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第七十三話 決闘の準備で無双できない

「それで魔王はどんな武器を使うんだ。木製の物なんて持ってないだろう? 良ければ用意するぞ」


 貴也は思い出したかのようにそう聞いた。


「う~ん。基本、妾は武器を使えんからなあ」


 顎に手を当てて考え込む、魔王。

 それを見て貴也は疑問を覚えた。


「武器を使えないって、近接戦闘の心得がないとか?」


「いや、違うぞ。妾は専用の武器など必要がないのじゃ。その辺の棒切れに魔力を流せば、稀代の職人が造った名刀より切れ味鋭い剣となる。まあ、魔力を流すのを止めれば塵と化すのだがの。そういう意味では魔力に耐えきれない名刀と棒切れは妾にとって似たようなものなのじゃ」


 あの膨大な魔力を考えれば納得がいくことかもしれない。

 そんなことを考えながら、ではどうするか確認する。


「そうじゃの。あの若造の得物はなんじゃ」


「多分、剣と盾を使うんじゃないのかなあ」


「それなら適当な木刀を用意してくれ」


 いつものアルの戦闘スタイルを思い出しながら答える貴也に魔王はあっけらかんと返した。


「普通、重さとか長さとか身体に馴染んだものがあるんじゃないのか?」


「うむ。普通の者はそうじゃろうな。だが、妾は魔力が強大だから専用の武器など持てん。基本、武器は現地調達か安物を使う。だから、日頃からどのような武器でも使えるように訓練しておるのじゃ」


