表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/200

第六十七話 思いのほか魔王が残念で無双できない

「では、話を聞こうか」


 魔王が貴也の前に立ちふさがっていた。

 この場には優紀の他のメンバーもいない。

 二人きりだ。

 流石は魔王、威圧感が半端ない。

 逃げ出したいのはやまやまなのだが、相手は転移魔法を使う魔王。

 逃げられるわけがない。


 貴也が口籠っていると、ずいっと一歩近づいてくる。

 貴也は一歩後退る。

 これも一進一退の攻防と言うのだろうか。

 と言うか下がっているのは一方的に貴也なのだが。


 そんなこんなで壁際にまで追い込まれてしまった。

 おかしい。

 なんでオレがこんな目にあわなければいけないんだ。

 そんなことを考えながらも、もう後退できないのでせめて視線だけ逸らす。

 魔王はそんな貴也のささやかな抵抗も許す気は内容でヤンキーのように視線の先に顔を伸ばして睨んでくる。


「では、話を聞こうか」


 これで何度目かになるかわからない台詞を吐かれえて、貴也はやっと諦めた。

 大きな溜め息を一つ吐いて魔王と視線を合わせる。


「話をきこうかと言われても、話すべきことは全部話しましたが?」


 一度腹を据えると貴也の態度は堂々としたものだった。

 まあ、内心はガクブル状態なのだが……


「ツバサとの関係じゃ。ツバサからお主のことはよく聞いておる。ほんに忌々しい」


 ギリリと歯軋りが聞こえてきそうだった。

 貴也は勘弁してくれよと内心思いながらも表情を変えずに


「ただの幼馴染ですよ。本当にあいつには昔から迷惑ばかりかけられて……」


 貴也の言葉を聞いて魔王の表情が一層険しくなった。

 何が気に入らないのか嫉妬の炎がメラメラと燃えている。


 この目に見覚えのある貴也は何とか溜息を堪えていた。

 本当にあいつは女にモテて困る。

 男から嫉妬されるのなら百歩譲って納得がいくがなんで女に嫉妬されなくてはいけないのだろう。

 もう嫌になってきた。

 だから、不用意な一言が


「あんたこそ、優紀の何なんです? あいつ、ああ見えてもノーマルですよ。女に興味なんて欠片もない。誓約の意味に結婚がほのめかしてあることなんて気付いてもないですよ」


「ぐぎぎいいい。そんなこと妾にもわかっておる。でも、いつかは……」


 何を考えているのかはわかりたくないが魔王がニヘラと笑った。

 口の端から涎が垂れている。

 その厭らしくもだらしない笑みに貴也は頭が痛くなってくる。

 こんな奴が恐怖の象徴、魔王でいいのだろうか


「はああ。あいつは鈍感ですから精々頑張ってください。まあ、日本で何十人も撃沈したんです。あなたもその一人にならないことを祈っておきますよ」


 投げやりに言ったつもりなのだが、魔王はそれを宣戦布告と受け取ったようだ。


「ふふふ、現時点ではお主の方がリードしているようじゃが、必ず、ツバサの心は妾が射止めて見せる。その時になって後悔しないことだな」


 大き過ぎる立派な胸を張り高らかに宣言した、魔王。

 プルンと揺れる胸を見ながら、これが女性にしか興味がないなんて、なんて勿体ないと場違いに考えているのはこの際おいておこう。

 貴也は首を振って邪な気持ちを追い出し、曇りのない笑顔を魔王に向ける。


「別に構いませんよ。彼女がそうしたいのなら熨斗を付けて差し上げます。迷惑を掛けられなくて済んで清々するくらいですよ」


 そんな貴也の反応に魔王は若干怯みながらも


「本当に良いのか? お風呂とか一緒に入るのだぞ」


「別にお風呂くらい問題ないでしょう。オレも何度も風呂に乱入されてますし」


「なんじゃその羨ましいシュチュエーションは! わしなんてこの間、一緒の布団で寝たんじゃぞ」


「ああ、それは大変でしたね。あいつ寝相が悪いでしょう。オレも何度ベッドから突き落とされたことやら」


「うぬぬぬぬ。キキキキキ、キスだってしちゃうんだから」


 なんだこいつ、いい年してキスくらいで何を動揺してるんだ。

 処女でもあるまいし。

 いや、女好きなのだから処女なのか?

 でも、女性経験はあるのだろう。

 なのになんのこの純情乙女は!


 貴也は戦慄を覚えていた。

 それを見た魔王は何を勘違いしたのか、フフンと勝ち誇ったように笑う。


 その態度にイラッと来た貴也はボソリと


「まあ、そういうことはせめて本名を教えて貰ってからにしてくださいね」


「どういうことじゃ?」


 キョトン顔で小首を傾げる魔王。

 クール系ナイスバディの美人さんがこういう仕草をするのは思いのほか可愛らしかった。

 一瞬見とれてしまったがすぐに気を取り直す。

 この人は残念美人だ。


「あいつの本名はツバサ=ホンダじゃないですよ。それはこの世界で適当に名乗った偽名です」


「マジかや」


「マジです」


 どこで真剣と書いてマジと読むみたいなことを覚えたのか目を見開く魔王に貴也はコクリと頷いた。


「そんなの、うそじゃあああああああ」


 思いのほかショックが大きかったみたいで魔王は泣きながらこの部屋を出ていった。

 きっと優紀の元に真実を確認しに行ったのだろう。


 その後、魔王を泣かした男と貴也が畏れられることになるとはこの時は知りようもなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
別作品の宣伝です。
カワイイ男の子が聖女になったらまずはお尻を守りましょう
良ければ読んでください。

あと宜しければ下のリンクを踏んで投票していただけると嬉しいです。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