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第四十三話 魔導アーマーは融通が利かなくて無双できない

「さて、今日も実験を始めようか」


 そういうと隣にいたアルの方がビクリと震えた。


「手伝いませんよ」


 おどおどと応えるアルに貴也は笑顔を向ける。

 その笑顔を見てアルは盛大に溜息を吐いていた。

 そんなに嫌そうにするなら来なきゃいいのに、と思いながらも声には出さない。

 本当に来なくなったら困るのは貴也なのだから。

 

 それはさて置き先日、あれほどの目に遭わされたアルがなんでこの場にいるかと言うと、あの時の記憶がないらしい。

 光収束魔法を跳ね返した所くらいから記憶が曖昧になっているそうだ。

 まあ、幼児退行を起こすような出来事だ。

 記憶にない方が健康にもいいだろう。

 と言うわけで先日の件はアルには内緒と言うことになっている。


 それ以外にもやり過ぎたことで関係者一同、クロードや公爵にお怒りのお言葉を貰っている。

 第三部隊の隊長さんに至っては三か月の減俸処分だそうだ。

 本当に悪いことをした。


 だからと言って貴也は悪びれない。

 今日も楽しく実験タイムだ。


「本日はこの人工筋肉の検証実験を行う」


「これってどうやって動かすんですか、以前、魔導アーマーを起動させた時にはエビ反り状態になって身動き取れなくなったんですけど」


 思い出したのかアルが腰を擦っている。

 これが魔導アーマーの第二の欠点だ。


 第一の欠点は言うまでもない魔力を食いすぎること。

 あの多重装甲で全身が覆われており、強度を保持するため常時魔力を吸われ続ける。

 はっきり言って常人に耐えられることではない。

 すぐに魔力枯渇を起こすのはこの装甲の影響が大半を占める。


 そして、第二の欠点。

 操作性が悪すぎるのだ。


 魔導アーマーは特殊な繊維を束ねた人口筋肉で動かされている。

 この繊維は魔力を流すことによって伸び縮みする性質がある。

 つまり、操縦者は魔力を人工筋肉に流し込む量を制御して動かすのだ。


 これが無茶苦茶難しい。


 人間も脳から電気信号を発して筋肉を動かしているのだが、それを意識してやれるものはいない。

 多分、五本の指を動かすくらいなら出来るのだろうが歩くとなると難易度は桁違いに上がる。


 人間バランスをとるのに様々な筋肉を微妙に動かしているのだ。

 その計算は貴也の時代のスーパーコンピューターを持ってしても難しかった。

 だから、ロボットを開発した時は最初にバランスをとるための制御システムを組み入れた。

 何度もシミュレーションして最適解を予め与えておく。

 ただ、最適解通りに動くようにはしない。

 遊びを作らないと状況に対応できないからだ。


 その後は様々な状況に応じて対処させ、学習、経験値を積ませていく。

 そうやって、身体自体に学習させて操縦者の負担を出来るだけ減らすのだ。


 貴也達も脳波コントロールやあらゆる操縦法を考えて試した。

 結果は補助なしの人間によるマニュアル制御でロボットを操縦することは不可能だと判断した。

 はっきり言って身体の隅々まで意識することなど不可能だ。

 それこそ『クロックアップ』の魔法でも使わないと無理だろう。


 つまり、この魔導アーマーはそれが出来る人間でないと動かせない。


 そこで貴也が至った結論。


 制御できないなら制御装置をつければいいというものだ。

 魔力の伝達経路に流量の制御弁をつけて自動で調整できないか、と言うものだ。

 動きのイメージを読み取り、予めシミュレートしたように魔力をそれぞれの部位に分配する。

 そのような装置を組み込めれば誰でも魔導アーマーを動かすことが出来るわけだ。


 だが、ここに大きな問題がある。


