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第六十話 ドラ○もんと呼ばれても無双できない

 勇者騒動が発覚して一週間が経過したが何の進展もない。

 公爵が子飼いの斥候を方々に出してジルコニアを探っている。

 しかし、有益な情報はまだ入っていないみたいだ。

 まあ、下っ端な貴也に話が回ってきていないだけかもしれないが……


 ちなみにアルは定期的に騒いでいるそうだが、その度に殴られ……いや、宥められている。

 現在は自室で謹慎という名の軟禁生活だ。

 丁度いい機会なのでエリザベードが再教育に乗り出そうとしたがあまりにも可哀想なので公爵に止められていた。

 まあ、あまり聞き訳がないようだとGOサインが出そうだったが……


 だからと言う訳ではないのだが、アルは部屋の中でスラリンと遊んでいる。

 たまに訓練所などにも顔を出すことを許されているそうだ。

 監視付きだけどね。


 そういうわけで貴也は今日も書類整理に追われている。

 決算時期ではないのでそれほど多忙というわけではないが月毎に上がってくる報告書などもあるので仕事には事欠かない。

 ていうか決算時期ってどうなるんだろう。

 想像してガクブルする貴也だった。


 この部署にきてもう二週間たち仕事自体はもう慣れたものだ。

 最初は前任者の作った資料を基に書類を作成していた。

 そして、担当者によって書式が違っていることにすぐに気が付いた。

 そのことを指摘してみると決まった書式などはないそうだ。

 だから貴也なりに書式を作成した。

 あとはそこに当てはめるだけで業務の効率化を図ったのだ。

 会計資料なんて日本も異世界でも変わりがないので書式を勝手に作れるのは本当にありがたかった。 

 やっぱり、使い慣れた物の方が楽だからね。


 それにしてもなぜ書式を統一しないのだろうか?

 そのことをクロードに訊いてみたが逆になんでだと思うか聞き返された。


 貴也の見解

 あの部署は教育育成の為の部署であり書類の製作や報告などは二の次。

 本当の狙いは公爵領の財政状況を把握させることなのでわ。

 書類を読むだけでは覚えるのが難しい為、会計書類を纏めさせる。

 纏めるためには内容を把握しないといけないので頭に入るというわけだ。

 ただ、重要な正式書類で教育を行うのには確認や修正が大変だ。

 だから、重要ではないがやらなくてはならない仕事を利用した。

 この書類はあまり読み返されるような物ではないので書式が毎回バラバラでも構わない。

 というか、独自に見やすい書式を作るのはいい勉強になる。


 ってところですか?

