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第四十九話 スラリンが拗ねちゃって無双できない

連休中に書き溜めしようとするもなぜか休日は筆が進みません。

不味いです。


 現在、貴也は軍部の方の清掃に回っていた。

 領都を運営する内政官僚が働く南棟は一通り回り終えたというのもあるが、これ以上、厄介ごとを増やさないで欲しいという監査部のご意向だ。

 でも、軍部の方で貴也がやらかさない保証はない。


 その点を指摘してみると


「内政部と軍部は担当が別ですから、それに我々だけ苦労して軍部の監査部署が苦労しないのはどうかと思うんですよ。と言うわけで思いっきりやっちゃって下さい」


 だって。


「オレのことをなんだと思ってるんだ。ちゃんと自重するよ。っていうか、やらかした覚えはない!」


 と声に出さずに心の中でだけ反論しておいた。

 貴也が言っていることは一概には間違っていない。

 彼がやったことと言えば、女子職員と井戸端回会議をしてそこからの情報を抜粋しただけだ。


 ただ、諜報活動と言うのは実はそういう噂話や新聞や雑誌の記事などを集めることが基本である。

 要人に近づいたり、ハッキングしたりして機密情報を聞き出すなんてことは滅多にない。

 そういう意味でいえば貴也は優秀な諜報員だった。


 それに外部委託の掃除業者と言うのは部外者でありながら身近な存在。

 それでいて立場が低いので話を聞き出すのには最適と言えた。

 今でも派遣の事務員として潜入調査をしている者は多数いるのだが、今後はこういった形の工作員も増えることだろう。


 女性のネットワークはバカに出来ない情報源なのだ。

 と言うわけで今回も情報収集を期待されているみたいだが、今はそんな気分には慣れない貴也だった。


 貴也の頭の中には先日の事件のことがこびり付いている。

 そう奴隷問題だ。


 現代日本に生まれた貴也にとってやはり奴隷とは許容できるものではなかった。

 百歩譲って戦争奴隷や犯罪奴隷は目を瞑れるが売買奴隷は……


 知識で知っているのと目の前で見るのとでは大きな違いがあった。

 奴隷の存在を知ったときは「ああ、やっぱり、ファンタジー世界だからいるのね」くらいの感覚でしかなったのに……


 ああ、もう腹が立つ。

 異世界転移物で主人公が奴隷制度に思い悩むという展開はテンプレと言っていいだろう。

 やっと、主人公的な役回りが回って来たかと思ったら、こんな思い課題を与えられるなんて、この世界の神様は貴也に恨みでもあるのだろうか。


 なんだか腹立たしくなってきた貴也だった。


 こういうのは勇者みたいな人の仕事なはずだ。

 散々、チート能力でいい目を見たのだから大変な目の一つや二つ味わうのは当然だ。


 なのに何故オレに!

 権利を与えずに義務だけ与えないでくれ!

 ギブミー、チート。

 悩ますくらいなら解決できるようなチートをよこせ!

 ふぜけんなよ、神様!


