第七十六話 続、本当に使えないものばかりで無双できない
「それでは次に行ってみようか」
「おう!」
以外にノリのいいバルトと共に遺産の物色を続ける。
「これなんていいんじゃないですか?」
バルトが持ってきたのは裏に取っ手のついた一枚のプレート。
形状的には盾なのだが、防御力の無さそうな五十センチ四方の薄い板なのでプレートとしか呼べない。
重さや色合い触感は鉄っぽいのだが、多分魔物素材なのだろう。
う~ん、何かの蓋だろうか。
「ああ、これか。これはオレも考えていたんだけど、問題は使い方だな」
貴也はそう言ってプレートをいろんな角度から見ながら考える。
そこにアルが
「これってどんなことに使えるんですか?」
「アルは知らないのか? じゃあ、ちょっと持ってみろ」
そういうと貴也はプレートをアルに渡す。
取っ手を握ってアルは貴也と同じように色々な角度から眺めている。
「アル。そのプレートをちょっと、こっちに向けてくれ」
そういうと貴也は初級の水魔法ウォータバレットをアルに向かって放つ。
アルは慌ててプレートで魔法を受け止めた。
「ちょっと、なにするんですか! って熱っ!」
アルは慌ててプレートを放り出す。
プレートはカランと音を立てて転がった。
アルはフウフウと手に息を吹きかけていた。
うん。実験は成功だ。
「もういきなり何するんですか? それに何なんですか、これ?」
説明せずにいきなり実験に巻き込まれたアルはご立腹のようだ。
だが、そんなことを気にする貴也ではない。
「何言ってるんだ。効果を知るには実感するのが一番なんだぞ」
そういうとアルは今起こったことを思い出して息を飲んでいる。
貴也の言ったことを真面目に受け取るアルは素直すぎて大丈夫かと貴也は心配になった。
本当に『決して自分ではやらないよ』と心の中で付け加える貴也とはエライ違いだ。
そんなことを考えている間にもアルは真相に行きついたようだ。
「このプレート濡れてませんよ?」
「そうだ。ウォータバレットの魔法を受けたら普通は濡れるよな。で、何が起こったと思う?」
「まさか、魔法が熱に変換されたということですか?」
「その通りだ」
アルは目を剥いている。
これは非常に有効な防具だ。
どれほどの魔法に効果があるかわからないがこれを使えば魔法を無力化できるかもしれない。
そこに思い至ったのかアルが貴也に詰め寄る。
「これ大発見じゃないですか。今回は魔法抜きでの戦いですから使えませんけど魔物との戦闘だったら十分使えるんじゃないですか」
まあ、そう考えるわな、と貴也は溜息を吐く。
「まあ、落ち着け。そんなことお前に言われなくてもみんな同じ事考えているんだ。だったら、なんで実用化されてないんだ?」
「え? そうですね。なんでなんですか?」
少しは自分で考えろと言ってやりたかったが素直に貴也は堪える。
「これは魔力を熱エネルギーに変換する魔導具。そこで問題になるの変換された熱をどうするかだ。初級魔法を受けただけで持っていられないくらい熱くなる。そんなもの盾に使えると思うか?」
「無理ですねえ」
アルが残念そうにプレートを見る。
そんなアルに貴也はとどめを刺す。
「あともう一つは致命的に弱い」
そういって貴也は自分に身体強化の魔法をかけてプレートを腕の力だけで曲げてしまう。
「オレクラスの人間が身体強化の魔法をかけたくらいで曲げられるものを盾に使えないだろう?」
「そうですがそれは何かで補強すれば」
「アルが考えらえることくらい先人がやってないと思うか?」
「そうですね」
アルはガクリと項垂れる。
ちなみにこのプレートを使おうと試行錯誤した結果が論文に残っている。
しかし、残念ながら金属とこのプレートは相性が悪いらしく、周りを金属で覆うとその効果が途端に減衰する。
魔物素材はそれ以上に顕著で少しでも触れているだけで効果が無くなるものもあったそうだ。
いくつかの論文の見解をみるとこのプレートは魔法が触れ一定の経路を巡回することで熱に変換されるのではないかと言うものだった。
だから、不純物がプレートに触れていると魔力の巡回が阻害されて変換効率が落ちるのではないかと言うことである。
