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第六十八話 続、魔王が残念で無双できない

「貴様! 謀ったな!」


 先程、出ていった魔王がすごい勢いで戻ってきた。

顔を真っ赤にしてかなりのお怒りのご様子。

しかし、貴也は首を竦めて呆れるだけだった。


「騙すも何も、あんたが勝手に勘違いしただけだろう」


 先程まであれほど恐れていたのに今はちっとも怖くない。

この魔王がどこまでも人間臭く、残念な性格をしていることを知ってしまったからだろう。

 それに魔王がいくら強大な力を持っているにしても、こいつが優紀に惚れているうちは貴也には手が出せない。

 優位に立てるのならばいくらでも強気に出られる貴也なのであった。


「ぐぬぬぬ。貴様、妾が魔王と知って愚弄するか。お前など跡形もなく消すことが出来るのだぞ」


 全身に魔力を漲らせて睨む、魔王。

魔力感知能力の高い貴也でなくても魔力がオーラのように立ち上っているのが見えただろう。

それくらいの強大な魔力を纏っている。


 内心、冷や汗を掻いていた貴也だったが遠くから走ってくる足音に気付いて口角を上げる。


「良いのか。オレに危害を加えれば一生、優紀は物にできないぞ。あいつにとってオレは特別な存在だからなぁ」


 思わせぶりなセリフを吐く、貴也。

 そんな貴也を歯軋りしながら睨む、魔王。


「もう、エリー。いきなりやって来たと思ったら、走って出ていくんだもん。それにスッゴイ怒ってるし。他人の家で魔力全開になんてしたら迷惑でしょ。領主さんに怒られるよ」


