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第五十四話 エネルギーキューブの使い道を語るが無双できない

「エネルギーキューブですよ」


「エネルギーキューブですか?」


 バルトは貴也の提言を聞いて思考の海に没していた。

 多分、エネルギーキューブの可能性について一人吟味しているのだろう。

 バルトほどの知識量があれば何らかの指針が示される可能性を想像して貴也は軽く高揚していた。

 実は貴也にとってもエネルギーキューブの可能性は思い付きでしかない。

 だから、専門家に意見を聞きたいところだったのだ。


 と言うことで待つことにしたのだが……


 長い。長すぎる。


 バルトが動きを止めてすでに一時間が経過していた。

 こういう人が思考し始めるときりがないのは知っていたが、まさか、ただの思い付きの一言が彼をここまで悩ませるとは思ってなかった。


 と言うわけで、バルトの件はとりあえず置いといて、初代の遺産の方に意識を向ける。

 こちらに戻ってきたら、話しかけてくれるだろう。


 そして……


 どうやら、貴也も集中していたようだ。

 資料に目を通しているうちに時間が飛んでいた。

 窓から差し込んでいた日は落ち、すっかり暗くなっていた。

 ここに来たのはまだ朝の早いうちだったことを考えると驚くほど時間が経過していたようだ。

 昼飯すら食べずに資料を読み漁ってしまった。


 それにしても、初代の遺産は多岐に及んでいる。

 本物のガラクタ

 用途がマニアック過ぎて使い道のない物。

 有用なのだが能力が足りなくて使えないものといろいろだ。

 

 まあ、総じて使えないというのが笑い話にもならない。

 ただ、気になるものが沢山ある。

 これらの理論を解明すれば、魔導研究が二世代は発展するのではないだろうか。

 本当にバルトが興奮するのがよくわかる。


 そんなことを思いながら整理された魔導具を見て回りながら、今後の研究方針を固めていた。


 そこでふと思い出す。

 あれ? バルトってどうなったっけ?

 貴也はやっとのことで思い出してバルトの元に戻った。


 そして、そこには朝と全く同じ姿勢を取ったバルトが立っていた。

 多分、ずっと、貴也が言った『エネルギーキューブ』の可能性について考えていたのだろう。

 ここまでくると呆れるのを通り越して感動する。


 と言うわけで、こちらに帰ってきてもらうために頭を思いっきりはたいておいた。

 流石に物理的打撃は効果があったみたいで頭を押さえてこちらを涙目で見上げるバルトがいた。


「何するんですか、貴也さん」


「いつまでも反応がなかったんで起こしたんです。もう夜ですよ」


「おう、また、やってしまったようですね。申し訳ない」


 頭を掻いて苦笑いを浮かべるバルト。

 どうやら、こういうことは一度や二度では済まないみたいだ。

 だが、そんなことはどうでも良い。

 バルトの考えの方に興味があった。


 だから、結果を聞いてみる。

 だが、それは貴也の期待とは若干違った。


「ええ、はっきり言ってわかりません。ただ、可能性はあるように思えます」


 あれだけ考えていた結論があまりに曖昧な物だった為、正直、貴也はがっかりしていた。

 そんな貴也の気持ちを察したのかバルトは申し訳なさそうに頭を掻き


「正直、全く頭になかった素材でしたのデータが足りないのが現状です。エネルギーキューブは科学の産物です。どうやら、わたしの思考も硬直していたようですね。科学と魔法は相反すると思っていたみたいです」


「でも、エネルギーキューブってどちらかと言うと魔法よりの製品なんじゃないですか?」


「エネルギーキューブは科学で生み出されたものですよ」


 二人ともキョトンとした顔で見合っている。

 どうやら二人の中で見解の相違があるみたいだ。


「エネルギーキューブは物理法則に則ったものです。熱エネルギーを溜めて放出する。原材料は魔物から抽出したものが多々使われていますが、そこに魔法的な処置は施されていません。純然たる科学の結晶です」


