えないの?」


「しばらく、この世界で暮らしていれば生活魔法なら使えるようになると思うわよ。どんな魔法でも使っていれば魔力容量も増えてくるから、気長に修行すれば使えないこともないかも?」


 首を傾げながらなんとか言葉をひねり出すマリア。

 そこには貴也に対する気遣いが込められている。


 それを感じながらも貴也は聞いてしまった。


「しばらくってどれくらい?」


 う~んと唸りながらマリアは言いづらそうに口を開く。


「生活魔法を使い続けて初級の魔法が使えるレベルに魔力容量を上げるのに三年くらいかしら。ちなみに初級魔法はゴブリン一匹を一撃で倒せるかどうかね。素人が剣で殴るより弱いかな」


 期待が高かった分、ショックが大きかった。


 だから、言いたくなかったのにとマリアは批難半分、同情半分といった目でこちらを眺めている。


 だが、貴也はすぐに切り替えた。これが貴也の長所である。


「まあ、使えないものはしょうがないですね。剣もダメ、魔法もダメかあ。なら、銃とか使って冒険者できませんかね。この世界って銃とかすごい武器があるんでしょ」


「あなたもめげないわね」


 マリアは呆れというより半ば感心していた。


 だが、


「銃じゃ魔物とは戦えないわよ」


「……え?」


 最後の望みはいともたやすく断ち切られた。


 ガクリと跪く貴也を気遣いながら、マリアがモンスターについて説明してくれた。


 モンスターにはランクがあり、弱い物から順にF、E、D、C、B、A、S、SS、SSSと決められている。

 これは同じランクの冒険者が一人で倒せるかどうかという目安である。


 ちなみにFランクは登録すれば誰でもなれる。

 E、Dが駆け出し冒険者。

 Cで一人前。

 Bが中堅冒険者。

 A以上が一流と呼ばれる。


 この世界の冒険者のほとんどがランクCかBでランクAは全体の3%もいないし、S以上については数えるくらいしかいないらしい。


 また、この世界のモンスターは大きく分けて四種類いる。

 獣、魔物、幻獣、神獣。

 基本的にその順に強くなる。 


 獣は野生動物全般。

 種類は地球にいるものとそれほど変わらない。

 一番の特徴は魔力を使わないことだ。


 魔物は魔力を使う危険生物。

 魔法を使ったりもするが、一番の特徴は魔力で身体能力を強化していることだ。

 特に自然界で生き抜くために本能で魔力防御を行っているものが多い。


 魔力防御を行っている者には通常の攻撃は非常に効きにくくなる。

 だから、攻撃する時にはこちらも攻撃に魔力を込めないといけないのだ。


 ゴブリンクラスだとそれほど魔力が高くないので魔力を込めなくてもダメージを与えられるが、ランクが上がっていけばそうはいかない。

 軍の実験で半径100mを焦土と化す爆弾をCランクの魔物に使用したところ、ほぼ、無傷だったことが確認されている。

 一人前の冒険者が倒せる程度の魔物がである。


 そして、一番の問題だが生物以外で魔力が使えた前例はない。


 武器や防具自体に魔法や魔力が宿っているものは存在するが、人や魔物が装備し、そこに微量と言えど自身の魔力を込めなければ発動はしないのだ。


 だから、この世界では科学兵器は対人用という認識が高いとのことだ。


「つまり、銃を使うにしても俺に魔力がなければダメージを与えられないということですか?」


「そういうことね。あと、銃には魔力が込めにくいことが分かっているわ。どういう理屈かわからないけど機械機構と魔力は相性が悪いらしいのよ。あと、距離が離れれば離れるほど、魔力は減衰するの。大魔力を使って銃を使うくらいなら魔法を使った方が楽だからね。魔物相手に銃を使う人はほとんどいないわ」


「え? ほとんどっていうことはいるんですか?」


「いるわよ。でも、あれを銃って呼んでいいかは疑問だけど」


 小首を傾げるマリア。


「ある有名なSS冒険者なんだけど、この人がとにかく頭がわる――ゴホン、少し不器用な人で呪文は覚えられないし、剣術や武術もからっきしなの。でもね。身体能力と魔力だけはすごくてね。とにかくモンスターを捕まえて、攻撃を避けずに殴られながら、こっちもとにかく武器で殴る。ってスタイルで戦ってたのよ」