ちなみに魔力が完全に変換されなければ魔法の威力がそのままプレートに加わるためにプレートは破損してしまうおまけつきだった。
現在、作成方法が分かってないので気軽に実験などできないのも実用化への問題の一つだろう。
ちなみに貴也が曲げて見せたがこれくらいならすぐに戻せる。
加工性はなかなかいい部材なのだ。
「じゃあ、これをどうやって使うんですか?」
「う~ん。今回は使えないかな?」
「ダメじゃないですか」
「うん、だめだね」
ちょっと考えてみたがいい案は思いつかなかったので素直に認める。
失敗を認めることも研究者には必要な才能なのだ。
まあ、逆に失敗を認めずに粘るだけ粘った上に思いもよらぬ発見が見つかったりすることもあるのだが……これはまた別の話。
結局は結果論なのだ。
「じゃあ、次はこれかな。アル、こいつに魔力を流してみてくれ」
そういって繊維を束ねた綱のようなものをアルに渡す。
アルは胡散臭げに貴也を見ながらも綱を受け取ると恐る恐る魔力を流して始めた。
するとその綱は勢いよく収縮した。
そして、勢い余ってアルに巻き付く。
身動きの取れなくなったアルは地面に転がっていた。
「うん。予想通りかな」
「ぐう、苦しい。助けて」
どうやら巻き込む力が強かったようだ。
まだ、力がかかっているのかギリギリとアルを締め上げている。
しばらくすると、危険な音を立て始めたので貴也は慌ててアルに近づき魔力を流した。
すると見る見るうちに綱は力を失っていく。
バルトは隣で今の結果をメモしながらついでと言った感じてアルに治癒魔法をかけていた。
治癒魔法の方がついでと言うのが何ともバルトらしい。
治癒魔法の効果が現れたのか痛みにのたうち回っていたアルが何とか立ち上がった。
「これは何なんですか。ひどい目に遭いましたけど」
ジト目でこちらを睨んでくる。
貴也は苦笑しながら
「まあ、そう怒るなよ。ここまで効き目があるとは思ってなかったんだ。こいつは魔導アーマーに使われていた人口筋肉を捩じり合わせて綱状にしたものなんだ。だから、魔力の流し方によって伸びたり、縮んだりするんだ」
今回分かったことだが捩じるように纏めたせいで縮むときに一定方向に力が加わり、綱が曲がってしまった。
あと、捩じり合わせて束にした所為か力が増し、一瞬で丸まってしまったのだろう。
その丸々過程で運悪くアルは巻き込まれてしまったわけだ。
だが、
「もし上手く使えば魔王を捕縛できるんじゃないのか?」
アルは目を爛々と輝かせている。
結果は……
大惨敗だった。
何度か失敗してようやく、鞭のように使って目標の捕縛に成功した。
だけど
「貴也さん。助けて」
「もうあきらめたらどうだ?」
目標と一緒に綱にグルグル巻きにされるアルだった。
確かに鞭のように使って相手を巻き込むことは出来た。
だが、魔力を流すと勢いが強すぎて必ず自分のところに戻ってきてしまう。
そして、目標と一緒にアルもグルグルの刑に処されるのだ。
それでも魔力の流し方で何とか出来ると考えたアルは何度も何度も練習を繰り返した。
途中、全身の骨が折れるような嫌な音が聞こえてきたのは気付かなかったことにしておこう。
貴也は大きな溜め息を吐きながら
「もう、次に行こうぜ」
「もう一回だけ」
肩で息しながらもなかなか諦めようとしないアルだった。
「まあ、いいや。オレたちは他にいいものがないか探してくるから」
そう言ってガラクタの山――もとい、初代の遺産の探索を始める。
面白そうなものはないかなあ、と当初の趣旨とは逸脱し始めるバルトと貴也であった。
結局、いいものは見つけられなかった。
散々、人体実験に駆り出されたアルは疲れ切った顔で帰っていく。
うん、アルには悪いことをしたかな、と思いながらも科学に犠牲はつきものであると割り切る貴也であった。
そして、ふとあるものに目が行く。
実験の結果使えないと判断したのだが、何かが引っ掛かっていた。
そして、貴也はそれを手に取ってみると
「これは使えるかもしれない」
貴也はニヤリと笑みを浮かべるのだった。
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