 魔力が有り余っていても苦労はあるんだなあ、なんてことを考えていた。

 まあ、魔力が少なくていつもヒイヒイ言っている貴也からしてみれば贅沢な悩みなのだが。


「じゃあ、武器は適当に用意しておく。あとは何か必要なものは有るか?」


 貴也が聞くと少し間を置いた後、魔王がニヤリと笑った。

 何かろくでもないことを考えているよう気がする。


「そうじゃな。決闘の前に少し身体を動かしたい。剣の勝負は久しぶりだからな。場所を用意してくれぬか?」


「場所なら軍の訓練所が使えると思うが。少し待ってくれ」


 貴也は携帯端末を取り出し、利用状況を確認。

 先方に頼んで場所を借りることに成功した。

 本音を言えば、使用中で使えない方が良かったと思っていたことは他言無用である。

 なんだか面倒なことになるんじゃないかなあと思いながらため息を吐く貴也だった。




 現在、貴也達は公爵軍の第三演習場に来ていた。

 ここに来るまで貴也は大変居心地の悪い思いを味わった。

 周囲から浴びせられる視線である。


 まあ、魔王と勇者と言う珍獣が二体同時に現れたのだ。

 気にしない方が嘘だろう。

 普通の人にしてみれば非常に興味をそそられる存在だ。

 みんなが興味津々で覗き込んでいる。


 ただ、魔王が怖いからか一定以上の距離からは近づいてこないのだが……。


 まあ、貴也はおまけみたいなものなのだが気にしなければいい。

 だが、小心者の貴也としては人の視線は気になるものである。

 ホント、嫌な汗が溢れてくる。


 そんな貴也をしり目に他の二人は平気な顔で貴也の後をついて来ていた。

 どうやらこのような視線を浴びるのは慣れっこのようでいっこうに気にしていない。

 なんだか自分一人だけ自意識過剰な気がして恥ずかしくなってくる。


 そんな思いをしてやっと着いた演習場だったのだが……


「えっと、隊長さん。いまの時間、第三演習場は未使用なはずでは?」


「おう! 気にするな。我々は邪魔をしないぞ。いまは演習場にたまたま休憩しに来ただけだ」


 『たまたま』をわざわざ強調する隊長に苛立ちを覚えながらもなんとか堪える。

 軍の演習場を借りることにした時点で想定の範囲内だった。


 この人は第一魔導騎士団の隊長。

 魔導騎士団は魔法と剣技両方を兼ね備えたトップエリート達で構成される部隊で近接戦闘のエキスパートである。

 その中でも第一は武闘派で知られており、攻撃魔法はあくまで補助的にしか使わず、身体強化魔法をメインで肉弾戦を得意とする集団である。

 戦闘が始まれば真っ先に突貫し、盾、遊撃を兼ねる戦闘を得意とする。


 そして、みんながみんな、筋肉ダルマで脳筋の暑苦しい集団なのだ。

 彼らの思考はいたってシンプル。強いが正義だ。


 そんな奴らが魔王に興味を持たないわけがない。

 しかも、戦闘が見られるかもしれないと聞いたら黙っているわけがないのだ。


 それにこいつ等あわよくばとか考えてそうで怖い。

 だから、貴也は釘を刺しておく。


「絶対に見学だけですからね。間違っても一手御指南とか止めてくださいよ。彼女は一国の王なんですから失礼があったら外交問題ですからね。なにかあったら公爵とクロードさんに報告しますよ。その辺、部下の人たちにも徹底しておいてください」


 念を押されて隊長が怯む。

 彼でも公爵とクロードの恐ろしさは身に染みているのだろう。

 何かを思い出したかのようにブルリと震えてから部下たちの元に戻っていった。


 貴也は無駄だろうなと思いながら大きく息を吐く。


「それではここを使ってください。武器は壁際にあるものならどれを使ってもらっても結構です。問題ないですよね。隊長さん!」

 大きな声を上げて隊長に確認すると『おう』と返事が返ってきた。

 貴也は頷いた後、その場から離れる。


 そして、魔王は適当に木剣を振り回した後に


「では、少し運動に付き合ってくれ、貴也殿」


 これが狙いかと思いながらも十分予想の範疇だった。

 だから、面倒くさそうに


「優紀。相手してあげて」


「えっ、御指名は貴也だよ」


 首を傾げる優紀の頭を叩きながら


「オレは荒事は嫌いなの。いいからとっと行け」


 と優紀を急き立てる。

 優紀は頭を押さえながら非難がましくこちらを見るものの魔王の元に向かった。


「妾は貴也殿にお願いしたのだがなあ? なんだ。妾の相手が怖いのか?」


 ニヤリと笑う、魔王。

 こんな時だけ殿をつけて呼ぶところがいやらしい。

 だが、こいつはなにかなにか勘違いしているようだ。

 貴也は笑い返す。


「ああ、怖い。だから、お前の相手なんてしていられない。なんだ? 魔王は怯えた相手を倒して嬉しいのか? うわあああ、怖いよ~~~。魔王に襲われる~~~~」


 声音はちっとも怖そうではなかったが、こう言われては襲い掛かるわけにはいかないだろう。

 その証拠にぐぬぬと魔王が唸っている。

 本当にこいつはちょろいなあ。


 そんなことを考えている間にやっと諦めたのか、優紀に声をかけて剣を打ち合わせていた。

 優紀も適当な木剣を手に取って相手をしている。


 最初は型通りにその場で左右に剣を振り下ろしている。

 そして、その速度が徐々に上がっていく。


「っ」


 視線を合わして頷いた瞬間、二人は同時に後ろに跳ねた。

 距離を取ったのだ。


 それからは凄かった。

 うん。絵にもかけない凄さだった。

 凄ぇ。


 戦闘描写が苦手なわけでも面倒くさいわけでもないんだよ。

 本当だよ?


