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第八十四話 逃げるは恥だが役に立つ。だからと言って無双できない

「貴也さん。大変です」


「今度はエド様がですか? もう勘弁してください」


「そんなことを言ってる場合じゃないんです!」


 本気で焦っている様子のエドに貴也は重い溜め息を吐く。

 そして、本音で言えば聞きたくないのだが先を促した。


「それで何が起こったのですか?」


「薔薇騎士団がやってきます」


「ローゼンリッターだと……」


 神妙な声で言うエドに応えたのは魔王だった。

 しかし、薔薇騎士団と言われても貴也は首を傾げることしか出来ない。


「薔薇騎士団って言ったらあの聖教会の?」


 エドは重々しく頷いていた。

 薔薇騎士団。

 それは聖教会が組織する神官騎士団の中でもトップエリート達で構成される部隊。

 華の名を冠とする騎士団。

 その精鋭は薔薇、百合、蓮の三部隊があり、その中でも薔薇騎士団は武闘派として有名だ。


「なんで薔薇騎士団が来たら大変なんですか? 何かやましいことでも?」


「やましいことがないとは言いません。それは統治者なら誰でも覚えのあるものだから。ただ、普通の神官や騎士はその辺を理解してくれる。だけど、華を冠する騎士団の連中は常識が通用しないんです」


 エドが頭を抱えている。

 ここまで、取り乱すエドは珍しい。

 だんだん事の重大さが分かってきた。


「でも、なんでそんな部隊が公爵領になんて来るのですか?」


「ああ、どうもあの部隊はトパーズホーン討伐軍に参加するために行動していたらしいです」


「それっておかしくないですか? 確か、聖教会は今回の件について原因がはっきりするまで中立を宣言していたはずですけど」


 そうなのだ。

 今回のジルコニアの起こした騒動に主だった国や聖教会は最初から懐疑的で参加を保留している。

 それは本当の目的がトパーズホーンではないジルコニアにとっても歓迎すべきことだった。

 だが


「何でも薔薇騎士団は独断で行動を起こしていたらしく聖教会に問い合わせてみたところ向こうも困惑しているようです」


「そんなことを軍がして許されるんですか?」


「それが華の名を冠する騎士団なのです。奴らは例え自分が罰せられても教義に反することは許しません。自分の死を持ってしても世界を正すことに誇りを持っているんです」


「そんな無茶苦茶な」


「そうです。無茶苦茶なんです。神の名のもとに正義を貫く狂――聖職者集団なんです」


 こいつ、今、狂信者って言おうとしたな。

 そんなことを思いながらもエドの言いたいことがよくわかる貴也だった。

 だが


「ちょっと待ってください。トパーズホーンの討伐に向かっていた薔薇騎士団がなんでこちらに向かっているんですか?」


 尤もな疑問を浮かべる貴也にエドは苦笑を浮かべる。


「原因は貴也さんでしょう。勇者と結婚してトパーズホーン討伐の大義を奪った上にその魔王と決闘して勝っちゃうんですから」


「えっ、魔王との決闘ってもう知れ渡ってるんですか?」


「ネットに流出してますよ。謎だった勇者の結婚相手が魔王と決闘するんですから注目されないわけがない。それも勝っちゃうんですから」


「それでどんな状況なんですか?」


 恐る恐る聞いてみた。


「現在、主要動画サイトの日間アクセス数No.1ですよ。ちなみにアルの動画も順調にアクセス数を伸ばしています」


 忌々しそうにそう語る、エド。

 貴也は頭を抱えていた。

 目立つつもりなどないのにこれで一躍有名人である。

 まあ、優紀と偽装結婚した時点である程度、噂になるのは仕方がないと思っていたのだが、これは予想外の出来事だった。


「エド様。情報の流出は由由しき事態ですよ。これからはその辺しっかりしてもらわないと」


「あんな大々的なイベントにしておいてネットに上げちゃいけないなんて言えないと思うけどね」


 皮肉交じりにそういうエド。

 それをオレに言われてもと言いたかったが、貴也はグッと堪える。

 まあ、自分が計画したことじゃないと言っても責任の一端があるのは間違いないから。

 本当に恨みますよ、クロードさん。


 はあっと、大きく息を吐いて気を取り直した貴也は本題に戻ろうと口を開く。


「では、薔薇騎士団の狙いはオレと言うことですね」


「多分、大義名分を奪われたことを逆恨みしたのか。その真偽を確かめに来た、というところですかね。一応、結婚は神に誓うものだから、そこに虚偽があるというのは重大な戒律違反ですから。あとはここに魔王がいるのも問題なんだと思います」


