第七十九話 決闘開始! 貴也の戦略で無双できない
「はじめ!」
優紀を腕が勢い振り下ろされた。
歓声が破裂する。
貴也は歓声に後押しされるかのように走り出す。
だが、その歩みはかなり遅い。
装備が重た過ぎて真面に走れないのだ。
ガチャガチャと音を立てながら走る格好は無様としか形容できない。
素人丸出しで隙だらけだ。
そんな中でも魔王は微動だにせず、黙ってその場から動かない。
初撃はこちらに譲ってくれるつもりなのだろうか。
考えている間にも間合いに入る。
貴也は無造作に剣を持つ右手を振り上げた。
型も何もないその所作に会場から失笑が生まれ――
その時、貴也の姿がぶれた。
会場にいた大半の人間は貴也を見失っている。
「はあ、やっぱりこんな子供だましに引っ掛かってはくれないか」
「妾をあまりバカにするでないぞ。そなたの考えそうなことくらいお見通しじゃ」
「その割には顔が引きつっているようだがな」
「バカを申すな!」
唾を吐き散らす勢いで怒鳴り散らす、魔王。
いつの間にか魔王と貴也の位置が入れ替わっていた。
何が起こったのか分かっていない者達からどよめきが上がっている。
流石に軍の人間は気付いていたようで感心しているようだった。
いや、わかっていない者もいたようだ。
隊長格の人間に怒鳴られている。
「スゴイ、スゴイ。貴也ってかなり高位の身体強化魔法が使えるんだね」
優紀がはしゃいでそんなことを言っている。
魔王がまた「ぐぬぬ」と呻きだした。
そんな魔王を見ながら貴也は盾を前に出してその陰に隠れるように身構える。
ダメもとのつもりでやってみたのだが、失敗するとやっぱり残念だ。
これで決着が付けば良いと本音では思っていた。
優紀の言った通り、貴也のやったことは身体強化魔法だった。
素人丸出しの動きで相手を油断させ、攻撃の瞬間に身体強化魔法で加速する。
魔法の発動スピードに自身のある貴也は攻撃の瞬間まで魔法のそぶりを全く見せなかった。
普通の人間なら急激な速度変化に貴也が消えたように感じただろう。
それなのに魔王は危なげなく対応して見せた。
まあ、予兆なく魔法が発動したことに少しは驚いてくれたみたいだが……
しかし、こんな不意打ちは初見でしか通用しない。
強化魔法を駆使しても速さは優紀や昨日やられた騎士たちにも遠く及ばないのだから。
だが、貴也の作戦はこれだけではない。
「じゃあ、次の一手と行こうかな」
そういうと、貴也は鎧を脱ぎだした。
「貴様は決闘中に何をやっているのだ?」
魔王の呆れたような声が響く。
観客席の面々も首を傾げていた。
まあ、普通は決闘中に鎧を脱ぐなんてことはしないわな。
だが、貴也は平然と鎧を脱ぎ続ける。
「こんな重いもんいつまでも着てられないだろう。鎧の上からでも有効打は有効打だからな。なあ、そうだろう?」
「そうだね。小手や足甲で打撃を交わすなら防御とみなすけど魔王なら鎧くらい断ち切るからね。鎧の上からでも有効だよ」
「なら鎧は重いだけの邪魔なものだ。油断を誘えないなら、もう無駄だろ。まあ、背負ってる箱は下ろさないけどな。これは当たったら防御として認めてくれるんだろ」
「うん。それは魔王も認めたからね」
そんな風に優紀に確認しながら時間を稼ぐ、貴也。
だが、貴也の場合、これだけでは終わらない。
「なあ、魔王。いまは決闘の最中だぞ。攻撃してこなくていいのか?」
明らかな挑発行為。
それが分かっているのか魔王はギリギリと歯軋りする。
「貴様はまだ妾を愚弄する気か。無防備な人間を攻撃するなどそんな恥知らずなことは出来ぬ」
魔王がそう断言したのは残りが兜と袴部分だけになったところだ。
「別に攻撃してきても卑怯だとは思わないのに。でも、それなら早くしないとな!」
貴也は腰の金具に手をかけ袴を重力に任せて落としながらそこに張り付けていた物に魔力を通す。
その瞬間、世界が真っ白にっ染まった。
そう初代の遺産のあのメダルだ。
護身用の発光魔導具とは威力が違う。
その光は観客席にも届いており、不意打ちを食らった人間が悲鳴を上げている。
貴也は兜を目深にかぶってこれを防いでいた。
そして魔王は。
さすがの魔王も目を逸らしていた。
その隙に貴也は背後の箱に手を回して棒状の物を魔王に向けて振り下ろす。
「甘いわ! 貴様の攻撃など見えなくても見切っておるわ!」
魔王は難なくそれを手で掴んだ。
貴也は素早く。
「そんなことは承知だよ! スィッチ、オ~~~ン」
貴也が叫ぶ。
それと同時に背後の箱から唸るような音が響いてきた。
「なっ、なんじゃ!」
「優紀! カウント!」
「えっ? なになに? ホントだ。ワン、ツウ……」
「なんでじゃ。魔力が吸い出されていく」
「スリー、フォー……」
突然、自分の魔力が吸い上げられて驚く、魔王。
その間も容赦なくカウントは進行していく。
それが焦りを呼び。
対応が遅れる。
「ファイブ、シックス……」
「待つのじゃ! この!」
「セブン、エイト……」
「ふんぬ!」
「ナイン……うん、魔力が止まったね」
「ふう、危うく負ける所じゃった。本にこやつは油断ならん」
魔王は慌てて棒を放り出して一歩退く。
そして、念のために掌だけでなく他の魔力口も完全に閉じた。
決闘に魔力は使えないので当然の対応だろう。
魔王は額に浮かんだ汗を拭い
「これで貴様の手品は終わりか。よくこのような姑息な真似を考えられる。いい加減、頭にきておるのだ。この茶番を終わらせてもらうぞ」
魔王は歯をむき出して笑う。
その凶悪な笑いに観客席から悲鳴が上がった。
そんな魔王に貴也は不敵に笑う。
「何言ってるんだ。もう勝負はついている」
なにを言ってるんだ、こいつ。と訝し気に思う魔王だが油断はしていない。
観客たちもみんな頭上に疑問符を浮かべている。
でも、我慢できたのはそれまでだった。
貴也はどさりと倒れてのた打ち回る。
そして、なんとか背負っていた箱を下して呻いていた。
「貴也!」
慌てて近寄る優紀。
そして、貴也の背中を見て慌てて回復魔法を放った。
しばらくすると、痛みが引いていく。
しかし、先程の激痛のせいで思考がまとまらない。
そんな中、優紀が宣言した。
「勝者、貴也!」
その声を聴いて貴也は気を失った。
さて、第二章ももう少しで終わりです。
今後の展開についていろいろ考えているのですが、少し思っていたのとは違う方向に進みかけています。
どうしよう。いまかなり悩んでいます。
そこでよろしければ皆様の意見を聞かせてください。
活動報告に内容を書いておくので良ければ答えてください。
下に小説家になろう勝手にランキングのリンクが貼ってあります。
宜しければ一日一票投票できるのでリンクを踏んで投票してください。