第七十八話 決闘から逃げられなくて無双できない
で、結局どうなったかと言うと断れませんでした。
数の暴力怖い。
「はあ、それでそっちから決闘申し込んできたからにはルールはこっちで決めていいんだよな」
「うむ。構わぬぞ」
「なら、オセロで勝負だ!」
実はこちらの世界にはオセロどころか将棋まである。
将棋などは地味に人気があり、世界大会まであるのには笑った。
本当に日本人転移者のバイタリティーには脱帽である。
マンガやアニメを見た時もそう思ったが、無ければこちらで作ればいいじゃん。の精神は如何な物だろうか?
みんな秀吉過ぎる。
ちなみに貴也は家康派だ。
きっと誰かが作ってくれるはず。
なんてことを考えている貴也はマンガで一攫千金を狙っていたことをすっかり忘れているのだった。
さて現実逃避はこの辺にしといて
「妾はそれで構わぬのだが、観客がそれで許してくれるかな?」
ニヤニヤと笑う魔王を後押しするかのようにブーイングが上がっている。
ブーイングは異世界も共通のなのか、本当に「ブウウウウウウウ」とみんなが叫んでいる。
これも地球人が広めたのだろうか
それにしてもみんなノリが良すぎる。
本当にこのままでは収拾がつかない。
暴動でも起きそうな状態だ。
貴也は盛大に溜息を吐く。
「わかった。わかった。ただ、若干ルールは変更させてもらう。基本はアルとの決闘と同じでいい。ああ、魔力使用のカウントをする人がいるなあ……まあいいや、それも優紀がやってくれ。魔カウントは厳密に取らなくてもいい。出来るか? 優紀」
「まあ、出来る範囲でよければね」
「うん。それで問題ない。でも、それだとオレが不利だなあ。なら、漏れたものでも魔王の魔力によってオレがダメージを受けた場合は魔王の反則負けってことでどうだ?」
「まあ、貴様も妥協してるのだそのくらいは良いだろう。魔法になっていない魔力は余程の高濃度にならなければ人体に害を与えない。流石の妾も意識せずにそんな魔力は出せん」
「なら、そういうことで。あと、一番肝心なこと。勝負は戦闘不能じゃなくて急所に一撃入れるかどうかで決着。有効部位は頭、首、胸、腹部。このいずれかに綺麗な攻撃が入ればその者の勝ち。オレは痛めつけるのも、痛い思いをするのは嫌だからな。有効打の判定は審判のジャッジで決めてもらう」
「妾はそれで構わぬぞ」
「じゃあ、それで。開始時間は一時間後……いや、切りのいいところで三時な」
「妾はすぐにでも構わぬが」
余裕の表情を浮かべて答える、魔王。
その顔に忌々しさを覚えながら
「オレが準備しなくちゃいけないの!」
と言い放つと、貴也はそのまま会場を後にしようと歩き出した。
しかし、何を思ったのか立ち止まり、徐にマイクを取る。
何事かと視線が集まってきた中、貴也は口角を上げ
「お前ら、いつまでもここにいるけど、業務は問題ないんだろうな。あとで問題になっても知らねえぞ!」
意趣返しのつもりで叫んだ。
決闘時間事体はそれほど長くなかったがそれでも現在は午後一時四十五分。
休憩時間が終わっている者も多数いるはずだ。
貴也の発言を聞くまで完全に忘れていたのか、慌てて会場を離れるものが出てきた。
うん。とりあえず、これで観客の人数が減るだろう。
貴也は今度こそ準備のために会場を後にした。
「えっと、あそこにあるのは何なんだ?」
試合十分前に戻ってきた貴也は舞台の前にセッティングされている物を見て優紀に訊いていた。
「ああ、あれね。テレビカメラだって。仕事でここに来れない人から抗議が上がったらしくて急遽準備したみたい。なんか、仕事ほったらかしてこの場に来ようとした人が続出したんだって」
「どんだけ、楽しみにしてんだよ!」
本当にこんな奴らが領地を運営していて大丈夫なのだろうか?
一度、公爵やクロードに問い詰めなければならない。
そんなことを考えながら貴也は舞台に上がっていく。
「どうやら逃げなかったようだな。それだけは褒めてつかわすぞ」
「そりゃどうも」
つれない返事に魔王のこめかみがピクリと反応したが、すぐに表情を緩めた。
多分、この後に貴也をいたぶることを考えて思い直したのだろう。
どう考えても貴也に勝ち目はないのだから。
そんなことを考えながら魔王は貴也を値踏みしている。
「それにしても随分な重装備だのう。そんなに妾が怖いか?」
「ああ、怖いね。それに今回の勝負は有効打を相手に入れることだ。防備を固めるのは当たり前だろう?」
そういって不敵に笑う、貴也。
いまの貴也の格好は背中には大きな金属製の箱が付いたフルプレートメイル。
そして、左手に魔導アーマーの装甲から作ったあの大楯を装備していた。
誰が見ても重装備である。
「その背中についているのはなんだ?」
目を細めてそう聞いてくる魔王に貴也は平然と
「背後からの攻撃を防ぐための物だ。まさか箱への攻撃を有効打とは言わないだろう?」
「ふん。姑息なことを考えよる。まあ良い。元々後ろから攻撃する気などない。それより、お前こそ大丈夫なのか? 重くて真面に動けなさそうじゃが」
確かに貴也の筋力では着ているだけでやっとだった。
だが、そんなものはわかってやっている。
貴也は毅然と
「構わん。それより、これは使っていいんだな」
貴也は背後の箱を指差して確認する。
「構わん。それぐらいのハンデくれてやるわ」
不敵に答える魔王。
貴也は兜を被りながらニヤリと笑う。
兜の影で魔王には見えていないだろう。
背負っている物を指摘された時は内心冷や汗を掻いてしまったが言質も取れたことだし後顧の憂いはなくなった。
貴也は悠然と待ち構える。
このやり取りも中継されているみたいで闘技場に設置されている大型モニターに映し出されていた。
観客席の面々は盛り上がり始めている。
こいつ等、仕事しなくていいのかよ。と思いながら観客席を見渡すと、見覚えのある顔がちらほらと大半が軍関係者や衛兵さん達だ。
決闘の見学も訓練のうちだとか言って見に来ているのだろう。
中には酒や賭け事をしている奴らもいるのでそいつらについてはちゃんと心のうちにメモしておく。
「それじゃあ、そろそろ始めるよ」
優紀が声を上げると歓声が上がった。
場内からだけではなく遠くからも声が聞こえてきたのには頭が痛くなってきた。
マジでこの領は大丈夫なのだろうか?
そんなことを考えている間に優紀の右手が上がっていく。
そして、戦いの火ぶたは切って落とされるのであった。
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