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第六十六話 作戦は上手くいったが無双できない

 貴也の一手は採用された。

 やっても害はないと判断されたからだ。

 上手く行ったらめっけものと言った感じなのだろう。


 と言う訳で公爵は爆笑し、エドは感心するように貴也を褒めたたえた後、王都へと旅立っていった。

 別に戦争の可能性がなくなったわけではない。

 軍の編成にも移動にも時間がかかる。

 貴也の作戦が上手くいかなかった場合に備えるのは当然だ。

 ただ、エドの気持ちが少しでも軽くなったのは良かったと思う。


 と言いうわけで貴也達は動き出した。

 貴也の作戦は……



「病める時も、健やかなるときも――」


 神父の厳かな声が静かなチャペルに響き渡っている。

 神父の後ろには大きな十字架があり、その上にはステンドグラスから洩れる光が煌めき神秘的な雰囲気を演出している。

 出席者は少ないが全員が席を立って静かに神父の話を聞いていた。


 そんな中、貴也は『この世界でも教会には十字架が飾られているんだなあ』なんて場違いなことを考えていた。


 そう、ここは公爵城の一角。


 普段は職員や公爵家の面々が礼拝や懺悔に使っている場所。

 ここは教会の簡易施設なのだ。


 今そこで結婚式が執り行われようとしている。


 貴也は神父に向けていた視線を隣に移した。

 そこにはベールを被った純白のウエディングドレスを纏った女性が佇んでいる。

 ベール越しなのと俯き加減なのでその表情は読み取れないが、貴也には嬉しそうな感情が伝わってきた。


 そう今日は貴也の結婚式。


 なぜこんなことになったかは後で話すことにする。


 と言う訳で


「さあ、誓いの口付けを」


 神父がそう告げるのを聞き、貴也は花嫁に向き直る。

 そして、ベールに手をかけた。

 花嫁がゆっくりとその細い顎を上に向ける。


「ちょっと待ったあああああ!」


 その瞬間、後ろのドアがけたたましい音を立てて開いた。

 息を切らして入ってきたのはスラリとした身体に金の髪をなびかせた美人。

 そして、最も注目する点はその金髪の間から除く黄色の立派な角。

 いや、黄色く輝く角は黄金と言っても差し支えないだろう。


 彼女こそ、魔王トパーズホーンであった。


 ここまで説明すればわかるだろう。

 貴也の作戦は見事成功したようである。

 振り返り、安堵の息を吐いたところでトパーズホーンの姿がぶれた。

 そして、気付いた時には貴也の目の前に現れている。

 そして、消えた!


「わたしの嫁に手を出すとは何事だ!!」


 素早く屈んだ為に彼女を見失ってしまった。

 そして、次の瞬間、彼女の拳が貴也の顎を捕らえる。

 貴也が宙を舞い。

 トパーズホーンは真っ直ぐに身体を伸ばしたままひねりを加えて一回転。


「ガゼルパンチ!」


 アルの叫びうが厳かな教会に響く。

 ガゼルパンチと言うより昇○拳だろ、と思いながら貴也の意識は切れていた。

 トパーズホーンはこの時点で貴也などどうでもよくなったのか、花嫁の手を握る。


 そして


「お主は誰だ?」


 首を傾げる魔王だった。


 ちなみに作戦は大成功だ。

 見事魔王トパーズホーンは誘き出された。

 今頃、バルトが魔力波長を変質させる魔導具を使って誓約の首輪を外しているころだろう。

 それを貴也が知るのは気絶しているので先になるのだがね。

 



 先に結果を述べたが、今回の作戦は実にシンプルなものだった。


 名付けて『勇者が結婚すると喧伝して魔王を誘き出そう大作戦』


 もうネーミングセンスの欠片もないのまんまの作戦だった。


 今回の作戦は勇者が結婚すると聞いた魔王が慌ててやってくるのを狙った作戦だ。

 魔王がどのような目的(想像出来るが想像したくない)で誓約の首輪を使ったかははっきりしないが、勇者が結婚すると知れば慌てて飛んでくるだろう。

 何故かと言えばもし誓約が結婚を意味すれば勇者が死ぬことになる。

 それに何より愛する勇者が他の者に盗られるなど許せるものではないだろう。

 と言う訳で今回の作戦を思いついた訳だ。


 幸か不幸か、魔王トパーズホーンは公爵が襲爵した際のお祝いに魔王ルビーアイと共に参加していてこの城に訪れたことがある。

 彼女は一度行った場所ならどこにでも転移できるので報せを聞けばすぐに駆け付けるだろう。


 と言う訳で勇者結婚の報を方々に流した。

 これには奴隷は結婚できないという法律を逆に利用して勇者は奴隷ではないと宣言する狙いもある。


 そして、結婚式当日。


 魔王は血相を変えて現れたわけだ。

 この魔王が単純な人で助かった、と言う面が大いにあるが結果オーライである。


 トパーズホーンは転移魔法で城内に現れ、職員や兵たちを手当たり次第に脅してこの場所を突き止めてきたのだった。

 魔力波長はセキュリティー装置を強化していたので魔王が転移してきた時点で計測。

 すぐに誓約の首輪は外された。


 そして、結婚式に参加していたのはもちろん替え玉である。

 芝居だとしても結婚式を上げたら首輪がどのような反応を示すかわからない。

 最悪、死の危険があるのだ。

 そんなことに優紀を使えない。

 本人は最後までぐずっていたが、最後は貴也が怒鳴って片付けた。


 と言う訳で替え玉のカタリナさん一言。


「身代わりって言っても豪華なウエディングドレスが着れたのは嬉しかったなあ。それにしても魔王ってカッコ良かったのね」


「あの魔王、女ですよ」


「そうなの! でも、女でもいいかも」


 カタリナさんが危険な思想に染まる前に速やかに帰ってもらった。

 それにしても流石カタリナさん。

 魔王相手でも緊張することなくいつも通りだった。


 閑話休題


 現在はお披露目と言う名目でウエディングドレス姿の優紀の隣に立っている。

 貴也は見事なアッパーを食らった衝撃から立ち直ったばかりで、まだ、ボオッとしていた。

 それでも何とか手を振って群衆の祝福に応えている。


 まあ、主役は優紀で貴也のことなど誰も見てないのだろうけど。

 この光景は全世界にネット配信や放送をされてている。

 これでジルコニアは大義名分を失ったと思いたいところだ。


 貴也はぎこちない笑みを浮かべながら、いつまでこんな茶番を続けなければいけないのかなあ、とか考えていた。

 そんなこんなで万事解決してめでたし、めでたし。

 すべてが丸く収まった。





 かに見えたが……


「では、話を聞こうか」


 優紀の結婚式が全て嘘だということを説明したのに一向に機嫌が直らないおかんむりの魔王が貴也の前で仁王立ちしていた。


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