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第七十四話 魔王対策を考えるが無双できない

「とりあえず、逃げ出してきたけど、どうすっかなあ」


 魔王を優紀に押し付けて逃げ出してきたわけだが少し問題がある。

 今日の貴也の業務は魔王の接待だったわけだ。

 これが通常業務ならまだ言い訳が利くのだが、今回の仕事は命令である。

 よっぽどのことがない限り職場放棄は許されない。

 貴也が半殺しにあうくらいではそのよっぽどに該当しないのだ。


「う~ん。困ったぞ」


 と言っても戻って痛い思いするのは勘弁だ。

 だから、必要最低限の相手はしなくてはならない。


「時間つぶしは優紀がいれば十分だ。と言うか、魔王にとってみればオレはお邪魔無視だからいない方が寛げるはず……」


 俯き加減に独り言をブツブツ呟きながらしばらく。

 貴也は掌に拳を当てて顔を上げた。


「おお、オレがいない方がいいんじゃね」


 発想の転換である。

 おもてなしの基本は相手を思いやること。


1.魔王は優紀と二人きりになりたい。

2.貴也は邪魔。

3.貴也は気を利かせて二人きりにさせてあげる。

4.魔王喜ぶ


 おお、素晴らしい理論構築。

 これぞ、最高のおもてなし。

 誰にも文句を言わせないぞ!


 しかも、貴也は機嫌の悪い魔王に近づかなくて済む上に自由時間さえ確保できる。

 これぞWINWINの関係だ。


 と言うことで貴也は意気揚々と足場を固める。


「あ、優紀。今ちょっといい?」


「貴也? 今どこにいるの?」


 携帯電話を取り出して優紀にかけると彼女はすぐに出てくれた。

 貴也は素早く本題に入る。


「ああ、悪い。ちょっと魔王の機嫌が悪そうだから席外すわ。魔王の世話お願いしてもいい?」


「うん、別にいいけど。仕事放り出してもいいの?」


「それは違うぞ。オレの仕事は接待。所謂、魔王に居心地のいい空間を提供することにある。ここまでわかるか?」


「うん」


「と言う訳で、オレがいると魔王は機嫌が悪くなる。なら、オレはいない方がいいんだ」


「また、勝手な屁理屈を」


 呆れたような声を上げる、優紀。

 貴也はそんな声に耳を貸さずに話を続ける。


「屁理屈じゃない。完璧な論理だ。と言う訳で、お前がオレの代わりにしっかりご奉仕する。OK?」


「ご奉仕って相手くらいならいいけど」

 

 口籠る優紀。

 ご奉仕と言う言葉が気になるようだ。

 本当にこいつはオタク脳なんだから、ご奉仕と聞いて変な想像してるんじゃないのか。

 呆れながらも貴也は続ける。


「お前、今まで散々オレに迷惑かけてきたこと覚えているよな?」


「うっ」


 いろいろ心当たりがあるのか言葉に詰まる優紀。

 貴也はさらに畳みかける。


「ああ、大変だったなあ。この辺で一つくらい返してほしいなあ」


 そういうと盛大な溜息を吐いた優紀が白旗を上げた。


「わかったわよ。やればいいんでしょ」


「うん。やればいいのだ。と言う訳でうちのメイドにメイド服を持たせるから頑張れよ」


「なっ、なんでメイド服!」


「バカ者! ご奉仕と言えばメイド。メイドはメイド服を着るのは当然じゃないか! ご奉仕を了承した時点でこれは決定事項なんだ」


 そういうと、貴也は問答無用に電話を切った。

 すぐに折り返しの電話がかかってきたが、そんなものに出る貴也ではない。


 それでは次だな。


 手早く使用人の皆様への手配を済ました。

 昼食の用意とメイド服の手配である。

 最初は魔王が怖いのか渋っていた皆さんだったが、魔王の相手は優紀がやることと、部屋の外に控えていてくれるだけでいいからと言うと了承してくれた。

 まあ、決め手は優紀にメイド服を着させるといったのが効いたみたいだが……

 本当にあいつは女にモテる奴である。


 悔しくなんてないんだからね!


