第四十二話 魔導アーマーの装甲が固くて無双できない
「う~ん。こいつを作った奴はいろんな意味でバカな奴だなあ」
貴也は正直な感想を漏らしていた。
ここのところ、貴也は仕事の合間を見て倉庫に入り浸っている。
もちろん、目的は魔導アーマーだ。
過去に魔導アーマーを有効利用しようと研究していた人もいたみたいでエドに資料を貰っている。
エドも仕事があるので頻繁には来られないが、ちょくちょく顔を出して手伝ってくれている。
アルは魔力タンクとしていいように使わせて貰っている。
「だって、オレの魔力じゃ起動できないんだもん」
と拗ねた口調で言う貴也は貴重な萌要素だったかもしれない。
まあ、それは置いといて魔導アーマーについて分かったことがある。
分かったことがあると言うより分からない方がおかしかった。
構造はいたって単純。
と言うより機構類がない。
見るべきポイントと言えば関節部と推進装置、あとは各種センサー類くらいだろう。
他はすべてシンプルなものだ。
姿勢制御機構も運動制御機構もない。
その辺はすべてマニュアルで操作しないといけない。
はっきり言って無茶振りだ。
魔導アーマーとはよく言ったものでこれは鎧の延長だった。
決してロボットではない。
その辺に若干、がっかりしたのだが、各種素材とこれをどうやって人間が操作しているかに興味が湧いた。
まずは資料と分解解析、実験で分かったこと。
この鎧の装甲は多重積層材を使用している。
最表面は魔力を流すことによって硬度を高める素材だ。
この手の素材は現在でも流通している。
一番有名なところではアダマンタイマイの甲羅だ。
だが、この魔導アーマーに使われているのはそれとは比べられない性能を持っている。
そして、それ以上に魔力消費が激しい。
二層目には魔力を流すことにより魔法を遮断、反射するフィールドを生みだす素材を使っている。
これは現在では目撃情報もない幻獣からとれる素材らしい。
これは魔力を流せば流すほど耐魔法防御力を上げる。
上限を越して魔力を込めると反射が出来るという要領だ。
しかも、このフィールド、流される魔力と同質の魔力には干渉しないという優れもの。
フィールドの範囲が広ければ自分だけが魔力を使える無敵空間が築けるわけだ。
まあ、実際範囲は一cmもあればいいところなんだけど。
三層目は浮力を生む素材。
何かのドラゴン鱗と思われる素材だ。
よくドラゴンは翼を羽ばたかせて飛んでいると思われがちだが、あの体格を浮かせるには翼面積が小さすぎる。
ドラゴンは魔力で空を飛んでいるのだ。
羽根は姿勢制御や操舵に使っているのである。
ドラゴンによって飛行の仕方は様々だが、中に特殊な鱗を持つ者がいる。
その鱗は魔力を流すことによって浮き上がるのだ。
この鎧に使われている装甲は魔力を流すことによって浮き上がり可動できるようになっている。
重い装甲板で動きを阻害されないようにするのと受けたダメージを身体に通さないための措置だろう。
第四層は衝撃吸収素材だ。
浮力で吸収しきれない分をカバーするのと着心地の対策なのだろう。
とりあえず、腕の装甲を剥がして魔力を流し保持できるように取っ手をつけて簡易盾を作ってみた。
実験の開始である。
「アル。その装甲板に魔力を流しながら構えてくれ」
場所は倉庫近くの中庭。
今日は軍の魔法部隊と兵器開発局に協力してもらっている。
「あのぉ、目の前に物々しいものがあるのですが」
「心配するな。ただの電磁投射砲だ。見た目はあれだが純粋な機械兵器。まだ、Cランク魔物を一撃で倒せるくらいの威力しかない」
「何言ってるんですか。その威力って戦術兵器じゃないですか」
確かにこのタイタニウムの城の城壁でさえ一撃で粉砕する威力がある。
「でも、これって威力はあるけどチャージに時間がかかるし設定した場所しか攻撃できない。集団の真ん中にぶち込むか攻城兵器としてしか使えない欠陥品だぞ」
「それは知っていますけど威力はとんでもないですよね!」
「おう。それだけは保証できるぞ」
