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第七話 冒険者ギルドの設備が凄くて無双できない。

「それじゃあ、こちらの書類に記入してもらえる。わからないところがあったら聞いてね」

 

 別室に案内された貴也は書類の束を受け取った。

 A4サイズくらいの紙にいろいろな質問が掛かれている。

 その紙に目を通しながら貴也は


「わかった。でも、その前に関係ないことだけど一つ質問していい?」


「わたしにわかることならいいけど、なに?」


 小首を傾げるマリア。


「えっと、カインのことなんだけど、あいつってマリアさんとは別の言語をしゃべっているの? ゴメスやマリアさんが喋っているのを聞いてると、どうもあいつの言葉だけ変なんだよ」


「変ってどういう風に?」


「イントネーションや語尾とかが微妙に違うんだよ。みんなは標準語なのにあいつだけ、いろんな地方の訛りが混じってるんだ」


「なるほど、翻訳ってそういうところまで忠実に再現しているのね。あいつのお祖父さんは元々、北にある山奥の村に住んでたのよ。あいつはお祖父ちゃん子だったから、その影響で若干、訛ってるのよ。それで変な翻訳のされ方をしているのかも」


「そんなことってあるの?」


「個人差があるみたいだけど、特定の言語が変わった風に聞こえることはあるらしいわよ。獣人語の語尾にニャンとかワンとかついたり、エルフ語がどうしても高圧的なお嬢様言葉に聞こえたり、する人もいたらしいわ。その人の知識や主観で微妙な差異が出るみたいね」


 なるほど、ということはあの変な訛りは貴也がカインのことを田舎者認定しているのと、カインの言葉自体が訛っている相乗効果なわけか。


 さすが異世界、奥が深い。


 そんなバカなことを考えている時、ふと疑問が浮かんだ。

 貴也は書類を見ながら小首を傾げ


「どうかしたの?」


「どういう訳か字が読めるんだけど?」


「ああ、それね。不思議なことに転移者はこちらの世界の言語、文字を自分が元いた世界の物に変換しているみたいなの。だから、どんな文字を読めるし、自分の知っている文字を書けば、自動的にこちらの世界の文字に変換されているわ」


「なにそれ、地味に凄い能力ですね」


 まてよ。

 それなら、翻訳家になれば以外に稼げるかも、こちらの世界はファンタジーだし、魔法文字とか古代文字とかもあるかもしれないし、そう言う物も翻訳できるなら何かすごいことができるかもしれない。


 貴也はニヤリとい笑う。


 そんな貴也を見たマリアは嘆息して


「何考えているか想像できるから言っておくけど。確かに昔は古代語の翻訳や通訳で異世界人は引っ張りだこだったわ。でも、今は翻訳機の性能が進化したからあんまり役に立たないわよ」


「えっ?」


「全く未知の言語が発見されれば別だけど、過去に来た異世界人がほとんどの言語、文字の解読をしちゃったからね。それを元に同時通訳の翻訳機が開発されたの。今ならヘッドホンサイズでどんな言語を同時通訳してくれるわ」


 また、科学の力かよ。

 この世界の技術はとことん貴也の邪魔をしてくるようだ。

 忌々しい。


 まあ、出来ないことは仕様がない。

 とりあえず、今やるべきことをするか、と書類に向き直る。


 格闘すること14,5分。


「こんな感じでいいですか?」


「えっ? もう終わったの?」


 次の準備をしていたのか、何やら機械の前で作業していたマリアさんがこちらにやってくる。

 そして、書類をパラパラめくって確認し


「すごいわね。指摘するところがないわ。貴也君は日本でこういう書類仕事をしていたの?」


「ええ、それがメインという訳じゃないんですけど上司がそういうの全くしない人で俺が全部……」


 貴也の表情が苦い物に変わっていく。

 それを見たマリアはこちらに向かって同情の目を向けてきた。


「どこの世界も同じなのね。ほんと、使えない上司には困ったものだわ」


 しみじみと言うマリアの声には実感がこもっていた。


 この人も優秀そうだし、上司に苦労させられているのだろう。

 仕事というものは自然と出来る人の周りにやってくるものなのである。


 少しとっつき難そうだったマリアだったが急に親近感がわいてきた。

 この人もしなくてもいい苦労を買って出ちゃうタイプなのだろう。


 そんなことを考えている間にマリアは機械の前に戻ってセッティング作業を続けている。

 