 魔力は機械と絶望的に相性が悪い。


 まあ、機械と言うより複数の物体に魔力を流すのが難しいのだと思う。

 論文を調べたり、分解していて分かったことだが、この魔導アーマーには血管のように手と足から魔力を伝える魔導線が備えられている。

 この魔導線を伝って各人口筋肉に魔力が供給されるのだ。

 が、この分岐部分で魔力の伝達量が著しく落ちる。

 一本の線なら長さによって徐々に魔力が減衰していく。

 しかし、継ぎ目のところで発散してしまう。

 このロスがバカに出来ない。


 初代が魔導アーマーをここまでシンプルに作ったのは自分がこれくらいの制御は容易かったのとそういう装置を作ることが困難なことを知っていたからなのだろう。


 う~ん。悩ましいところだ。


 まあ、出来ないことは仕方がないので今は出来ることをしよう。


 実験開始だ。


「さあ、アル。動かしてみてくれ」


 貴也は台の上に置かれた腕を示した。

 現在、魔導アーマーは分解されて装甲板を剥がされ、腕だけの状態で台の上に置かれている。

 この状態なら消費魔力はそう大したことはない。

 貴也でも指くらいなら動かすことが出来る。

 アルはその腕と貴也に視線を往復させながら不安そうに


「これ大丈夫なんですか。ひどい目に遭ったりしません」


「大丈夫だ。魔導アーマーの制御が難しいのは装甲に大量に魔力を流し込みながら人口筋肉に適量の魔力を流し込むという絶妙な魔力の制御が難しいからだ。今回は装甲を取っ払っているから筋肉に魔力を流し込むことだけに集中すればいい」


「そんなこと言って僕が魔力を流したら腕が跳ね上がってひどい目に遭うんでしょ」


「なんでそう悲観的かなあ。いきなり魔力を流さなければ急激に動かないぞ。まず、腕全体を魔力で覆うようにイメージしてその後、少しずつ動かしたい部分にだけ魔力を流し込むんだ」


「何か、知ったような言い方ですね。動かせもしないくせに」


「指くらいなら、動かせるぞ」


「えっ」


 アルはハトが豆鉄砲を食らったような顔をしていた。


 貴也は「しょうがないなあ」と言いながら腕を魔導アーマーに差し入れる。

 アーマーの腕の中にあるステックを握るとアーマーの拳の当たりに意識を集中して魔力を込める。

 ブーンと小さい振動音が響くと貴也は徐にアーマーの拳を開いた。

 そして、小指から順番に折り曲げていく。

 そして、最後に親指が曲がって音が止んだ。


「ふう。キツイなあ。これだけ動かしただけで魔力がほとんど残ってない」


 貴也の言葉など耳に届いてないようでアルは呆然としていた。


「じゃあ、アル。言った通りやってみて。お~い。アル。アルさんや~い」


 呆然とするアルの顔の前で手をヒラヒラと振っていると正気に戻ったのか、アルが肩を掴んできた。

 こう見えて身体を鍛えているアルの力は強く肩が結構痛い。


「いま、何をやったんですか? 魔導アーマーを動かせる人なんて今までいなかったのに」


 ガタガタと貴也を揺するアルを何とか宥めてから説明に移る。


「オレがこいつを簡単に動かすことが出来るのは魔力容量が少ないからなんだ」


「魔力容量が少ないから」


 何を言っているのか分からないのか首を傾げている。

 その反応に「そこからかよ」と頭を掻きながら貴也は説明を始めた。


「この人工筋肉を動かすだけなら魔力はそれほど必要ないんだ。だから、少しずつゆっくり魔力を流し込めば誰でも動かすことが出来る」


「そんなはずはない。こいつを起動させるには莫大な魔力がいる」


「そうだよ。ただし、それは全身を動かそうとすればだ。今回、オレが魔力を込めたのは拳の部分だけ。身体全体の人口筋肉量からすれば五十分の一にも満たないんじゃないか。それに魔力消費を減らすために装甲板を外している。魔力消費量は完全な状態の千分の一以下だと思うよ」


