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第六十九話 執事のルールは絶対なので無双できない

修正 タイタニウム王国→ディアマンテ王国 16/11/21

「で、貴様はどこに行くんだ? まだ、話は終わっておらん」


 どさくさに紛れて部屋から出ていこうとした貴也の襟をむんずと掴む、魔王。


「離せ。オレにも仕事があるんだ。いつまでもエリーの相手ばかりしていられない」


「だから、貴様がエリーと呼ぶな!」


 耳元で怒鳴る魔王の手を払って貴也はさっさと歩みを進める。

 魔王はそんな貴也に文句をつけながらついてきた。

 こいつも当事者だからまあいいかと貴也は気にせずクロードの執務室に向かう。 


 現在、公爵とエドは王都で今回の件の対応を行っている。

 だから、公爵領でのことはクロードが全権委任されているのだ。

 貴也はノックして部屋に入る。

 その後を魔王や優紀がぞろぞろとついてくる。


「クロードさん。ジルコニアの反応はどうなってますか?」


 貴也は部屋に入って早々に本題を切り出した。

 クロードは落ち着くように言ってみんなをソファーに座るよう促す。

 何故かアルも来ていたようで先に座っていた。

 クロードはそれぞれにお茶を出して自分も貴也の対面に腰掛ける。


「ジルコニアですが、予想通り、今回の件はタイタニウム王国と魔王の策略だと騒いでいるみたいです」


「それで王都の反応は?」


「公爵様たちの根回しが上手くいったみたいでのらりくらりとはぐらかして有耶無耶にする方針で決まりそうです」


「それでジルコニアは大人しくしますかね」


「ジルコニアも後ろ暗い所がありますからね。かの国の狙いが我が国でなければ引くでしょうね」


 貴也はゴクリと生唾を飲み込み。


「我が国が狙いなら戦争になるということですか?」


 室内に重い沈黙が流れている。

 部屋に入ってくるまであれだけ騒いでいた魔王も今は大人しくしていてくれた。


「まあ、それはないでしょう。ジルコニアの狙いが我が国ではないと思われる理由が三つあります」


「三つですか?」


「はい。一つ目はジルコニアには我が国を討つ軍事力はありません。二つ目は軍を転進させるにもトパーズホーンと我が国は北と南、正反対に位置します。奇襲するには遠すぎます。それに比べてガーネットの国境は軍の集結ポイントの近く。東に転進すればすぐです。三つめは周辺諸国の動きですね。ジルコニアに呼応してガーネットの北にあるアウイン共和国がトパーズホーンに向けて進軍の準備をしているそうです」


「アウイン共和国とジルコニアが結託してガーネットを狙っているのですか?」


「確証はまだありませんが」


 言葉を濁しているがあの顔は何かしらの情報を掴んでいるのだろう。

 となると直接的な被害はもうないと言っていい。

 貴也はホッと息を漏らす。


 ていうか、公爵やクロード、エドは最初から我が国が攻められる確率はほとんどないと見積もっていたことに今更ながらに気付いた。

 情報不足で判断できないとか何とか言っていたが、いま思うとみんな戦争に巻き込まれそうなのに妙に落ち着いていたように思える。

 本当に食えない人たちだと思って軽くクロードを睨み付けた。

 そんな貴也の表情に気付かないふりをしてクロードは一つ咳払い。

 話を続ける。


「問題はガーネットですね」


「ガーネットはどうなりますか?」


「そこまではまだ何とも言えません。トパーズホーンを攻める大義名分は失いました。ジルコニアは戦力を集結している段階だったので現時点での奇襲は不可能です。賢い君主ならここは一旦、作戦を中止するでしょう」


「ジルコニアの王は賢明ではない」


「そもそも賢明な王は戦争などしようと思いませんよ」


 もっともな意見に思わず貴也は苦笑を浮かべる。

 そして


「では、当分は我々がやることはないということですか」


「そうですね。情報収集は続けますが、後は王都の仕事ですね。ジルコニアに動きがあれば別ですが」


「それでは通常業務に戻れば良いですか?」


「いいえ」


 そういうとクロードは意地悪く笑った。


「貴也さん。あなたの仕事は客人であるお二方のお相手です」


「マジですか?」


「あはははは。貴也さん。お客人の前ですよ。言葉遣いに気を付けてください」


 嬉しそうに笑っている自分のことを棚に置いてそんなことをおっしゃる、クロード。

 貴也は恨みがましくクロードを見ながら


「こういう重要なお客様のお相手は公爵の名代であり、執事長たるクロード様がやるべきでは?」


「残念ながらわたしは公爵不在の業務で一杯一杯なのです。だから、泣く泣く貴也さんにお譲りするのですよ」


「そんな畏れ多いです。わたしでは荷が重いですよ」


「何々謙遜する必要はありません。貴也さんならできますよ」


 面倒ごとを押し付け合う、二人。

 しかし、軽くにらみ合ったあとクロードが溜め息を吐いた。


 貴也は折れてくれたかと思ったのだが……


「仕方ありませんね。貴也さん。命令です。二人のお相手してください」


「…………」


「貴也さん?」


「畏まりました」


 クロードは頼み事はするが命令は滅多にしない。

 それは命令には絶対服従が公爵家執事のルールだからだ。

 こんなことに命令を使うなよ、と思いながらも貴也は恭しく礼をするのだった。



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