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第八十話 決闘の解説をするが無双できない


「ここは?」


 目が覚めるとそこには見知らぬ天井があった。

 うん。一度言って見たかったんだよね。

 ていうか、こっちに来てから何度も言ってるような気がする。


 なんてバカなことを考えていると


「貴也!」


 すぐ傍から優紀の声がした。

 どうやらベッドサイドに椅子でも持ってきて起きるのを待っていてくれたらしい。


「ここは医務室か? オレはどのくらい寝てたんだ?」


「もう寝てたじゃないわよ。あんな無茶してスッゴク心配したんだよ」


「ああ、わりい。ちょっと計算外だった。それで勝負はどうなったんだ?」


「もう! 貴也の勝ち。でも、あんな無茶、もうやめてよね」


 怒ってるように頬を膨らませる優紀はそれでも心配そうに言ってくる。

 そんな優紀に貴也は苦笑しつつ


「無茶とかお前にだけは言われたくないんだけどな」


「わたしは良いの。貴也はわたしを止める役なんだから。やっちゃダメ!」


 なんだよ。その身勝手は。

 なんてことを思いながらも貴也は口には出さなかった。

 まあ、心配かけたみたいだし今回は許してやるか


「それであの後どうなったんだ?」


「もう、大変だったんだよ。あの後――」


 貴也が倒れた後のことを優紀が語りだした。






「勝者、貴也!」


 優紀の宣言に観客たちは沈黙で答えた。

 その後もざわつく会場を無視して優紀は声を上げる。


「誰か! 貴也をすぐに医務室へ! 回復魔法はかけたけど重度の火傷を負っていた。念のために医者に見せた方がいい」


 その声を聴いて観客席から軍の関係者が飛び出してきた。

 従軍医師なのか衛生兵なのかはわからないが、貴也に近づき容態の確認を始めている。

 その間に他の何人かが担架を用意していた。


「うん。問題なさそうだね。回復魔法がよく効いている。これなら痕も残らないと思うよ」


 そう言った後、貴也を運び出すように指示を出し、一緒に会場を後にした。

 優紀も本音では後を追いたかったのだが、この場を放って行く訳にはいかないだろう。

 一つ頭を振って気を引き締めると立ち上がる。


 エリーはそんな優紀を今まで黙って待っていてくれたみたいだ。

 エリーと目を合わせると彼女が


「ユウキの判断に不服はないが妾はなんで負けたのじゃ。状況がよくわからぬのじゃが」


 首を傾げるエリーを見ながら優紀は応える。

 まあ、優紀にもわからないことだらけで説明しようがないのだが……


「よくわからないんだけど貴也の背中に火傷があったの。そこには確かにエリーの魔力の痕跡があったわ。火傷はわたしが回復魔法で治しちゃったから、証拠はわたしの証言だけになっちゃうんだけど」


