第七十七話 決闘の幕が切って落ちるが無双できない
祝七十七話
よく、ここまで続いたものだ。
「これはひどいなあ」
最初は工房前の広場で決闘を行おうと思っていたのだが、クロードに言われて場所を城内の闘技場に移した。
その時点である程度予想はしていたのだが、それにしてもこれはひどい状態だった。
貴也は闘技場の舞台に降りてあたりを見渡す。
決闘の開始時間までまだ三十分はあるのにすでに客席は満員になっていた。
城内の闘技場はそれほど広くないのだが、それでも客席だけで三千人は収容できる。
これって城で働いている人のほとんどがここに来ているということにならないかと貴也は呆れて肩を竦めていた。
まあ、昼休憩の時間帯なので問題ないが、こんなことで業務が止まってもいいのだろうかと首を傾げざる得ない。
それにこの状況、アルが非常に可哀想な立場に立たされるような気がする。
はっきり言ってアルには勝ち目がない。
つまり、大衆の前で敗けっぷりを見せるわけだ。
「クロードさん。マジで怒ってんだなあ」
と思わず言葉が漏れてしまった。
そうこうするうちに東西の登場門がざわつきだした。
西にアルが東に魔王が控えている。
そして、東の門から優紀がやってきた。
「お~い。貴也。なんだかスゴイ大事になってるね」
観客席を見て楽しそうにいう、優紀。
貴也は頭が痛くなるのを堪えていた。
きっと、こいつにアルの立場のことなんて言っても分からないだろうから黙っておこう。
そんなことより、こいつには審判をしっかりやって貰わないといけないのだから。
と言う訳で一応釘を刺しておく。
「お前は大丈夫なのか?」
「何が?」
「何がって審判だよ。こんな大勢の前で決闘の審判なんてやったことないだろう。間違っても魔王もアルも死んでもらったら困るんだからな。ちゃんと、その前に止めて貰わないと」
貴也が心配そうにそういうと、優紀はカラカラと笑って
「そんな心配いらないよ。多分、勝負は一瞬で決まるよ。魔王は強いもん」
「まあ、そうなんだろうけどな」
貴也はアルが哀れでしょうがなかった。
こいつはアルが何のために立ち上がったか分かっているのだろうか。
もう少しアルの気持ちに配慮してほしい。
そうじゃないとあいつが報われなさすぎる。
なんだかアルが不憫で塩辛い液体が貴也の目から零れ落ちた。
そうこうする内に決闘の時間がやってきた。
貴也はマイクを取り出すと観衆に向かう。
「ただいまより、魔王と公爵家次男 アレックス様の決闘を始めます!」
ひと際盛大な歓声が上がった。
ほとんどがアレックスを呼ぶ声だが、中には魔王を応援する声も混じっている。
ここにいるのは公爵領の軍関係者か公務員、使用人のはずなのだが……
こいつ等、主筋を応援しないで大丈夫なのか?
そう思うものの、こう人が多くては特定するのは難しい。
まあ、発覚しても処分されるようなことはないだろうが。
公爵様はそういうところは寛大なのである。
怪文書など配られればちゃんと捜査し、処分をする。
が、悪口くらいで目くじらを立てない。
パレード中に飛び出してきて公爵を誹謗するような奴も笑って許し、車から降りてその者の話を聞くくらいの器量の持ち主だ。
まあ、そんなことやられたら相手側が真面なことを答えられるわけもなく、結局、赤っ恥を欠くことになるのだが……
それを狙っている公爵は本当にそこ意地が悪い。
おっと思わず本音が漏れてしまった。
今はそんなことをしている場合じゃない、決闘、決闘。
「それでは選手の入場です。西から入場するのは我が公爵家の次男坊。魔法使いでありながら軍に参加し剣の腕も磨く魔法剣士! アレックス、フォ~~~~~ン、タイタニュ~~ム~~!!!!」
「「「「「「「「「わああああああああああ」」」」」」」」」」」」
大歓声の中、鎧姿のアルが小脇に兜を抱えながら歩いてくる。
アルは緊張の面持ちながら観衆に手を振って応えていた。
そして、アルが舞台に上がると潮が引くように歓声が収まっていく。
そして、空白が生まれた所で貴也は声を上げた。
「続いては! 輝くトパーズの角を持ち、膨大なる魔力と空間を自在に操る稀代の魔王。その魔力を今回は封印されているが、そんなことでは魔王の力は損なわれない。金色の魔王~~~~! トパ~~~~ズ、ホ~~~~~~ン!!!」
「「「「「「「「わあああああああああああああああああ」」」」」」」」
アルに負けない歓声が帰ってきた。
会場は興奮の坩堝と化す。
彼女はその歓声の中いかにも魔王然と堂々とした足取りで歩んでくる。
その姿を見て黄色い歓声が飛ぶ。
どういう訳か目を見張る美人なのに男の声より圧倒的に女性の声が多かった。
魔王は女性にモテるみたいだ。
悔しくなんかないんだからね!
魔王が舞台に立つとアルと魔王へのコールが木霊する。
耳が痛くなるほどの大音声だ。
しばらく、観客が落ち着くのを待ってみたが、興奮は収まるどころが昂っていく。
もう収拾はつきそうにない。
貴也は諦めて舞台を降りマイクを握りなおす。
そして、視線で優紀に合図した。
優紀は頷きで答える。
「では、ただいまより決闘を開始します!!!」
貴也の叫びと同時に優紀が両手で試合開始の合図を行う。
両者が一斉に飛び出し、剣が激しく振りあわされる。
そして
カラ~~ン
甲高い音が響き渡っていた。
音の方を見るとアルが持っていた盾が転がっている。
一瞬で静寂が訪れる。
そして、会場に響くどさりと言う重い音。
視線がそちらに向くと倒れているアルが
「勝負あり!!!」
優紀の裁定が下った。
アルの傍には悠々と佇む魔王の姿が
勝負はあっけなく終了した。
うん、もうちょっと盛り上げよとか考えろよ、魔王。
その気持ちは観客も一緒だったみたいで一斉にブーイングが巻き起こる。
このまま暴動でも起こるかと思われたが、いつの間にか魔王がマイクを取り出していた。
「皆の者。アレックスとの勝負はついたが、これだけでは納得がいかないのではないか!」
「そうだ! そうだ!」
「折角、盛り上がってきたところだ。まだまだ、続きを見たいよな!」
「そうだ! そうだ!」
「物足りなくはないか!!」
「おおおおおおおおおおおおおおお」
うわあああ。なんかスッゴイ嫌な予感がする。
「そこの執事! 次は貴様の番だ!」
「「「「「「「「うわああああああああああああああ」」」」」」」」
煽りまくって貴也の逃げ場をなくしていく、魔王。
彼女はニヤリといかにも魔王的な笑顔を向けてくる。
そんな彼女に貴也は
「だが、断る!!!!!」
大声で叫び返すのだった。
祝七十七話です。
ここまで続いた自分を褒めてあげたい。
と言う訳で、皆さま、わたしにご褒美の評価ポイントをくださいwww
まあ、冗談はここまでにして、ここまで続けられたのも読んでいただいてる皆さんのおかげです。
ブックマークや評価、アクセスポイントの上昇などに一喜一憂している間にいつの間にか
七十七話も続いてしまったって感じです。
まだ続くのでこれからもお願いいたします。