 しばらく待っていると


「よし、準備完了。貴也君。そこの円い台の上に乗ってくれる。スライムはそこに置いておいてね」


 マリアは部屋の中央にある台座を指していた。

 高さ15cm、直径1mくらいの金属の台。

 真ん中に足形があり、外周の手前に円が描かれている。

 色は白く塗装されており、ところどころ発光している。


 貴也は言われた通り、テーブルにスラリンを置いてジッとしているように言い聞かせると台に上った。


「少しの間、じっとしててね。今から光の輪が出てきて貴也君の身体をゆっくり通過していくけど身体に害のあるものじゃないから」


「レントゲンとかCTのようなものかな?」


「話が早くて助かるわ。これで健康状態や大まかな能力を測定するの」


「大まかな能力?」


「そう、これである程度測定できるの。内容は結果を見ながらの方が早いからあとで説明してあげるわ」


「服は着たままでいいの?」


「脱ぎたかったら脱いでもいいけど、意味はないわね。――どうする?」


 挑発するような口調に視線。

 完全にからかっているのが分かったので迷わずベルトに手をかける貴也。


 それに気付いたマリアは慌てて


「冗談よ。そのままでいいから! 脱がないの!」


 ほんのり顔が赤くなっているマリアは可愛かった。


 貴也がニヤニヤ笑っているのを察したのか、急にマリアの視線が冷たくなってくる。

 ある一部の人には十分ご褒美になる視線であったが、貴也にはそんな趣味はない。


 慌てて視線を外すとマリアは大きく息をついてから


「もう、始めるわよ」


 と言うと返事を待たずにさっさと機械を始動させた。


 しばらくすると台が振動している感触が足から伝わってきた。


 貴也は内心慌てていたが、それをこらえてじっとしている。


「そんなに緊張しないでいいわよ。力を抜いてリラックスして」


 クスクスと笑うマリア。

 気恥ずかしくてその場から逃げ出したくなるが、それをやれば恥の上塗りだ。

 だから、その場で大きく深呼吸。

 意識して全身の力を抜こうとする。


 まあ、意識している時点で全然リラックスできてないんだけど。


「じゃあ、測定を始めるわ」


「はい。お願いしまうう」


 思いっきり噛んでしまった。


 恥ずかしさを堪えて身体がプルプルしている貴也を見て、マリアさんは吹き出すのを懸命にこらえているのが分かる。

 スラリンが声をあげて笑っているのが視界に入ってきた。

 とりあえず、平常心。

 笑われているなんて気付いていません。


 そうこうする内に足元に青く透明な光の輪が生まれた。

 しばらくするとそれが徐々に上がってくる。


 何も感じないのだが、何かが身体が通っている気がする。


 光の輪は頭を通過するとすぐに消えた。


「はい。これで終わりです。結果の説明をするからあっちで座って待ってて」


 そう言うとマリアは機械に向かってしまった。


 仕方がないので書類を書いていたテーブルに戻って腰かける。

 スラリンはすっかり定位置となった頭の上だ。

 ただ、乗せる前に一発殴っておくのは忘れない。


 しばらく、スラリンとじゃれているとマリアがA4サイズくらいのボードを小脇に抱えてやってきた。


「お待たせ」


「結果なんだけど……」


 そういいながら持っていたボードに指を走らせる。

 どうやら、タブレット端末みたいなものらしい。


 マリアが二、三回指を滑らすっとテーブルの上に3Dの画像が現れた。

 腕を少し広げた簡易的な人型がゆっくりとくるくる回っている。


「まずは病気の有無についてだけど……全くの健康体ね。この世界にいない有害なバクテリア、ウィルスの反応なし、胃にピロリ菌がいるくらいね。あと、直ぐに体調が悪化するような病変はないわね。大腸に小さなポリープがあるくらいかしら」


「ポリープって大丈夫なの?」


「良性だし小さな物だから心配ないわよ。この世界ではよっぽどの手遅れじゃない限り、手術、薬、魔法でガンは完治するわよ。まあ、お金はかかるけど」


 さすが異世界。

 もう驚くことが馬鹿らしくなってくる。


「怖い病気は未知のウィルスやバクテリアかな。既存の病気はほとんど克服されているわよ」


「ほとんどってことは治らない病気もあるってこと?」


 不安そうに聞く貴也を安心させるように笑いながらマリアが続ける。


「そりゃそうよ。魔法も科学も万能じゃないわ。でも、心配はいらないわよ。死ぬような病気は治療法が確立しているわ。ただ、寿命が関わってくるようなものはいくら何でも無理よ。あとは虫歯とか風邪とかかな」


