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第六話 ギルド職員が怖くて無双できない。

 カインの家に一晩泊めてもらい、翌朝、貴也は冒険者ギルドへ案内してもらった。


 造りは大きいがここも木造二階建てのヨーロッパの片田舎にあるような建物だ。

 西部劇に出てきそうなスイングドアがあり、中から喧騒が聞こえてくる。


「しまったなあ。朝は仕事前の冒険者が依頼を探しに集まってくるんだ。もう少し時間をずらしてくるべきだったっぺ」


 カインの言う通り建物中は人でごった返していた。

 革鎧姿の剣士やローブ姿に杖を持った魔術士風の冒険者がたくさんいる。

 中には上半身裸で毛皮を纏っているような人までいた。


「すげえ、なんかいかにも冒険者ギルドって感じだなあ。テンプレ展開だとここに突っ立っていると絡まれたりするんだよなあ」


 狙いすましたようにフラグを踏む貴也。

 入口付近でボーっとしているのが悪いのだろう。

 あとから入ってきた冒険者が貴也を見て


「おい。お前、なに頭にスライム乗せてんだ。頭おかしいんじゃんねえか。ここはおめえのような奴が来るような場所じゃねえ。邪魔だ。とっとと出ていきな」


 貴也が振り向くとそこにはスキンヘッドの大男が立っていた。

 腕は丸太の様に太く貴也が両手で持っても持ち上げられそうにない大振りの両刃斧を軽々と肩に担いでいる。

 そして、要所要所を金属板で補強した革鎧を着ていた。


 威圧感たっぷりの冒険者がこちらを見下ろしている。

 貴也も背の低い方ではないが頭一つ分は高いだろう。

 二mを超えたプロレスラーみたいな男だ。

 この男の仲間なのか後ろに三人の男がいて貴也を見てニヤついている。

 

 小心者の貴也は素早くカインの後ろに隠れる。

 もちろんスラリンも一緒だ。

 昨日、さっそく名前を付けたのだ。

 スライムと言ったらやっぱりスラリンだろう。

 貴也にネーミングセンスは皆無だった。


 そんなことはどうでもいい。

 ささカインさん出番ですよ。


 そんな貴也の反応に苦笑しながらカインは件の冒険者を睨み付ける。


「こら、ゴメス。オラの友達になんか文句があるだか? 文句があるならオラが相手になるだよ」


 そこで初めてカインの存在に気付いたのかゴメスと呼ばれた男は額に汗を掻きながら頭を下げる。


「へ? マジですか? スライムを頭にのせてるような変な奴ですよ。カインさんの知り合いなんですか? もう、それならそうと早く言ってくださいよ。カインさんのお友達に文句なんてあるわけないじゃないですか」


 へこへこ頭を下げるゴメス。

 凄い態度の変わりようだ。

 仲間の三人はいつの間にか消えていた。


「カイン。大丈夫なのか?」


「心配いらねえだ。こいつはこの村の出身でハナタレ坊主の時から面倒見てただ。オラには精神的にも肉体的にも敵わねえずら」


「もうカインさん勘弁してくださいよ」


 情けない顔をしながら頭を下げて逃げ出すゴメス。

 その姿を生暖かい目でカインは見送っていた。


 そこで一つ疑問に思っていたことを口にする。


「あれ? 三十歳のカインがハナタレ坊主のゴメスの面倒を見てたんだよな。あいつって何歳?」


「今年、十八歳だったかな?」


「えっ、同じくらいだと思ってた。なに? この世界の男ってみんな老け顔なの?」


 カインは貴也の発言にショックを受けて崩れ落ちている。


 その光景を見て冒険者ギルドに衝撃が走っていた。


「嘘だろ。あのカインさんが」


「あのカインさんを跪かせるなんて何者だ」


「もしかしてあの男、無茶苦茶強いんじゃねえか」


「おい。ゴメス、おめえ、ヤバい人に絡んだんじゃねえのか」


 ざわざわと周りが騒がしい。


 どうやら貴也たちの声は聞こえていなかったようだ。


 状況が変な噂を呼んで貴也の虚像を生んでいく。

 きっとこうやって偽勇者って生まれていくんだなあ。

 なんて考えていた。


 いや待てよ。

 こういう展開、どこかで見たぞ。

 この後、とんでもない凶悪なモンスターが現れて、実力を勘違いされた主人公がモンスター討伐に駆り出され……


 Nooooooooooo!