 そう言ってエドと貴也の視線が魔王に向く。

 すると


「じゃあ、妾は帰る」


「待て~い!」


 貴也は魔王の襟首を掴まえた。

 そんな貴也から逃げ出そうと魔王がジタバタしている。


「お前、なんで急に帰るなんて言い出してんだ? さっきまであんなに帰らないとごねてただろう?」


 顔を近づけて問いただす、貴也。

 魔王は目を泳がせながら視線を逸らす。

 その顔を強引に手で戻し、貴也は睨み付けた。


「貴様こそ、さっきは帰れと言っていたじゃないか。それに妾がここにいない方が貴様達にとっても都合がいいじゃろ? 大人しく妾を帰せ!」


「そうはいかない。どうもお前の態度が気になる。お前、何か隠しているだろう」


 ギクリと擬音が聞こえるほど顔を強張らせる魔王。

 そんな魔王にエドが何かを思い出したかのように口を開く。


「そういえば以前、トパーズホーンに布教に向かった集団がいたと聞いたことが……あれは確か薔薇――」


「知らぬわ、あんな狂信者集団。妾は帰るのじゃ。離せ。離せと言っておろうが!」


 さらにジタバタと暴れだした。

 だが、貴也は逃がさない。

 エドと優紀の手を借りて押さえつける。


「魔王。お前、何をやらかしたんだ? 吐け、白状しろ!」


「断る! これは教皇とも約束したことじゃ。あの件は話せんのじゃ」


「教皇様ですと」


 エドが手を放して顔を引きつらせる。

 その隙に逃げようとした魔王だったが貴也のチョップが脳天に決まった。

 魔王は頭を抱えて蹲っている。


「こいつ、面倒な名前を出しやがって。これじゃあ、強引に吐かせることもできないじゃないか」


 貴也は魔王を睨み付ける。

 そんな貴也を見て魔王はニヤリと笑った。

 涙目で頭を押さえてなかったら恰好が付いたのだろうが。


 それにしても厄介だ。

 一体、その時に何が起こったのだろうか?


 薔薇騎士団が教会の総意に反してまでトパーズホーン討伐に参加する。

 余程、腹に据えかねるようなことが起こったのだろう。

 だから、大義を得たのをこれ幸いと魔王討伐に乗り出した。


 でも、薔薇騎士団をそんなに怒らせるようなことをこいつがするか? 

 神官が怒るようなことだというと神を冒涜したとか? 


 いやいや、こいつは神など何とも思っていないだろうが、信者の前で態々それを蔑ろにするような真似はしないだろう。

 それにもし神を冒涜していたのなら教皇も許さないはずだ。


 ならなんだ。民衆を虐殺したとか?

 それも無いな。

 優紀やエドから聞いた話だと魔王は自国民には大層慕われているそうだ。

 こいつもこいつで善政を何十年も敷いているらしい。

 あんな過酷な環境なのに国は豊かだそうだ。


 ならなんなんだ?


「こいつのことだから、薔薇騎士団の女騎士に手を出して、キレられたとかそんな下らんことだと思ってたのに」


「貴様、なぜそれを!」


 驚愕に目を開きながら自白していた。


「マジでか! お前、そんな下らんことをしてたのか!」


「何を言うか! 薔薇騎士団の団長は清楚で美しい女子なのじゃぞ。本当に狂信者なのが勿体ない」


「だからと言って合意もないのに襲い掛かっちゃダメだろう」


「貴様は妾をなんだと思ってるのじゃ。妾は無理やり手を出すような真似はせぬ。ゆっくり慎重に相手の心を開いていって一緒に添い寝する仲にまで進展したのじゃ。そして、夜にちょこっと触ろうとしたら。奴め、鉄のパンツを履いておった」


 鉄のパンツとは貞操帯のことである。

 中世ヨーロッパで十字軍に参加する兵士が妻や恋人の貞操を守るために着けさせたと言われるものだ。

 その団長は神に身を捧げているので自発的にそんな物を身に着けていたそうだ。


「なるほど、その時にお前の邪な気持ちに気付いた訳だな」


「聖教会は同性愛を認めてませんからね」


 エドと貴也は視線を合わせて同時に深い溜め息を吐いた。


「奴は言うに事欠いて妾のことを邪神の手先だとか言って襲い掛かってきたのじゃ。妾としては返り討ちにしてやっても良かったのじゃがな。美しい女性を傷付けるのは妾の矜持に反する。だから、教皇に話をつけに行ったのじゃ。幸い妾は転移魔法が使えるのでな」


 なるほど、転移で聖教国アクアマリンまで跳んで直接、話をつけたわけか。

 教皇としても女騎士が手を出されたくらいで戦争はしたくないだろう。

 それに未遂でもある。


 それに元々教皇はトパーズホーンへの布教は反対だったそうだ。

 魔族に聖教会の教えが浸透するわけがないと思っていたらしい。

 まあ、平和な国での宗教が魔物が跋扈する過酷な氷結の国で通用するとは思えない。

 そんな教えを守っていては生活など出来ないだろう。

 それでも勝手な使命感に駆りたたれて行ってしまった薔薇騎士団に頭を抱えていたそうだ。


 そんなわけで教皇はすぐに薔薇騎士団を呼び戻しこの件を闇に葬ったわけだ。

 この件がほとんどの団員に知られてなかったのは僥倖だった。

 まあ、同姓に襲われたなんて騎士団長が口を割るはずもないのだが……


 ただ、有耶無耶に終わらせたせいで女騎士団長に火種が燻っていたようだ。

 それが今回の件で一気に燃え上がって、貴也達の前に迫っていると言う訳だ。


 貴也はもう一度溜息を吐く。

 そんな貴也達を見ながら開き直った魔王は


「もう話したぞ。じゃあ、帰るからな」


 今度は止めなかった。

 魔王がいる方がややこしいことになるのは目に見えているから。


 と言う訳で魔王にはいつでも連絡が取れるように念を押してから国に帰す。

 魔王は逃げるように転移魔法を発動、一瞬で帰って行った。


「本当にあいつは騒ぎばかり起こして帰りやがったな」


「本当にそうですね」


 貴也とエドは肩を落としていた。


「それでこれからどうするの?」


 優紀の言は尤もなのだが、今は考えたくない。

 逃げるは恥だが役に立つ。

 いまの魔王にはぴったりの言葉だろう。


 うん。オレも逃げようかな。

 なんて現実逃避をする貴也だった。


逃げ恥の新垣結衣ちゃんがものすごく可愛くて思わずタイトルに使ってしまいました。

これが更新されるのは最終回直前です。

本当に楽しみ。


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