 領主さんなんて公爵を呼べる優紀の大物感は置いておいて貴也はニヤリと笑う。

 予想通り、優紀が追い付いてきたみたいで部屋の中に入ってきた。

 そして、怒られた魔王はシュンとしてしながらも言い訳を始める。


「ツバサ……、いや、ユウキだったか、こいつが妾のことを騙したのじゃ。だから、お灸を据えようと」


「本当なの貴也?」


 こちらを睨んでくる優紀を睨み返す貴也。


「ああん。なんでオレが魔王なんかを騙さないといけないんだ。騙してたのはお前だろ!」


「ほえ? わたし」


 指を自分に向けて可愛らしく小首を傾げる、優紀。

 そんな勇気を見て魔王がだらしなく頬を緩める。

 貴也はそんな二人を見ながら盛大に溜息を吐いた。


「オレはタダ、お前が偽名を使ってるって教えてやっただけだ。それで魔王がお前に騙されていたことにショックを受けたってことだ」


 オレは間違ったことは言ってない。

 まあ、少々曲解はしているがな、と貴也は内心で呟いておく。

 そして、矛先が優紀に向かっていることに気付いたのか魔王が途端に狼狽えだして。


「それは違うぞ。ユウキはなんにも悪くない。突然、異世界に飛ばされたのじゃ。不安になって偽名を使うなんて当然じゃ。妾も騙されたなんて怒ってないぞ」


「でも、真っ赤な顔してたし、さっき魔力を放出してた。そうだよね。折角、仲良くなった相手に偽名を使われてたら怒るよね。もっと早くに言うべきだった。ごめんなさい」


 しょんぼりと頭を下げる、優紀。

 魔王は狼狽えて目を泳がせている。

 そして、貴也と目が合った魔王は「何とかしろ」と無言で訴えてくる。

 それを貴也はニヤリと笑って華麗にスルーした。

 すると、「ぐぬぬぬ」と唸って魔王は貴也を睨んでくる。

 貴也は吹き出しそうになるのを堪えながら、まあ、この辺で許してやるかと優紀の肩に手を置く。


「そんな顔をしてたら魔王が困るだろ。魔王はこんなことで機嫌を損ねるほど器の小さな人じゃない」


 そういって魔王に視線を向ける。

 貴也の嫌みに気付いていながらもこの場で否定することは出来ないのでグッと堪えて頷く魔王。

 しかし、表情は強張っていた。

 本当にこいつはわかりやすい奴だと思いながらも貴也は先を続ける。


「それに気にしてないって言ってるのにお前が気にしてたら余計に魔王が気を使うことになるだろ。謝って許して貰ったら忘れるのが思いやりってもんだ。なあ、魔王?」


「そうじゃぞ。ユウキ。妾はもう気にしていない。だから、笑ってくれ」


 そう言うとぎこちなかったが優紀に笑顔が戻った。

 それを見て魔王はホッとする。

 そんな魔王に『貸し一つな』と視線で訴える貴也だった。


 またも、歯軋りを始める魔王だったが優紀がそちらを向くと何食わぬ顔で平静を装う。

 案外、こいつもちょろいなと内心で思う貴也だった。


「それで魔王。話も済んだのだからいい加減その首輪を外して帰ったらどうだ」


「何を言うか! この首輪は妾とユウキの絆の証。それを外すなど畏れ多いわ」


「何言ってるんだよ。もう優紀の方の首輪は外したんだから無効だろ。気にせず外して帰れよ」


「ぐぬぬぬぬ。しかし、どうやって外したんだ。これは古代の遺跡から発掘された秘宝具だぞ。現代の魔導技術では手に負える代物では無い筈なのに」


「ごめんなさいね。勝手に外しちゃって。なんだかあの首輪の所為で戦争が起こりそうだったから」


 すまなそうに謝る優紀に魔王は慌てて首を振る。


「ユウキが気にすることではない。お前が心を痛めるような事態を招いてしまった妾が悪いのだ。妾との絆はそなたの胸の内にあるものだろ?」


 もちろんだと頷く優紀を見て魔王は口を綻ばせる。

 そして、


「それで十分だ」


 胸を張って誇らしげに答えていた。


 そんな魔王を見て貴也がチクリと小言をいる。


「本当に反省をしてるのかね。お前の邪な思惑の所為でみんなに迷惑をかけたことを少しは自覚をしたらどうだ」


「ふん。貴様に言われるようなことではない。それに例え戦争になったとしても我が兵には傷一つたりとも追わせたりしない。ジルコニアごとき妾一人で滅ぼしてくれるわ」


 自信満々に答える魔王。

 確かに彼女にはそれくらいの力があるのだろう。

 転移魔法と言うのはそれくらい驚異的な魔法だ。

 それに魔王はそれ以外にも強大な魔法が使えるらしい。

 本当にこの世界のパワーバランスは崩れているのだ。


 そんな魔王に貴也はさらに暴言を吐き続ける。


「まあ、お前がジルコニアを滅ぼすのは構わんが、それで心を痛めるのは勇者であるユウキだというのを忘れるなよ。彼女は人を守る勇者なんだ。国を滅ぼした魔王を泣く泣く討伐することにならなきゃいいんだがな」


「もう、貴也もあんまりエリーのことをいじめないでよ。でも、ジルコニアを滅ぼすなんて言わないでよ、エリー」


「もちろんだ。妾はユウキが苦しむようなことは絶対にしない。神に使ってもいいぞ」


 魔王が神に誓うってどういうことだよ、と思いながらもなんとかツッコむのを堪える。

 そんな貴也に一つ疑問が


「なあ、そのエリーって何なんだ」


「ああ、あのね。トパーズホーンっていうのはあだ名みたいなものなの。トパーズの角を持つ魔王だからトパーズホーン。それとは別にエリーゼって名前があるのよ。親しい者はエリーって呼んでいるのよ」


 優紀の答えに納得する貴也。

 そして、意地悪く笑って


「そんなのか、エリー。これから仲良くしてくれよ」


「貴様にエリーと呼ばれる筋合いなどないわ!!!!!」


 魔王の絶叫が城中に響き渡り、城内にいた人達が蒼然となったのはまた別の話である。



申し訳ありませんが水曜日の更新は出来ないかもしれません。

金曜日の更新は出来ると思うのでよろしくお願いします。

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