「風邪?」


「そうよ。風邪って怖い病気なのよ。誰もが頻繁にひくし、変異もしやすい。特効薬が出来たと思ったら、すぐに効かない種類の風邪が現れる。それに重症化するような場合を除いたら、二、三日安静にしていればよくなるからね。高額な薬や魔法を使って治療することもないのよ。結果、風邪はいつまでたってもなくならない。そんで百年に一度くらい厄介な風邪が流行って大変なことになる。でも、それが治まると、またいつも通りだから対策がおざなりになるのよね」


 お手上げという感じで肩を竦める。


「まあ、心配するようなことはないわよ。それにしてもあなたすごいわね。こんな身体能力でこの免疫力って。風邪もひきにくいんじゃない?」


 タブレットを見ながら感心するように声を上げる。


「風邪はひいたことはあんまりないですね。そんなにすごいんですか?」


「身体能力が高い人は自然に免疫系も強いのよ。この世界にはモンスターがいるからね。毒を持っているのや、病気を持っているものもいる。だから、そういうのと戦う人は耐性がすぐにつくように免疫系がしっかりしている人が多いの。ちなみにあなたの免疫力はA級冒険者並みよ。ほぼ100パーセントの確率でかかるケイオスドラゴンのカオティックブレスを喰らってもバットステータスをレジスト出来るレベルね」


「それってすごいんですか?」


「すごいわよ。王都にいる大神官クラスの回復呪文じゃないと治癒できない最悪、最凶の病気系バットステータスよ。それを無効化出来る人なんて百万人に一人いるかどうかよ」


 それはすごい。

 冒険者になるのを諦めていたけどこれなら何か手があるのかもしれない。


 しかし、この世界はそんなに甘くはない。

 淡い期待をマリアは木っ端みじんに粉砕してくる。


「でも、だめよ。あなたが強いのは免疫力だけだから、バッドステータスにはならないかもしれないけど、その前にブレスの威力で死ぬわ。ドラゴンのブレスよ。普通の人なんて吹き飛ばされてご臨終よ」


「ほえ」


 変な声を出す貴也。

 マリアは気の毒そうな声で先を続ける。


「あなたの身体能力だけどこの世界に住む住人の平均より若干低いくらいなの。町で暮らす分には問題ないレベルだけど、冒険者は無理ね。成人してすぐ冒険者になった新人君レベル。若くて素質があればそこから鍛えて発展していく余地があるけど、あなたには才能がないみたいだしその年だと厳しいわね」


「そんなこともわかるんですか」


「ええ、筋肉の質や付き方で鍛えたときにどれくらい成長するか予測が出来るの。まあ、あくまでも予測だから外れることはあるけど、死ぬような特訓くらいでは覆らないわよ?」


 あくまで目安という話だが現状と鍛えたときの予測能力の値を見せてもらった。


 項目は身長体重、視力、聴力、嗅覚、味覚、身体能力、器用さ、体力、魔法などなど。

 これが大項目で、さらに細かい内容の中項目、そこからさらに細かな小項目も見ることが出来る。


 例えば、身体能力なら中項目は瞬間筋力、持久筋力、持久力、瞬発力、俊敏性、跳躍力などなどに分けられ。瞬間筋力の小項目になると、さらにパーツごとに記載されている。


 余談だが、身体能力がFでも他の項目の値が低いだけで腕の瞬間筋力だけはSという人もいたりするらしい。

 まあ、そんな人は滅多にいないのだけど。


 まあ、そんなことは置いといて


 あの一瞬でここまでのことが分かるなんて驚きだ。


 この世界の科学技術のすごさを改めて実感する貴也だった。


 ちなみに一般人がFでE、D、C、B、A、Sの順に能力が高い。

 オリンピックレベルのアスリートがCランクの身体能力と言えば理解しやすいでしょうか。


 貴也の結果は、現状、器用さと体力がそれぞれC、それ以外は全部Fだった。


 どうやら、この世界はやっぱり貴也には厳しいようだ。




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