「はあはあ、ぜえぜえ」


 失敬、ちょっと、取り乱しました。


 と言うくらい貴也は参っているのでした。

 そして、貴也の心労を増やしている原因がもう一つ。


「キュキュ~~~~~~~~」


「甘い!」


 振り向きながら手刀を落とす。

 見事に不意打ちにカウンターをぶつけた。


 そして、見事に迎撃されたスラリンはと言うと部屋中に乱反射している。


 部屋中に青い奇跡が縦横無尽に走っている。

 多分、これに当たるとダメージを食らうだろう。

 貴也はその青い閃光を最小限の動きで躱していく。


 そして……


 窓を開けた。


「キュキュキュ~~~~~~(これで勝ったと思うなよ)」


 何か負け惜しみを言っているような声で鳴くスラリンは窓から彼方へと飛んでいく。


「いってらっしゃ~~~い」


 貴也は手を振ってスラリンを送り出した。

 そして、盛大に溜息を吐く。


 そうなのです。

 黙って工事現場に行ったのをスラリンが思いのほか怒っているのです。


 一日、二日目は貴也がいないこともあまり気にしていなかったそうだ。

 だが、三日目くらいから様子がおかしくなった。


 しきりに窓を気にしたり、アルにぶつかってきたり、クロードや公爵にも色々やっていたみたいだ。


 どうやら、スラリンにとって以前、貴也に置いて行かれたことがトラウマになっていたようだ。

 だから、貴也がいなくなって不安で最後の方は暴れていたらしい。

 人間なら説得と言う手もあるのだが、領都と言えどスライムの言葉が分かるものはいなかった。

 スラリンと少しでも意思疎通が出来るのは飼い主の貴也くらいだろう。

 その貴也が不在なのだからどうしようもない。


 と言うわけで可愛そうだが檻にでも閉じ込めておこうということになったのだが……


 これが思いのほか大変だった。


 スライムと言ってもスラリンは特別な存在だ。

 素早さは異常に高いし、魔法も使える。

 本気を出せばここの戦闘職の人間なら何とでも出来るが傷付けずに拘束するのは骨が折れたらしい。

 最後はクロードが出張ってやっと捕獲を完了した。


 貴也が帰って来て見たのは檻の中に入れられて不貞腐れているスラリンだった。


 それから何度か謝っているが許してもらえない。

 暇さえあれば攻撃してくるようになった。

 まあ、仕事中は手を出して来ないところがこのスライムの優秀なところなんだけど。


 正直、悩み事を抱え落ち込んでいる貴也としてはこのやり取りにうんざりしている。

 そんなことを考えながら、気分転換に魔導アーマーでもいじりに行こうと中庭を歩いていると


「キュキュキュ~~~~~~! (覚悟!)」


 スラリンが飛び込んできた。

 素早さに任せた一直線の攻撃。

 そのバカの一つ覚えのような攻撃を貴也は振り向きをせずに身体を横にずらして躱す。

 毎度の攻撃に貴也の感覚は研ぎ澄まされていた。


「ふふふふ。もう、お前の攻撃など完全に見切っているのだよ」


 ニヒルに笑って見せる、貴也。

 そんな貴也をスラリンは鼻で笑って返す。

 いつもの雰囲気と違うスラリンに貴也は警戒心を強めた。


 スラリンはゆっくりと貴也の周りを回り始めた。

 そして、徐々にスピードを上げていく。

 ここからどんな攻撃がやってくるのか貴也は神経を張り詰めさせた。


 その時だった。


「なに、二体に分かれただと」


 貴也は目を擦って再度確認する。

 しかし、何度見てもスラリンの姿が二つある。


 スラリンはさらにスピードを上げる。


 高速移動をしながら貴也の周りを回る。

 その姿が一体、二体、三体、四体……八体!


 スラリンの姿が八体に増加した。

 グルグル、貴也の周りを回るスラリンは確かに八体いるように見える。


「まさか、分身の術だと」


 流石はファンタジー世界、忍者マスターの奥義を実践する者(スライム)が現れるとは

 貴也は驚愕しつつも警戒を解かない。


 そして、その時だった。


 八体のスラリンが貴也に向かって跳びかかってくる。

 貴也は冷静に見極めて


「そこだ!」


 一体のスライムに向けて拳を突き出した。


 見事、スラリンの攻撃を見切った貴也の拳には確かな感触。

 そして、打撃を受けて飛んでいくスラリンの姿があった。

 勝利を確信した貴也は


「グホ、ゲホ、ギホ、ゴホ、ガホ、グホ、ゴホ」


 顔、腹、背中、肩、後頭部、足、こめかみに打撃を受けた。

 フラフラになりながらもなんとか踏ん張る。


「なんでだ。スラリンの実態は吹き飛ばしたはず。まさか!」


 七体のスラリンが貴也の前でピョンピョンと跳ねていた。

 吹き飛ばされたスラリンも戻ってくる。

 横一列に並んだスラリンはリズムを合わして跳ねていた。


「分身の術ではなく分裂だと」


 そう、スラリンは虚像を交えた分身の術を使っていたのではなく分裂をしていたのだ。

 よく考えればわかることだった。

 ゲームや小説でスライムが分裂するのは良くある話だ。

 スラリンならそれくらいやってもおかしくない。


「うぐぐぐ」


 そんな考えてみれば当たり前なことに気付かなかったことに歯軋りをして貴也は悔しがっていた。

 そんな貴也をニヤリと笑いながら同じリズムで跳ねるスラリン。

 その表情はまだまだこれからだ、と言っていた。


 そして、


 跳ねていたスラリンの動きが変わった。


 中央にいるスラリンに向かって端にいるスラリンが乗っていく、

 さらにその上に、

 そして、その上に。

 組体操のように重なり合うスラリン。


「まっ、まさか、合体だとキングなスライムになるのか!」


 貴也は驚愕に目を見開いた。

 スラリンが光を発する。

 貴也は眩しさを避けるように手を翳した。


 そして、そこには!


「いつものスラリンじゃねえか!」


 いつも通りの形、大きさのスラリンがそこにいた。


 貴也はドヤ顔するスラリンにチョップを振り下ろす。

 スラリンはプンプンと怒りながら足に噛り付いてきた。


 まあ、考えてみれば分かることだった。

 どういう理屈か分裂した時に大きさも形も変わってなかったのだ。

 分裂したのが合体したからって大きくなるとは限らない。

 合体でなく、元に戻ったと考えるのが妥当だろう。


 本当に騙された。


「あはははっはははははは」


 貴也は久しぶりに声を上げて笑っていた。

 そんな貴也を見てスラリンも嬉しそうに笑ったような気がする。


 もしかして、こいつはオレに元気がないから励ますためにあんなことをしていたのか、と貴也は訝しむ。


「まさかな」


 そんなことを思いながら貴也はスラリンに少し感謝していた。


 だけど……


「お前はいつまで齧ってんだよ」


 スラリンには貴也の感謝など伝わってないみたいだ。

 足を噛み続けるスラリンに貴也は軽く跳躍、逆側の足で器用にスラリンを踏みつぶす。

 フギュと鳴いて潰れるスラリン。

 貴也はドヤ顔でスラリンを見下ろすが、いつの間にか踏んでいた足に再度、咬みついているスラリン。


「なんでやねん」


 ともう一度、跳躍して踏みつぶそうとするが今度は素早く離れて振り下ろされようとする足にガブリ。

 貴也は再度跳び上がった。


 傍から見ると二人は遊んでいるようにしか見えなかったのはここだけの話。

 こうして貴也の気分は幾分か晴れていたのだった。


PVが少しずつ増えてきて1万PVが見えてきました

みんなさんありがとうございます。

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