 ああ、そうか。こちらの世界では魔法を研究するものと科学を研究する者ははっきり分かれている。

 と言うより、お互い仲が悪い。


 科学を研究する者にとって魔法は真理であるはずの物理法則を覆す異端な物。

 魔法を研究する者にとって科学は魔法で簡単に覆る物理法則を基にする下位の物。

 と言う認識しかない。


 根本的に対立関係にあるので二つを同時に研究するどころか、交流など皆無だ。

 そこで固定観念が生まれているのだろう。


「オレがこの世界に来て最も衝撃を受けたのは『エネルギーキューブ』の存在です。魔法の存在は予想できましたが、エネルギーキューブには驚愕しました」


「そんなに凄いものですか」


「ええ、オレのいた世界では魔力バッテリー以上のインパクトがあります」


「そんな大げさな」


 と言ったバルトだったが貴也の真剣な目に言葉を飲み込んだ。


「オレのいた世界には魔法がありません。科学だけが発展した世界です。その世界でエネルギーと言うのは重要な位置を占めます。エネルギーを制した国が世界を制すると言っても過言ではない」


 そこで、一度言葉を切って唾を飲み込む。

 そして


「そんな世界にいたオレがはっきり言います。あのエネルギーキューブはおかしい」


「おかしいというのはどういうことですか?」


「バルトさんはエネルギー保存の法則は知ってますよね?」


「ええ、物理法則の一つですよね。エネルギーは形態、性質を変えるが、その総量は常に一定とかなんとか」


「ええ、そんなようなものです。位置エネルギーが運動エネルギーになったり、運動エネルギーが熱エネルギーに変わったりするけど、エネルギーの総量は変わっていないという基本法則です。ただ、この世界は魔法があって魔法はその原則を簡単に覆してしまう」


「そうですね。よくそのことで科学者には妬まれる」


 苦笑を浮かべるバルトに思うところが貴也にはあったがここでは黙っていた。

 そして、話を続ける。


「エネルギーキューブはそのエネルギー保存の法則に反しているように思えるんです」


「どういうことですか? エネルギーキューブは溜めた熱を放出しているだけですよね。放出する熱が多くなるのなら問題でしょうが、そんなことはありません。若干、ロスがあるのは仕方がないことじゃないんですか?」


「そうですね。オレに言わせればそのロスが少なすぎると言いたいところです。そこは今はどうでも良いです。オレが考えているのはエネルギーを吸収している時でも、エネルギーを放出している時でもありません」


 貴也の意図が読めないのかバルトは首を傾げている。

 だから、貴也はもう一歩踏み込んでみた。


「エネルギーキューブの中で熱エネルギーはどのような形で保管されていると思いますか? 熱のまま? それだとどうして表面に現れないのか。あれだけの熱を閉じ込めるのです。エネルギーキューブの断熱性能は途轍もないものと思われますが本当にそうなのでしょうか?」

「別の物? 例えば電気みたいなものですか?」


「電気では安定性が掛けるでしょう。それに変換するときには必ずロスが生まれる。いまのエネルギーキューブを利用した発電装置でも二十から三十パーセントの損失がでる。だが、エネルギーキューブの熱損失率は驚くほど低い」


「じゃあ、他の形態。そうか質量に変換してるとか?」


「それじゃあ、エネルギーキューブに何か問題が生じた時、パルマの村の先にある遺跡と同じようなことが起こりますよ。そんな恐ろしい物を使ってるんですか?」


 バルトがそこに思い至ってブルリと震えた。

 あの遺跡の大参事は何百年経っても色褪せないほどの出来事らしい。

 すぐに首を振って否定する。


「だったら何を……」


 そこまで言って何か思いついたのかバルトは言葉を飲み込んだ。

 そして、恐る恐るそれを口にする。


「もしかして、貴也さんは熱エネルギーが魔力に変換されているというのですか?」


 貴也はニヤリとしてから首を振る。


「わかりません。まだ、全く検証出来てませんから。ただの仮説と言うより思い付きの段階ですね。でも、オレは熱エネルギーをそのまま貯蔵しているというより余程信憑性があると思うんですよ」


 その言葉には妙な迫力があったみたいでバルトは口を開けて放心していた。


「さあ、今のことを念頭に置いてこれから研究を進めていきましょう。まあ、失敗しても他に当てがありますしね」


 その一言でさらにバルトは戦慄を深めていた。

 貴也の底が見えず、尊敬と言うより畏怖の念までうかがえる。


 こうして、バルトと貴也の果てのない研究生活が始まったり始まらなかったりする。



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