満面の笑みを浮かべて胸をそらす貴也を見て大きな溜め息を吐くアル。
「それで何をするんですか?」
聞かなくてもわかっているが聞かずにはいられなかったのかアルが尋ねてきた。
「そんなもの決まっているだろう。その装甲の強度実験だ」
貴也はそんなこともわからないのかと呆れている。
だが、アルはそれどころではない慌てて貴也に捲し立てる。
「いやいやいや、その兵器の威力を知ってますよね。それを僕に受け止めろっていうんですか?バカですか!」
「何言ってるんだ。強力な物じゃないと実験にならないじゃないか」
淡々と答える貴也に肩を落としているアル。
ダメもとと言う感じでアルが訪ねてきた。
「あのぉ、ここに盾を設置しておくというのは」
「魔力を流さないと装甲板の強度が分からないだろう」
貴也の目は真剣だった。
アルは頬に冷や汗を掻いている。
「貴也さ~ん。電磁投射砲の設置終了しました。そろそろチャージを始めたいんですが」
「おう、わかった。始めてくれ。チャージが終わったらみんな安全域まで退避。カウントダウンで実験を開始する」
「はい!」
兵器開発局の人間がキビキビと動いている。
その眼は生き生きとしていた。
この世界には魔力がある為、機械兵器の需要は少ない。
魔物には機械兵器の効果が少ないのだ。
それでも研究者は諦めていない。
そして、威力のみを突き詰めて開発された兵器の一つがこの電磁投射砲。
しかし、欠点だらけの兵器でとても魔物との戦闘に使えない。
出番がなく倉庫の肥やしとなっている代物だ。
それは研究員も一緒だった。
兵器開発には金がかかる。
その上、開発されたものは使い物にないないものばかり、
周りには給料泥棒と揶揄されている。
そんな中で久しぶりの出番だ。
喜ばないわけがない。
その上、危険だという理由でろくに試し打ちが出来ないものを試射できるのだ。
やっぱり、道具は使ってなんぼだ。
研究者たちは喜々として貴也の提案に乗ってきた。
「アル。心配するな。計算上、電磁投射砲を十発同時に受けてもこの装甲板はビクともしない……はずだ」
「はずって言いましたよね。確実じゃないんじゃないですか!」
「まあ、資料が少ないからな。確実なことはいえん」
堂々と言い切る貴也。
もう涙目のアル。
そこに
「貴也さん。まだ、開発局の実験終わってないんですか」
「すまん。準備が遅れているんだ。もうすぐ始まるから第三部隊さんはちょっと待っててくれ」
「あはははは、なんか面白そうだから見学してますよ」
「すまんな!」
貴也はやってきた一団と大声で会話していた。
そのやってきた面々を見てアルがガクブル震えだす。
「貴也さん。第三部隊って」
「ああ、魔導戦略第三部隊。領軍、広域殲滅部隊のトップエリートたちだ。この後に行う魔法耐久実験に協力してもらっている」
「マジですか」
「マジだよ。物理耐性を見たら、魔法耐性も見ないとダメだろう」
「あは、あは、あははははは」
アルは死んだ目で笑っていた。
「貴也さ~ん。チャージ完了しました」
「よ~し。実験開始だ。カウントダウンを始めるからトリガーを頼む」
「貴也さん。避けてもいいですか?」
「別に避けてもいいけど、城が吹き飛ぶぞ」
貴也は首を傾げて走り去った。
「10、9……」
「うわあああああああああああああ」
アルは喚きながら盾を構えていた。
魔力を装甲板に流しだしたのか盾が輝きだす。
それを見届けながら貴也はカウントダウンを続ける。
「3、2、1、発射」
電磁投射砲の砲身に雷光が走ったかと思うと閃光が放たれた。
その直後、着弾地点で土煙が発生。
周囲にもうもうと立ち込める。
「風魔法用意。土煙を払え」
貴也の指示で風魔法が放たれた。
土煙が払われた後には……
「あれ? アルは」
軽く地面が抉れているだけでそこには何もない。
とりあえず、射線上に破壊の痕跡はない。
「観測班。アルはどうなった」
今回の実験結果を測定するために開発局には各種機器を持ち込んで解析してもらっている。