「とんでもない人ですね」


「そうなのよ。それでAランクまで行ったのはすごいけど、それ以上わね。Aランク以上の魔物は頭もいいし身体能力もずば抜けている。それに特殊な能力を持ったものも多いからね。流石に身が持たなかったみたいよ」


「それでどうしたんですか?」


「最初は剣術を学ぼうとしたみたい。いろいろな道場や冒険者の元を回ったらしいわ。……でも、どの流派の剣術も身につかなかったのよ。バ、――不器用だったのね」


 別に言い直さなくてもいいのにと思いながらも先を促す。


「そんなことをしてる時にね。公爵様に出会ったの。公爵様はかつて大魔王を倒した勇者パーティの大魔法使いの末裔でこの大魔法使いが不思議な魔導具をいくつも生み出してるの」


「魔導具?」


「そう、魔法を込められた機械兵器。その内の一つが魔法を撃ち出すことが出来る銃と魔力の込められた弾丸を撃ち出す銃なのよ」


 貴也は目を見開いていた。

 あれ? さっきと言っていることが違わない? 


 それに気付いたマリアが首を横に振る。


「期待を持たせちゃったみたいなら悪いけど、この魔導具は欠陥品よ。というより、天才しか使えない特注品といった方がいいかしら」


「欠陥品?」


「そう欠陥品。とにかく魔力消費がとんでもないの。魔法を撃ち出す銃は、予めセットされた魔法をその魔法が使えない人でもトリガーを引くだけで発動できる銃」


「すげえ」


「でも、魔力の消費量はその魔法の三倍はかかる」


「うわぁ……それって使えないんじゃないですか?」


 魔法を使えない貴也でもなんとなくわかる。

 ゲームでも強い魔法はMP消費が激しかった。

 この世界でもそうだろう。

 それなりの魔物と戦うには強い魔法で戦わないといけない。

 例え連射が効いても魔力が枯渇してしまったら、その時点でアウトだ。


 この世界にコンティニューなんてないのだからそんな危険なものは使えないだろう。


「普通はね。でも、あのバカは魔力容量と回復力がバカみたいにあるから、使うことができるのよ」


 もう、バカを訂正する気が失せたみたいだ。それにしてもとんでもない人だ。


「それでもう一つの銃は?」


「こちらは魔力を込められた弾丸を撃ち出す銃なんだけど、これも欠陥品なの。まず、一発撃ち出すのに上級魔法と同じくらい魔力を消費する。それに魔力を込める弾丸なんだけど、これがミスリル製でおまけに魔力刻印をしなければいけない。魔力は自分で込めればいいけど、この弾がとにかく高いのよ」


「いくらくらいなんですか?」


 ごくりの生唾を飲み込む貴也。


「安いので一発1万ギル。高性能品だと10万ギルはいくらしいわ。一発撃ったら終わりの消耗品がよ」


「それって高いんですか?」


「高いわよ。Aランクモンスターだと、安い弾は効かないし高性能品でも十発で倒せるかどうかってところかな」


「それって一匹狩るのに100万ギル以上ってことですよね。しかも、消耗品。そんな金出せるわけないじゃないですか」


 憤る貴也を尻目にマリアは肩を竦める。


「Aランクの依頼の報酬ならそんな高額の消耗品でも何とか黒字になるのよ。まあ、常識のある人間はそんなバカな武器は使わないけどね。だって、今までの戦い方でBランクの依頼をこなした方が収入多いんだもん」


 ああ、確かにその人はバカだ。

 でも、そこは男のロマンだったりするんだろうな。


 より強い魔物と戦いたい。

 自分の強さを証明したい。


 そんな理由なんだろうな。

 理解できないけど……


 だけど、そういう気持ちがないと冒険者にはなれないのかもしれない。

 そんなことを思ってしまった貴也の心はポッキリと折れてしまった。


「はあ、やっぱり、冒険者は無理か」


「じゃあ、ギルドの職員にならない?」


「ふえ?」



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