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第六十三話 ジルコニア王国の思惑を考えてみるが無双できない

「なるほど、そういうことだったか。あまりのことでわしも混乱しておる。今後のことを話すのは明日にして今日は解散としよう。クロード。勇者様に部屋に案内してくれ。あと、貴也は少し残ってくれ」


 公爵がそう言って場を閉める。

 クロードは公爵の意図を察して素早く優紀を誘導して部屋の扉を開けた。

 優紀が貴也の方を見て何か言いたそうにしていたが貴也は手を振って追い出す。


「お前も疲れているだろ。話はいつだってできるから。また明日な」


 そういうと、優紀は寂しそうな顔をしていたが素直に出ていった。

 貴也は大きな溜め息を吐いて公爵の方に向き直る。

 そして、これからのことを考えて気を引き締めた。


 だが、そんな貴也の思いの甲斐なく公爵は机に項垂れている。


「さすがのわしも困惑している。どうしてこんなことが起こってるんだか」


 途方に暮れてそうこぼす公爵。

 こんな公爵が見れたことだけは優紀に感謝してもいいかもしれない。


 だが、そうはいってられる状態ではないはずだ。

 いち早く我に返ったエドが公爵を窘める。


「いまはそんな風に嘆いても仕方ありませんよ。それより父上はなんで貴也さんを残したんですか?」


「そうだな」


 そう言って公爵は顔を上げた。

 その顔はいつも通りの威厳に満ちた物に戻っている。


 そして


「貴也。君は勇者の知り合いだというのは本当か?」


「はい。向こうの世界で幼馴染でした」


「恋人とかそういう関係だったのか?」


「いいえ、どちらかと言うと家族に近い……いや、腐れ縁ですね」


 苦笑を浮かべる貴也に公爵は何も言わなかった。

 エドは厭らしい笑みを浮かべていたがそれは見なかったことにする。


「まあ、その言葉を信じておこう。少しはわしの気も紛れる。それでわしからの命令だが勇者にあまり近づくな」


「それはどういう意味ですか?」


 突然の命令に戸惑う貴也。

 だが、公爵は有無を言わさぬために説明を始める。


「勇者がどう思っていようとあの誓約は結婚を意味している可能性が高い。不義を働けばどのようなことが起こるかわからぬ。最悪、勇者は死ぬ。そして、その誓約は貴也に受け継がれる可能性が高い。すると今度は魔王が死ぬかもしれない。それは非常に困るのだ」


「なんで魔王が死ぬのですか」


「勇者の言っていることが真実なら魔王も結婚を誓って首輪をしている。そして、魔王が首輪を受け継いだ貴也との結婚を拒めば彼女は死ぬことになるだろう」


 優紀が死ぬまでは予想できたけど、その先に待つ魔王の死までは完全に頭になかった。


 と言うことは


「まさか、それがジルコニアの思惑なんですか?」


「そんなわけがないだろう。勇者と魔王が結婚し誓約させたあとに勇者を殺す。そして、誓約の首輪が魔王も殺す。悪いがこんな筋書きを真面目に考え、提案してくる家臣がいたら、わしはすぐにそいつを首にして追い出すだろう。それくらいバカな妄言だ。多分、ジルコニアの思惑以上のことが起きているのだと思う」


 貴也は公爵の意図が分からず首を傾げている。

 すると、推測だがと前置きして公爵の見解を話し始めた。


「ジルコニアが勇者を送った狙いは魔王の篭絡で間違いないと思う。彼女の女好きは結構有名な話だ。勇者は魔王の好みにぴったりだからの。まず、間違いないだろう」


 女好きで有名な女魔王ってなに?

 どこからツッコんでいいのか分からないが何とか黙っておく。

 公爵の話は続く。


「ジルコニアの狙いは魔王が勇者を気に入り囚われたと喧伝し、勇者奪還を大義名分にして軍を上げることだったと思う」


「だけど、事態はそれを上回ったということですか」


「うむ。多分、勇者の首輪がアーティファクトだとは気付いていないだろう。普通に奴隷にされたと思っているはずだ。だから、奴隷にされた勇者の奪還を声高に叫んでいる。囚われるより奴隷にされた方がインパクトが強いからな。大義としてはより強固なものになったとほくそ笑んでいるだろう」


 確かにこちらの人間にとっても無理やり奴隷にしたというのは外聞が悪い。

 それに魔王だ。

 一般市民にとって魔王は悪者と言う認識がある。

 さらに『勇者を奴隷にした魔王』だ。

 間違いなく魔王討伐は世論に受け入れられるだろう。


 そんなことを考えている間にも公爵の話は続いている。


「だが、早々にあの首輪がアーティファクトだと気付く可能性がある。勇者がここに来ていることは既に周囲には知れ渡っているだろうからな」


 なんで優紀がここにいることがバレたくらいで……


「そうか、奴隷に使われる首輪なら主から離れたら罰を与えられる。それに奴隷にするほど執着している者が手元からいなくなればすぐに回収に動く。転移が使える魔王が動かないということはそれが普通の首輪ではないから」


「そういうことだ。あのアーティファクトには位置を割り出す機能などない。まあ、それ以前に誓約があるから逃げ出そうと思うこともできないのだろうが……。今回はジルコニアに報告する必要があったし、純粋に貴也に会いたくて来ただけなので魔導具が効果を及ぼさなかったのだろう」


 なんだか、普通に奴隷にされてた方が良かったと思える状況に表情を引きつらせる貴也だった。


「それで父上。ジルコニアはどのように動くと思います?」


 今まで黙っていたエドが口を開く。

 エドにとっては優紀のことなどよりジルコニアの動向の方が気になるのだろう。


「ジルコニアの狙いによるな。まだ、誓約の内容が知られていない以上、心配はないと思う。が、本当に魔王討伐が目的なら勇者暗殺に動くかもしれない。それにことが公になれば敵はジルコニアだけではなくなる。厄介なことに魔王討伐を目論む輩は多いからのう」


「魔王を討伐して何か問題があるのですか?」


「あの魔王は善良ではないが人族にとって害のない魔王だ。もし、かの魔王が死んで凶悪な魔族に魔王の欠片が受け継がれるなんてことになったら……考えたくないのぉ」


 公爵の慟哭に思い沈黙が流れる。

 そして、公爵は重い口を開いた。


「まあ、ここで悩んでいても仕方ない。勇者には護衛をつけて警戒しておこう。今日はご苦労だった。下がって良いぞ」


 そう公爵は言って席を立った。

 その時、ふと貴也の頭に気になることが浮かんだ。


「公爵様。先程の言い方ですとジルコニアに魔王討伐以外の目的があるように聞こえたのですか?」


 貴也の質問に公爵は口を噤んだ。

 表情も消している。


 そして


「そのことはまた今度話そう。今日はもう遅い。これまでだ。貴也、くれぐれも勇者と間違いなど起こさないように気を付けてくれよ」


 貴也は優紀のことで念を押されて部屋を追い出された。

 体よく誤魔化された気がしないでもないが、黙って自室に戻る貴也だった。



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