「本当ですか? そんなこと聞いたこともありませんよ」


 貴也は呆れたようにアルを見る。


「それはアルの勉強不足だ。オレが見た論文のいくつかには書いてあったぞ。まあ、推測に留まってたがな」


「なんで推測はしてたのに検証はされなかったんですか?」


「簡単だよ。初代公爵の遺産、しかも、もっとも有名で貴重な一点物。分解して壊しちゃったらどうする」


 アルは合点がいったのか頷いていた。


「でも、貴也さんはそれが分かっていてなんでここまで出来るんですか?」


 目の前には魔導アーマーの様々な部位が転がっている。

 一部は分解どころか切断されている物もある。

 あの部品を元に戻すことは不可能だろう。

 それを見ながら首を傾げるアルに貴也はニヤリと笑う。


「どんなに危険なことでも男にはやらねばならないことがあるのだよ」


 なんかそれらしい言葉をドヤ顔で言う貴也。

 アルはそんな貴也をジト目で見ている。

 貴也は咳払いをして言葉を続けた。


「まあ、公爵は壊しても怒るような人ではないからね。例え元に戻らなくても何か発見があった方が喜ぶ人だ」


「まあ、そうでしょうけど。それだけですか?」


「こいつは誰も動かせないんだから、別に元に戻せなくても外観さえ繕えば誤魔化せる。まあ、ちゃんと状況は報告するけどね」


 アルは大きな溜め息を吐きながら頭を抱えていた。

 そんな彼を見ながら貴也はたからかに笑っている。


「それじゃあ、実験を開始しようか。まずは指を動かしてもらおう」


 貴也は表情を改めてアルに実験開始を促す。

 アルはアーマーの腕の部分に手を突っ込んで準備を始めている。

 彼の目は期待で爛々と輝いていた。



 結果……



 跳ね上がった魔導アーマーの腕の勢いで宙を舞い天井に激突。

 そのまま受け身も取れずに床に叩き付けられた挙げ句に魔導アーマーの腕の下敷きになっていた。


「だからゆっくり魔力を流せっていったのに」


 ぼそっと言う貴也の声は白目をむいて気絶しているアルに届くはずもなかった。


 その後、何度か実験を繰り返してみたが、アルにはこの腕を制御することは難しいようだった。


「なんで貴也さんに出来て僕にできないんですか!」


 もう半切れ状態でむきになっているアルに貴也は冷や汗を掻きながら


「う~ん。魔力制御の差かなぁ」


「僕が貴也さんに魔法で負けるっていうんですか!」


「この場合は適正ってやつかな。普通、魔法を使うとき出力を抑えるようなことは滅多にしない。だって、出力を落とすのは上げるより制御が難しいからね」


「それは知ってます。上級魔法を中級魔法並みに威力を落とすのは大変です。それにそんなことをするくらいなら初めから中級魔法を使ったほうが楽です」


「だろ。好き好んでそんな訓練をしてるのは多分オレくらいだよ」


「貴也さん。そんなことをしてたんですか?」


 驚いたように目を剥くアルに貴也はバツが悪そうに頭を掻いていた。


「オレは身体能力がそれほど高くないからね。身体強化魔法に身体がついてこれなかったんだ。だから、身体を慣らすためにまず身体強化の威力を落とすことから始めたんだ。まあ、すぐ慣れたんだけど、これは魔力制御の訓練に向いていることを知ってね。それからは常時上級身体魔法を複数種類かけて威力を落として生活してたんだよ」


「あなたはバカですか? でも、貴也さんの魔法技量の成長の仕方がおかしかったのにはそんなカラクリがあったんですね」


 呆れ半分、関心半分でアルはこちらを見ていた。

 貴也は笑って誤魔化しながら今日の実験を終了した。



 後日談


「アレックス様。廊下を走ってはいけません」


「壁に穴を空けてはいけません」


「アル。フォークを曲げるな。もういい! お前は食事抜きだ」


「ぎゃあああああ。アレックス様が窓から飛び出した!」


 などなど。


 アルはなかなかの負けず嫌いだったみたいで貴也の真似をして訓練をしているみたいだ。

 まあ、このことは貴也の胸に仕舞っておこう。

 バレてクロードに怒られては溜まらない。


 そんなことを考えていると


「貴也さん。お話があります」


 クロードに首根っこを掴まれていた。


「はい」


 その後、小一時間説教をくらいアルの説得に出向く貴也でした。




申し訳ありませんが帰宅時間の関係でこれから投稿時間が19時から前後するかもしれません。

ただ、月水金の投稿は守るつもりなのでご了承ください。

守れなかったすみません。

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