その内の一人に貴也は尋ねていた。
「溶けて蒸発したのではないかと」
「くっ、守り抜いて逝ったか」
「勝手に殺さないでください!」
声の方を見ると、倉庫脇の木にアルが引っ掛かっていた。
貴也はアルの非難を無視してノリのいい開発局の人間とハイタッチ。
「実験成功だ!」
「「「「わあああああああああ」」」」
歓声が上がりみんなで結果を称えあう。
「う~ん。防がれるとは電磁投射砲もまだまだですね。次はもっと威力のあるものを用意します。それでは電磁投射砲の撤収作業を開始します。測定結果は後日解析してから報告します」
隊長格の人は非常に残念そうな顔をしていたがすぐに表情を改めていた。
「ああ、頼む。あと、この後の魔法実験の方も測定頼むよ」
「了解しました」
隊長格の人が貴也に敬礼して去っていく。
それを敬礼しながら貴也は無言で見送った。
「あのぉ、助けて貰えませんか」
吹っ飛ばされて木に引っ掛かっているアルの悲痛な叫びが聞こえてきた。
その後は予定通り魔法実験をした。
電磁投射砲の実験ではアルの踏ん張りが利かなくて吹っ飛ばされたのを鑑み。
「やめろ。僕は公爵家の人間だぞ」
「アルフレッド様。これも公務です」
「ふざけるな。こんな公務があるか。これは人体実験だ」
「では公務の人体実験です」
悪乗りした第三部隊の隊長さんと共に部隊員が生み出した大岩にアルを括りつけた。
これで固定完了だ。
「まずは電磁投射砲みたいに直進性の高い魔法を装甲板にぶち込んでみますか」
「そうですね。光収束魔法の同時照射ですかね。三人くらいでいいですか」
「電磁投射砲と同程度なら五人は必要じゃないですか?」
「じゃあ、とりあえず五人で」
「やめろおおおおおお。殺す気かああああああ」
「じゃあ、第五小隊 整列。詠唱開始」
「お前ら絶対に殺すううううううう」
アルは魔力を装甲板に流しながら泣き叫んでいる。
「撃てえええええええええ」
五つの光が迸り一点に集まっていく。
そして……
「ぎゃあああああああ」
悲鳴が木霊していた。
悲鳴は複数。
アルの物ではない。
うん。こうなる確率はあったよね。
アルにめがけて放たれた光魔法は盾に当たって反射、拡散してあたりに散らばっていく。
隊長は一瞬の判断で防御壁を張っていた。
貴也は強化魔法をかけていたので視認しながらなんとか躱す。
開発局の観測チームは隊長の張った防御壁で守られていた。
第三部隊の面々は各々の判断で回避している。
数人、防御に失敗してケガをしたものいたようだが、かすり傷程度だ。
拡散したため威力が下がっていたとはいえ、流石はエリート集団である。
中庭に生えた木が何本か切断されて中庭が荒れていた。
「ざまあみろ。だから危険だって言ったんだ。早く解いて実験を中止しろ!」
アルは公爵の息子だという立場を忘れて汚い言葉で罵ってくる。
「流石、初代公爵様が作った物ですね。本当に反射してくるとは思いませんでした」
「そうですね。しかし、あれくらいの事態に対処できずにケガを負うなど情けない。執事見習いの貴也さんでも対処できたのに……これは実験終了後に訓練をしなくては」
隊長の呟きに隊員たちに戦慄が走る。
「では、次の実験を始めますか」
「そうですね。次は威力を上げますか。反射する余裕があるのならまだまだいけるでしょう」
「そうですね。とりあえず、八人で反射が起こるか検証しますか」
「十人くらい行けるんじゃないですか?」
「そうですね。では十人で行きますか」
淡々と今後の予定を決めていく貴也達にとって今の事態は想定の範囲内だったというのだろうか。
アルは悲鳴を上げていた。
結果
やりすぎは良くないよね。
実験はアルが魔力枯渇を起こすまで繰り返された。
それはもう色々な魔法を
そして……
「もうヤダ。僕、お家に帰る」
問答無用に魔法を打ち込んでいったらアルが幼児退行を起こしていました。
うん。反省してます。
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