 とまあ、冗談はさて置き。

 まず、スピードが違った。

 最初の攻防は本当に見えなかった。


 貴也は慌てて強化魔法を使う。

 思考速度を上げ、さらに動体視力、敏捷性、腕力も上げる。

 あと魔力感知を最大にまで上げるために集中する。


 そして、驚くべきことに気付いた。

 優紀は身体強化魔法を使っているのだが、魔王は一切の魔力を漏らしていない。

 この動きを自己の身体能力のみで行っているのだ。


 貴也が驚いている間にも戦闘は続いている。


 優紀が一瞬で間合いを詰めて喉に突きかかる。

 それを魔王は半身をずらすだけで躱し、そのまま横なぎの一撃。


 優紀は屈んで頭の上を剣が通過させる。

 優紀の髪が幾本かかすめて宙を舞う。


 そのまま、二人はすれ違い距離を取るかと思いきや。

 いつの間に魔法を使っていたのか優紀の背後からファイアーボールが現れた。

 気付いた時には軌道が変わり左右そして上から三つの火の玉が弧を描いて同時に襲い掛かる。


 それを魔王は木剣ですべて切り捨てた。

 ただの木剣でだ。

 普通ならファイアーボールの威力で砕け散るか、燃え尽きていることだろう。

 しかし、剣速とその鋭い太刀筋で炎を切って退けたのだ。

 恐るべき剣技である。


 だが、


 まだ優紀の攻撃は終わってなかった。

 刹那のタイミングをずらして下から、優紀の影から、炎の玉が現れたのだ。

 魔王はその炎も切って退ける。

 だが、流石に不意を突かれたからか、芯を捕らえ損ねて木剣は砕け散った。


 一瞬の空白


 その間を逃さない優紀。

 振り返りざまに袈裟斬りの一撃を。


 しかし、魔王は下がらない。

 それどころか優紀の攻撃を躱すことなく前に出た。


 優紀の一撃は肉薄されて振り切れずに柄で肩を殴る格好になる。

 流石の魔王も顔を顰めたが素早く手を取り、優紀を投げた。

 合気道に近い技なのか優紀は自ら跳んでいったかのように投げられゴロゴロと転がっていく。


 ここで一息ついた。


 魔王は新しい木剣を求めて壁際に歩き、優紀は中央で構えを取って待つ。

 場内はシーンと静まり返っていた。


 この攻防に戦慄しているのは貴也だけではなかった。

 この場に控えている軍の実戦部隊のトップエリートたちがみんな息を飲んでいる。


 そうこうしている内に戦闘が再開。

 激しい剣戟が交わされる。


 そして、優紀が間合いを取った。


 腰に木剣を納める。

 鞘はないがあれは居合の構えだ!


 貴也が固唾をのんで見守っていると優紀が覇気を纏わせて叫んだ。


「飛天御――」


「言わせねえよ!」


 貴也は手元に用意していた石を優紀の頭に投げつけた。

 ツッコみの一投には攻撃の意思が宿っていなかったからか、戦闘に集中していた優紀も魔王も反応できなかったようだ。

 ポコーンと何とも間抜けな音を立てて優紀の頭にクリーンヒット。

 彼女は頭を抱えて蹲った。


「お主はとことん空気を読まぬ奴じゃのう」


「うん、オレもそう思うけど今の技はいろんな意味で危険だからね。無許可でやって良いことと悪いことがあるんだよ」


「お主は誰に言い訳してるのじゃ?」


 首を傾げる魔王に説明のしようがないので惚けておく。


「まあそれは良い。だが、どうするのじゃ。折角、身体があったまって来たのに。妾はまだ動き足らぬぞ。やはりお主が相手してくれるのか?」


 ニマニマ顔で近づいてくる魔王。

 だが、貴也にはそれに付き合ってやる義理はない。

 貴也は盛大に溜息を吐いて


「第一魔導騎士団の皆さん。出番ですよ」


「「「「「「「おっしゃあああああああ」」」」」」」」


 歓声が一気に上がり筋肉が雪崩をうってやってくる。


「こら、貴様が相手をするんじゃないのかああああああああ」


 魔王は迫りくる筋肉集団に冷や汗を垂らしながらも剣を構える。

 そして、肉に埋もれて行くのだった。


 そして……


「さすが、魔王様。御相手して頂きありがとうございました」


 そう言い残して隊長がどさりと倒れる。

 そこには屍が(死んでない)積み上げられていた。


「さすが魔王様だ」


 貴也は本当に感心して拍手をしている。

 これだけの人数相手に魔力を使わず大きなケガを負わさずに倒しきったのだ。


 そんなどこか他人事の貴也に魔王は牙をむく。

 ただ、息を切らして木剣を支えに何とか立っている魔王に迫力などない。

 流石に魔法騎士団、団員全員の相手は堪えたのだろう。

 体力の限界のようだった。


「それじゃあ、夕食の時間まで自室でゆっくりしていてくれ。優紀。魔王を連れて行って休ませてやるんだぞ」


「はあ、わかったわよ」


 優紀は肩を竦めながらも魔王をお姫様抱っこで抱え上げている。

 その時、魔王の顔が非常にだらしなく歪んでいたことは言わないでおこう。


 魔王がこちらに親指を突き上げて感謝していたようなので貴也はそのままその場を後にすることにしたのだった。


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