 マズイ。マズいぞ! 

 オレはチートなんて持ってないんだ。

 ゴブリンにだって手こずるのに凶悪モンスターなんかに勝てるわけがない。


 どうする。どうすればこの危険なフラグを叩き折ることができるんだ。


 そんなバカなことを考えていると


「もう! ギルドで何を騒いでいるの。用のない奴はさっさと仕事に行きなさい。早くしないと買い取り価格を下げちゃうわよ」


 威厳のある凛とした通る声が冒険者ギルドに響き渡った。

 その声を聴いた大勢の冒険者たちが顔を引きつらせて慌ててギルドを後にする。

 あっという間にギルドの中の人が半分くらいに減った。


「本当にバカばっかりなんだから」


 溜め息をつきながらこちらに女の人がやってくる。


 赤い長い髪を背中に垂らし、背筋をピンと伸ばし颯爽と歩く姿は一流企業の社長秘書のようだ。

細身でそれに似合わぬ大きなお胸についつい目が行ってしまう。


 が、キリっとしたメガネの奥に見える眼光を感じて慌てて目を逸らした。


 この人には逆らってはいけない。

 貴也の本能が警告を発している。

 

 そんな貴也を一瞥した後、未だ蹲っているカインに視線を落とした女性は大きな溜め息をついた。


「カイン。あんたは何をやってるのよ」


「ああ、マリアか。オラのことはほっといてくんろ」


「こんなところにいられたら邪魔なのよ」


 深い息を吐く女性に対してカインはスゴスゴと壁際に歩いていき体育座り、床に人差し指で『の』の字を書いている。

 本当にメンタルが豆腐並みに弱い奴だ。


 そんなカインの存在を綺麗サッパリなかったことにして女性はこちらに目を向けた。


「えっと、そこのスライムを頭に乗せてる、あなた。わたしは冒険者ギルドの職員でマリア=フレデリック。よろしくね」


 マリアはそういって手を差し出してきた。貴也はそれを握りながら答える。


「俺は相場貴也。日本から来ました。異世界って言った方がいいのかな」


「やっぱり、異世界からのお客さんだったのね。それに日本からかあ」


「日本人ってやっぱり多いんですか?」


「ああ、カインに聞いたのね。そうねえ、多い方だけどそれより一年前に来た子が凄い印象的だったの」


「印象的だった?」


「うん。まあ、その辺の話はあとにしましょう。まずは手続きをしないと」


 マリアは奥へと歩いていく。

 貴也の頭の上にいるスラリンのことなど気にも留めていない。

 どうやら出来る女性のようだ。

 貴也は訳の分からない感心しながら壁の方に目をやった。

 そして、彼女を引き留め


「ちょっと、マリアさん。あれは放っておいていいんですか?」


「あれ?」


 貴也が親指で指す先、まだ、いじけて座り込んでいるカインを見て、マリアは首を横に振る.


「あれは放っておけばいいわ。その内、畑に行くんじゃない」


「まあ、そうっすね」


 二人はギルドの奥に入っていった。


 後ろから「ひどいだ」と嘆く声が聞こえてきたが構ったら負けである。


 それにしても冒険者を一括する威圧感、あれだけ強いカインを容易くあしらうこの美人。

 見た目綺麗なお姉さんなのに……もしかしてとんでもない人なのではないのだろうか?


 どうやら、ここのギルド職員は侮れないようだ。




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