 そこで勝手に治してしまったことを思い出した。

 貴也が火傷を負っていたのを確認したのは優紀だけ。

 慌てていたとは言え、決闘なんだから第三者に確認させるべきだった。

 どうしようと不安そうにエリーに目を向ける。

 そんな優紀の心配を余所に魔王は納得したかのように頷く。


「そうか! どう言う理屈かわからんが妾の魔力があやつに傷を負わせたというならば妾の負けじゃ」


 そう男らしく宣言していた。

 うん。流石は魔王を名乗るだけあって器が大きい。

 優紀は自分の友達が寛大なことと自分が下した判定を信頼してくれていることが嬉しかった。

 そんな優紀に向かってエリーは笑いながら


「どうじゃ。惚れ直したのではないか」


 いつもの冗談を言ってくる。

 だから、素直に感謝を返しておく。


「うん。流石、エリーだね」


 満面の笑顔を浮かべる優紀を見て何故かエリーは胸を押さえて蹲った。


「えっ、エリー、大丈夫。貴也の攻撃は当たってなかったようだけど、エリーもさっきの決闘でどこかケガしたの? まさか、さっきの魔導具の影響!」


 慌てて駆け寄る優紀をエリーは手で制した。


「いや、何でもない。ただ、あまりにも眩しかったから、目がくらんで」


「うん。あの光は眩しかったよね」


 二人の会話は全くかみ合っていなかった。

 そんなこんなもテレビ中継されていたのだが、どうやらこの判定に納得しているのはエリーぐらいらしい。

 流石に軍人たちからの文句はなかったが、観客席からあからさまに不満が声が上がっている。

 しかし、どうして貴也が火傷を負ったのか優紀はわかってないので説明のしようがないのだ。

 そんな感じでほとほと困っていると


「そろそろわたくしの出番ですかね。ちょっと、マイクを貸して頂けますか?」


 そう言って現れたのは白衣姿のおじさんだった。

 どこか胡散臭さが漂っているおじさん。

 なぜか、貴也の周りにはこういう雰囲気の人が多い。

 貴也はもう少し付き合う人を考えるべきだと思う。


 そんな失礼なことを思いながらも優紀はおじさんにマイクを渡した。

 彼はありがとうと礼を言いながらマイクを受け取ると観客に向かって話始める。


「それではバルトロメオ=フォン=マンガンが今の決闘について解説しよう!」


 高らかに宣言するおじさん。

 あとで聞いた話だが、このおじさん、貴也がしている研究の助手らしい。

 こっちに来てもなんだか小難しいことをやってる貴也に呆れてしまう。

 折角の異世界なんだからファンタジーな世界を満喫しないとね。

 今度、狩りにでも連れて行ってあげよう。

 なんて貴也が聞いたら拳骨の一発や二発、飛んできそうなことを考えている優紀だった。

 その間もおじさん改めバルトの解説は続いている。


「まず、貴也さんは魔導具を使って魔王の目をくらましました」


「ちょっと待った!」


 観客席から声が上がる。

 テレビクルーがマイクを持ってその人の元に走っていった。

 なんだか無駄に要領がいいと優紀が呆れていると


「すみません。魔導具の使用は問題ないんですか? 武器は木製の物を使用することになっていたはずですが」


「良い質問ですね。魔導具は武器になるのか。一般的に武器は直接攻撃を加える器物と言う解釈になります。今回、魔導具は直接攻撃に使用してないのでギリギリセーフと判断されます」


「武器ではないことはいいとしても。そもそも魔導具の使用自体がアウトなんじゃないですか?」


 観客なのにグイグイ切り込んでくる。

 その反論にバルトは淡々と答えていた。


「そうですね。ですが、通常、決闘において魔導具の使用の有無は真っ先に決められることです。これについて言及がない時点で魔導具の使用を双方が認めていたと解釈できます。まあ、片方があえて紛らわしいルールにしたのかは不明ですが」


 皮肉交じりの解説に、なるほどと優紀は納得していた。

 ルールを決めている時、これではアルが不利過ぎると思っていたのだ。

 しかし、言われてみると納得のルールである。

 直接的な攻撃道具でなくても魔導具には様々な用途がある。

 あの目晦ましを見ればよくわかるだろう。

 それらを使えば確かに有利にことは運べる。

 エリーが気付いていたかはわからないけど、貴也は魔導具を使ってアルを勝たせようとしたわけだ。

 でも、それならなんでアルは貴也と同じ作戦を取らなかったんだろう。

 優紀は首を傾げる。

 まあ、作戦を思いついたのが、アルが帰った後だったとは知らない優紀には当然の疑問だろう。

 そんな優紀は置いておいて説明は続く。


「それでは解説を続けますね。目晦ましをした後に貴也さんが使用したのはこの魔導具。その名もマイソン。これは強力な魔力吸引機です。これを人体や魔物に接触させてスィッチを入れると相手の魔力を吸引し始めます」


「ちょっと待ったあああ! 魔力を吸引するなんて攻撃じゃないですか」


「残念ながら今回は攻撃には当たりません。今回、魔王は魔力の使用どころか魔力を漏らすことも許されていません。まあ、魔力枯渇を起こすほど吸引すればそれは反則になるでしょうが、そこまでではありません。使わない魔力を吸引して魔王にどんな不利があるでしょうか? それに貴也さん側にもメリットはありません」


「……」


 納得がいかないのは表情を見ればわかる。

 だけど、言ってること自体は間違っていないような気がするので彼は黙ってしまった。

 それを了承と勝手にとらえてバルトは話を進める。


「この魔導具を使った際に残念ながら魔王は魔力の制御を誤って魔力を体外に漏らしてしまった。そうですね。魔王」


「あれを制御を誤ったとか言われるのは心外だが、まあ、魔力が漏れたのは認めよう」


 渋々と言った感じで同意する魔王。

 バルトはそれを確認してから優紀の方に視線を向ける。


「そして、カウントナインで魔王は魔力の漏れを抑えたんですね。勇者様」


「はい。確かに止まりました」


 優紀の言葉を聞いたバルトはニヤリと笑う。


「ですが、この時、すでに不幸は起きていたんです。魔王の漏れ出た魔力に反応してこの魔導具が起動してしまったのです」


 そう言いながらバルトは箱についていた小さな盾のような物を取り出す。

 バルトは優紀にその魔導具を渡してきた。

 優紀はその持ち手の部分を握る。


「よく見ていてくだっさいね」


 そういうと盾の表面にバルトは手を当て魔力を流し始めた。


「熱っ!」


 優紀は慌てて手を放して手に息を吹きかける。


「これは魔法を熱に変換することによって魔法を無効化する魔導具です。今回は運が悪く、マイソンが吸収した魔力に反応して発動してしまったようですね。この魔導具が貴也さんに火傷を負わした元凶です」


 会場が静まり返る。

 そして、まだ、マイクを持っていた人がボソリと一言


「それって魔王は悪くないじゃん」


 会場全体から同意の意思が伝わってくる。


「そうですね。でも、漏れた魔力が貴也さんを傷付けた場合は魔王の反則負けと言うルールですからね。こんな結果になってしまって残念で仕方がありません」


 声には出さないものの会場全体から『絶対わざとだ!』と言う思いが溢れていた。

 そんな中、バルトは自分の想いを吐露する。


「魔王に打ち勝つ為に過去のあらゆる偉人たちは様々な作戦を練り上げて挑んできました。そして、そこまでしても敗れた者がほとんどです。魔王とはそんな規格外の存在。そんな魔王に多少魔法が使えるだけの素人が立ち向かったんです。そんなことが出来る人間がどこにいるんですかね」


 その言葉はこの場にいるすべての人間を黙らした。

 それでも納得がいかないという顔をしている人もいるがそれは仕方がないだろう。

 そんな中、優紀は何とも貴也らしいやり方だと、思わず笑みをこぼすのだった。




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