 貴也の回答は及第点を貰えた。


 あくまでも及第点ですよ、と言われたのでまだ裏があるのだろう。

 だが、貴也はそこにツッコみを入れるほどバカではない。

 聞いたら間違いなく仕事が増えるからだ。

 だから、にこやかにそうなんですかと惚けておいた。


 少し当てが外れて残念そうなクロードがいたが、そこには気付かないでおこう。

 間違いなく今逃げた仕事が回ってくるから。

 貴也は勤勉な方だが、決して仕事好きではない。

 『仕事を探すのはバカのやることだ』が貴也の信条なのだ。

 だって、仕事は何もしなくても、逃げてもやってくることを貴也は知っているのだから……。


 と言う訳で数字を目で追い、書類を埋めていく。

 項目が埋まったら所見を加えて報告書の完成。

 なんだか流れ仕事になってきたが、逆に流れ仕事になってきた所為で目に付くものが出てくる。

 検査官がスゴイ速度で流れていく紙幣から不良品を見つけ出すのをテレビで見たことがある。

 あの作業と似たようなものだ。

 大量に流れていく正しい物の中に異質のものが混じるとそれがいかに小さな違いでも目に留まるらしい。


「これ何か変だなあ」


 ボソッと呟いていた。


「何かありましたか?」


 貴也の声が耳に入ったのか課長が席にやってくる。


「別に大したことではないんですけど、収穫時期にもかかわらず穀物相場が上がっているんです。しかも、自然栽培の値は動いていないのに工場生産の物だけが」


 工場生産の農作物は一年中、計画通りに収穫される。

 だから、相場に変動がないように思われるがそんなことはない。

 自然栽培の影響で値は動くのだ。


 例えば豊作で自然栽培の美味しい物が安く大量に出回れば工場製の作物は売れずに供給過多になる。

 食べ物なので長期間の保存がきかないので値が下がると言う訳だ。

 逆に凶作だと普段自然栽培の物を食べる人も工場製品を食べるようになる。

 だから、値が上がる。

 まあ、その辺もある程度、計算されて工場は生産しているのだが、日本より科学が発達しているこの世界でも気候や魔物の脅威は計算しきれない。

 だから、突発的な出来事はよく起こる。

 現在、自然栽培は三割を切っているのだが、相場への影響度は高いのだ。


 そう穀物価格が上がるのはよくあることだ。

 だが、今回の値動きは妙だった。

 自然栽培の物は変わらないのに工場製品だけが上がっている。

 しかも、一ヶ所や二ヶ所だけではない。

 公爵領に存在する穀物商店すべてで同様の傾向があるのだ。


「これって誰かが買い占めているということですよね」


「月度の報告なので断言はできませんが可能性は高いですね」


 課長も同じ意見のようだ。

 難しい顔をして唸っている。


「上に報告を上げておきます。多分、調査が入ると思いますが担当は他の部署になるでしょう。貴也さんはとりあえずこのことは忘れて仕事の続きをお願いします」


「わかりました」


 そう答えたが貴也の心の中にはモヤモヤが残っていた。


 相場は簡単に動くものではない。

 一商店にある在庫を丸々買い占めても倉庫や工場から出荷されればすぐに穴が埋まる。

 相場をわずかでも動かすということは公爵領にある穀物の在庫の総量に影響を与えないといけない。

 それをやろうとすれば同時に多くの商店で大量に買い込まなければならないだろう。


 しかし、そんな行動があれば直ぐに報告が上がってくる。

 公爵の情報網はそんなに甘いものではない。

 そして、財務部署はそういう情報が集まってきやすい部署だ。

 なのにそんな話は耳に入っていなかった。


 ということは計画的にバレないギリギリの範囲で買い占めが行われているのか?


 じゃあ、なぜそんな面倒なことが行われているのか?


 今の情勢を考えればジルコニアの戦争だろう。

 ジルコニアが兵糧確保のために極秘裏に動いている。

 それとも商人が戦争特需を狙って買い占めている。

 普通に考えればこのどちらかであろう。


 だけど、何かが引っ掛かる。

 もうすでに手を離れた案件だったが貴也は気になってしょうがなかった。



 業務時間が終わって席を立っても貴也のモヤモヤは解消していなかった。

 だからと言う訳ではないが気晴らしに工房に向かってる。

 いまは関係ないことに没頭したい気分だったからだ。

 アルやスラリンと適当にバカ話してもいいのだが、今はアルが謹慎中なのでそれは出来ない。

 研究に没頭できるような精神状態ではないけど、バルトの話を聞くだけでも気が紛れるだろう。


 そんなことを考えながら歩いていると遠くの方から声が聞こえてきた。

 そして、何かが走ってくる足音が近づいてくる。


「大変だよ。大変だよ。ドラ○もん」


 よく聞いていた声にフレーズ。

 貴也は条件反射で振り返って叫んでいた。


「誰がド○えもんだよ!」


 目の前に誰かが飛び込んできた。


「やっぱり貴也だ!」


「なんでお前がここにいるんだ」


 抱き疲れる直前に貴也は素早く身を躱してそれを地面に叩き付けていた。


「うう~~。貴也~~」


「本当になんでお前がこんなところにいるんだよ」


 貴也は地面に突っ伏して涙目でこちらを見上げてくる幼馴染がいつも通りなのにホッとしながらも、そう嘆いていた。


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