第八十一話 魔王から褒美をやると言われたが無双できない
「バルトにはあとで礼を言っておかないとな」
優紀の話を聞いて貴也はそう漏らしていた。
やはり、あんな勝ち方では納得いかないものも出てくるだろう。
貴也でも納得いかない。
それに、もしあの場で貴也自身が言い訳をしていたら反感を買っていたかもしれない。
それを考えると医務室に担ぎ込まれたのは良かったのかもしれない。
貴也はこれで問題が一つ片付いたとホッと胸を撫で下ろしていた。
それにしてもなんで魔王なんかと戦わなくてはならなかったのだろう。
勢いとノリに任せて決闘してしまったわけだが、危険だったなあと今更ながら反省する。
現に大怪我を追ったわけだし……。
よく考えたら、貴也には戦闘経験などほとんどなかった。
一戦目はこの世界に来てすぐにスラリンと熾烈な激闘を繰り広げたこと。
あれは本当に烈しい闘いだった。
両者ともに死力を尽くして闘い。
そして、引き分けた。
うん。あれは引き分けだ。
引き分けと言ったら引き分けだ。
誰がなんと言おうとそこは譲れない。
二戦目はゴブリン戦だ。
あいつら小癪にも次々仲間を呼びやがって。
ゴブリンの大群を前に戦略的撤退を選んだ貴也は優れた戦術眼を持っていると言っていいだろう。
うん、あれは負けにカウントされるが逃げるのは正解だった戦いだ。
そして、三戦目が魔王である……
あれ? なんかおかしくない?
スライム→ゴブリン→魔王
すっげえ飛び方してる。
一段どころか百段くらい飛んでいる。
RPGスタート直後にラスボスが現れる展開だ。
なに? そのクソゲー。
もう意味が分からない。
幸福とか、不幸とかを超越している所業だ。
オレってもしかして変なスキル持ってるんじゃないか?
チートはよこさないくせにそんなスキルを押し付ける。
この世界の神がどんな奴かはわからないが、それぐらい奇天烈なことをやらかさないとは限らない……。
いや、嘘です。
そんな不敬なことを思っていません。
だからお慈悲を。
ふう、この世界には実際に神様がいることを忘れていた。
心の声とは言え、相手は神だ。
聞かれていないとは限らない。
会ったことはないけど警戒しておいて損はないだろう。
ピコリン
なんだか、嫌な音が頭に響いた。
貴也の妄想が生み出した幻聴なのだが、こういう勘はよく当たる。
妙なフラグを立てたような気がしてならない。
自分の浅はかさに貴也は頭を抱えることしか出来なかった。
それと言うのも全部魔王の所為だ。
本当にあの魔王には困ったものである。
あいつが来て以来、碌な目に遭っていない。
って言うかその原因はこいつだった。
貴也は怒りのままに優紀の頭を殴っておく。
いきなり、何が起こったのか分からないのか優紀が涙目でこちらを睨んでくるがそんなことを気にする貴也ではなかった。
そこでふとその元凶がいないことに気付いた。
「あれ? 魔王は?」
「ああ、エリーなら小腹が空いたからと言って出ていったわよ」
「自由だなぁ! あいつ自分の立場をわかってるのか? いくら賓客扱いでも魔王が勝手に出歩くのはマズいだろう」
「それは大丈夫だよ。決闘のおかげでエリーが話の分かる魔王だって認知されたみたいだから」
そんなことを気楽に言う優紀に貴也は頭痛を覚える。
人間の思考はそれほど短絡的ではない。
圧倒的力を持つ者はいかに優れた人格を持っていても畏れられるものだ。
それが魔王なら当然だろう。
すぐに連れ戻してこいと命令しようとしたところに魔王が戻ってきた。
「おお、目を覚ましたか。このまま目を覚まさなくてもよかったのにな。あはははははは」
「うるせえ! オレが目を覚まさなかったら、魔王は一生優紀と会うことが出来なくなってたんだぞ」
「ぐっ、そうじゃった。よくぞ目覚めた。誉めて遣わす。だが、もう用はない、死ね!」
貴也は咄嗟に頭を下げる。
そして、一瞬前まで頭のあった位置を風の刃が通過する。
「オメエ! 危ないじゃないか」
「あはははは。気にするな」
「気にするわ!」
貴也は冷や汗を垂らしながら怒鳴っていた。
そんな貴也をヒラヒラと手を振って躱し、本題を話し出す。
「それでじゃが。決闘の褒美を決めてなかったことを思い出してな。通常、決闘とは両者が互いにいろいろな物を掛けるものだ。アルとの決闘では互いの誇りが掛けられたわけだが、貴様との決闘はなし崩しだったからな。何も決めておらん。それに魔王に挑み、それを討つ破った者には褒美が与えられることになっておる。何もやらんのは妾の沽券にかかわるからなあ」
「はあ」
はっきり言ってこいつから物を貰おうなんてこれっぽちも思っていない。
ありがた迷惑だ。
褒美と言うがなんだが別のフラグが立ちそうで危険な匂いしかしない。
そんな感じで胡散臭そうに見ていると
「何をそんなに警戒しているのか分からんが、妾は負けたのだ。魔王の矜持にかけて貴様に害をなすようなことはせぬ。それを望むなら別だがな」
いやらしい笑みを浮かべる魔王。
そんな魔王を睨みつけながら「誰がそんな真似するか」と呟く。
「それで褒美はどうする。妾の出来ることなら何でもよいぞ。金銀財宝を望むか? 古の魔導具を望むか? そうだ。我が宝物庫には伝説の剣や鎧などもあるぞ」
「そうだなあ」
貴也は顎に手をやった。
はっきり言ってなかなか魅力的な話だ。
でも、こんな奴から物を貰うのは気が引ける。
それに伝説級の宝などを貰っても碌なことにはならない。
絶対にトラブルになる。
ああいうお宝を持っていて良いのは他人に文句を言わせない権力や力を持っている者だけだ。
貴也にはそのどちらもない。
それなら魔王に何かやって貰うか?
それこそ冗談じゃない。
こいつのことだ予想の斜め上の行動をして貴也の頭を悩ませることをしでかすのだ。
流石は魔王。人に害なす存在だ。
好意で相手を困らせるなんてなかなか出来るものではない。
そうして、考えることしばし。
貴也は名案を思い付いた。
「よし、決めた」
「ほお、なんじゃ」
「とっとと国に帰れ!」
「断る!」
間髪入れずに答える魔王にこめかみを抑える、貴也。
「お前、何でも言うことを聞くと言ったじゃないか」
「妾は妾が出来ることならと言ったはずじゃ。優紀と離れて国に帰ることなど妾には出来ぬ。貴様は妾に死ねと言うのか」
「じゃあ、死ね!」
「グヌヌぬぬ。貴様、言うに事欠いて」
歯軋りをしながら顔を近づけてくる魔王。
貴也も負けずに睨み返す。
そんな攻防が何度か続いたが、結局、褒美は決まらなかった。
本当にこの魔王は厄介である。
どうやら、魔王との付き合いはまだまだ続きそうだった。
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