第七十五話 本当に使えないものばかりで無双できない
「それじゃあ、何か使えるものはないかなあ」
そう思いながら、以前、バルトに作って貰った初代の遺産のリストを確認する。
アルもそれを覗き込んできたので身体をずらして見易くしてやった。
そうしてしばらく、二人でリストを眺めていたのだが、
「う~~ん」
唸ることしか出来なかった。
前も感じたことだが初代の遺産は本当にピーキーな物が多い。
大きく分けると
・非常に有用だが消費魔力や魔力操作の難易度が高すぎて利用できない。
・効果が特殊で用途が限られる。
・使えるのだが普通の効果しかなくて貴重な遺産を使う必要性が感じられない。
・使用方法が分からない。
・効果すらわからない。
以上
うん。ダメだよね。
なんだか、嫌になってきた。
そう思いながらも使えそうなものを探していく。
「なあんだこれ? マイソン。他にはない吸引力で魔力を吸収する掃除機?」
見た目は掃除機その物。
先端にT字の吸い込み口があり、ノズルの反対側の根元部分に取っ手が付いている。
そして、そこからチューブで本体へとつながっている。
本体は非常にメカニカルなデザインで何かのエンジンのようだ。
うん。これって某有名メーカーのあれだよね。
名前も丸パクリだし。
もしかして、初代って異世界人だったとか?
そんなことを思いながらマイソンを手に取り、おもむろに
「スイッチオン」
「ギヤああああああああ」
貴也がノズルをアルの背中に当ててスイッチを押してみると効果は抜群だった。
アルは腰が砕けるように跪くと絶叫を上げていた。
そして、しばらくそのままにしておくと倒れ込んだまま痙攣している。
急激に魔力が吸い取られたために身体がパニックを起こしているようだ。
あと、魔力が枯渇しかかっているのかもしれない。
「おお、驚きの吸引力」
「貴也さん。それは人に向けて使ってはいけませんよ」
呆れながらバルトがやってきて貴也を窘めてきた。
流石に貴也も悪いと思ったのか頷いて反省しておく。
しかし、実験に犠牲はつきものなのである。
アルの犠牲は決して無駄にはしない。
そう誓う貴也は決して反省していなかった。
「まだ死んでいません。勝手に殺さないでください」
意外としぶといアルだった。
普通、魔力の急激な消耗や枯渇を起こすとショックで気絶する。
目が覚めた後も重大な倦怠感に苛まれるのだ。
それは魔法初心者の時に存分に味わったのでよく知っている。
それなのに意識を保ったままツッコみまで出来るのだ。
素晴らしい実験体である。
これでまだまだ実験が進められるな、と爽やかな微笑みをうかべる貴也。
それを見てアルは背筋をブルリと震わせた。
「これって使えるんじゃないか?」
「魔王との決闘にですか?」
「そうなんだよ。こいつが無謀なことをしでかすからね。少しでも勝負になるように何か使えるものを探してるんだ」
そういうとバルトは納得したのか一つ頷く。
だが、帰ってきた答えは芳しくなかった。
「マイソンは戦闘ではあまり役に立ちませんよ」
「なんで? 見ての通り効果は抜群だよ」
「はい。でも、どうやって魔王にノズルを当てるのですか? これは直接ノズルを当てないと魔力を吸引できません。それに魔力口になる部分に当てないとその効果も激減します」
「魔力口?」
聞きなれないワードが出てきて首を傾げる、貴也。
それを見てバルトが説明してくれる。
「魔力口と言うのは魔力の出入り口です。魔法を使っているとわかると思いますが、魔力を集中しやすい場所があることに気付きませんでしたか?」
「ああ、掌とか額とか鳩尾、あと臍の上あたりとか?」
「そうです。他には口や首筋の裏側、鳩尾の背中側、足の裏、局部なんかも該当しますね」
へえ、そんなところも魔力を集中させやすいのか、貴也は感心している。
「そこには魔力の出入り口、魔力口が存在します。通常、身体への魔力の出入りはその部分でしか行われません」
「でも、身体強化魔法って色々な部位に使えるんじゃないの?」
「それは体内から作用しているからです。自分に使う分には問題ないですが他人に使う時は掌を相手に向けたり、直接触ったりしてませんか?」
そういわれるとそうかもしれない。
他人に対して魔法をかけることの少ない貴也にはよくわからないことだが……
「それでなんでマイソンが使えないの?」
「身体能力の高い魔王が大人しくピンポイントでノズルを当てさせてくれますかね。それにこれは驚くべき吸引力ですがスイッチを入れてから発動まで数秒かかりますし、魔王の膨大な魔力を吸い尽くすのに何分かかるかわかりません。その間ジッとしてると思いますか?」
まあ、そうだろうな。
今回は使えないか?
名残惜しいが今は時間がないのでとりあえずマイソンは保留にしておく。
「他にはこれなんてどうだ? おい、ある」
そういって顔を上げたアルに向けてメダルのようなものを向ける。
「ギャアあああ」
その瞬間、アルの視界が真っ白に染まったのだろう。
アルは雄叫びを上げて目を抑えている。
「うん。やっぱりこれは使えるな」
貴也はいつの間にかしていたサングラスを外してメダルを弄ぶ。
これは魔力を通すことによって強烈な光を生み出す魔導具だ。
ホント、なんでこれが遺産の中にあるのか不思議なくらい有用なものだ。
と言うより、こんな普通なものが何であるの?
本当にどこにでもあるようなものだ。
出力は違うが巷で防犯グッツとして売られている。
冒険者も緊急時やモンスターへの目晦ましによく使うものだ。
一狩りに一個は持っておくような必需品である。
貴也が疑問に思っているとバルトが
「それですか。それは普通に魔力を通すだけだと光るだけなのですが、魔力の流し方を変えると相手に幻覚を見せることを出来るんですよ。まあ、魔力操作が非常に難しくて普通に幻覚魔法を使う方が簡単なんですがね」
「なんでそんなものを作ったんですかね?」
「わかりません。何か別の研究の副産物なんじゃないでしょうか」
なるほど、こうも使えないものも理論の検証実験の為だけに作られたとしたら納得がいくかもしれない。
それにしても、研究したのならレポートくらい残しておけよと言ってやりたい。
多分だが、知的好奇心だけで研究し、確認できたらそれで満足なのだろう。
天才の中にはままいるタイプである。
あとに続くもののことなど気にしないのだ。
貴也はふと昔の上司を思い出してイラッと来る。
そんな感じで魔王対策は続くのであった。
「続くんですか?」
「そりゃ続くよ」
アルが盛大に溜息を吐き。
バルトと貴也は視線を合わせて笑っていた。
マッドサイエンティストは混ぜてはいけないのである。
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