 とバカ話はこの辺にして、時間が空いた訳だが、これからどうしようかと思いながら実はやることなど決まっていた。

 貴也はそちらに向かって歩みを進める。





「やっぱりここにいたか」


「貴也さん。どうしましょう」


 工房に行くとそこには途方に暮れたアルがいた。

 実は演習場にアルも来ていたのだ。

 そりゃ、決闘相手の実力は知っておきたいだろう。

 そして、改めて魔王の実力をしてガクブル震えているわけだ。


 まあ、そりゃそうだろう。

 第一魔法騎士団の皆さんは全員アルより強い。

 アルもそこそこ強いが所詮そこそこレベルなのだ。

 剣の腕は優に及ばず、勝てるとしたら魔法の腕くらいだろう。

 騎士団の皆さんに実戦で勝つ方法としては遠距離からの先制攻撃。

 そこから一方的に蹂躙し近づかれる前に倒しきる。

 それしかアルに勝ちの目はない。

 それでも勝率は五分五分だろう。


 それなのに今回の相手の魔王はそんな兵どもの集団を魔力抜きで蹂躙するのだ。

 はっきり言って勝てるわけがない。

 しかも、決闘なので場所が決まっている。

 距離を取ろうにもあっという間に追いつかれて瞬殺だろう。

 そんなことを考えながら溜息を吐いた。


「だから、無謀なことはするなって言っただろう。殺されることはないんだから適当に痛めつけられてダウンしろ」


「そんなあ。もう少し真面目に考えてくださいよ。勝てないのは最初から分かってますけど、どうしても一矢報いたいんですよ」


 涙目でこちらに訴えてくる。

 貴也は頭を掻きむしっていた。

 まあ、ここで待ち構えていた時点でそんなことは予想の範疇なのだが……

 貴也は諦めたように息を吐く


「あんまり当てにするなよ。それと無理だと思ったらすぐに降参すること。それを約束してくれ」


「はい。わかりました!」


 顔を輝かせてアルは大きな声で返事をする。

 犬なら盛大に尻尾を振っているところだろう。

 貴也はもう一度盛大に息を吐いた。


「それで何か作戦はあるのか?」


「全くありません」


 清々しいほどあっさりと答えるアルを見て貴也はガクリと肩を落とす。


「お前、なんでここに来たんだよ」


「えっ、貴也さんのことを待ってたんですよ。こんなに早く来てくれるとは思ってませんでしたけど」


 キョトン顔のアルを見て頭が痛くなってきた。

 どうやら、貴也はアルのことを見くびっていたらしい。

 こいつは予想以上の底抜けのバカだ。


「はあ、お前も少しは考えろよ。オレがなんでここに来たと思ってるんだ。ここには何がある」


「初代様の遺産ですけど、それが何か?」


「それが何かじゃないよ。お前が勝つ方法がアルとすればこの規格外の遺産を使う意外に方法なんてないだろうが!」


「ええええええ、だって武器は木製の物しか使っちゃいけないんですよね」


 驚き目をむくアル。

 そんなアルの意見を当前のように認める、貴也。


「そうだよ。だけど、魔導具を使っていけないなんてオレは一言も言ってないぞ」


「でも、魔導具は木製じゃないですよ。それってルール違反なんじゃないんですか?」


「だったら武器じゃなければいい。防具は別に木製でなくてもいいし、直接的な攻撃手段に使用しなければ武器も道具だ。魔物退治に使えば斧は武器だが木こりが木を伐れば道具だろう」


「そんな屁理屈を」


「屁理屈言うな! 屁理屈でもルールはルールなんだ。ルール内なら何をやってもいいんだよ。ていうか、あんなチートキャラ相手に真面な方法で勝てるわけないだろう。それにこれくらいのことは策略のうちだ」


「で、でも……」


「なら、自分で考えてあっけなく負けろ。オレとしてはそっちの方がいいんだからな」


 貴也が突き放すとアルが黙り込んでしまった。

 そしてしばらく考えていたのか、顔を上げる。

 その顔はまだ納得のいかないものだったが、瞳には決意の光が宿っていた。

 どうやら心は決まったようだ。


「貴也さん。お願いします」


 貴也はそれを聞いて鷹揚に頷く。

 うん、面白くなってきたぞ。

 貴也はニヤリと悪魔的な微笑みを浮かべていた。



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