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第三十九話 執事の休日 アルの魔法講義を受けるが無双できない

 休暇二日目。

 昨日軽い騒ぎを起こしてしまったため、今日は自粛して城でゆっくりすることにした。

 でも、ただぼおっとするのも何なので今日はアル先生に魔法の講義をして貰うことにしたのだ。

 スラリンは意味が分かっているのかいないのか、嬉しそうにピョンピョン跳ねている。


 魔法を使うかもしれないので城壁側の広場にある物置に向かうそうだ。

 そこは元々魔道具の研究室で実験の失敗を想定して頑丈に作られているらしい。

下手するとこの城で一番堅く極大魔法を食らってもびくともしないそうだ。


 一体どんな研究をしていたのか怖くなる。


 そんな貴也の心配をよそにアルは物置に入って行った。

 そこは物置と言うより倉庫や工場と言った方がいい規模のものだった。


 貴也が厚い鉄の扉を潜ると目に飛び込んできたのは広い空間だった。


 うん。ここ工場跡地だ。

 天井は高く優に五メートルはあるだろう。

 天井にはそこかしこにクレーンがつられ何かを運ぶのに使われていたのだろう。

 撤去しきれていないのか壁際に工作機械みたいなものが何機か残っている。

 軽く工業油の匂いがした。


 貴也はなんだか懐かしい気分になる。

 会社の勤めしていた時に毎日嗅いでいた匂いだ。


「この建物にはここと同じようなスペースが四ヶ所あります。隣は兄の工房となっているので入らないでください。奥には歴代の公爵が開発してきたゴミの山と、初代が作った使えない魔道具が積まれています。危険なものもあるので気を付けてください」


 なんでもないことのようにアルが言うが聞き捨てならないセリフが混じっていた。


「こんなところに初代公爵の魔道具があるのか?」


「ええ、何分、初代の遺した物は大量にあるので管理しきれないのですよ」


「でも、こんなところに無造作に置かれて泥棒にでもあったら」


「心配いりませんよ。城内に泥棒が入ることも難しいですけど、初代の遺産は歴史的価値はあっても実用的な価値はないですから」


「それはどういうことなんだ」


 貴也は首を傾げていた。

 そんな彼を見ながらアルは大きな溜め息を吐く。


「初代はあらゆる意味で天才でした。その天才が作ったものは凡人には解明も理解も出来ません。五〇〇年経ち、科学が発展した今でさえ魔道具がどういう理論で作られているかさえわかってないんです。それに」


「それに?」


 アルは少し溜めて無念そうに言葉を吐き出した。


「初代が使っていた魔道具は初代にしか使えないんです」


「えっと、それは何かセキュリティーが仕掛けてあるとか?」


「いいえ、純粋に力の問題です。初代は魔力容量も魔力操作も人間では考えられないレベルでした。そのために初代の遺産を使いこなすことが出来るものはいないのです。大抵の人は起動させようとしただけで魔力枯渇で倒れます。それをクリアしても次は繊細な制御が出来ず、暴走させ下手すると爆発です」


 アルは何か諦めたように天を仰いでいた。

 多分、彼も一度と言わず手を出して手酷い目にあっているのだろう。

 そう目が語っている。

 だから、貴也はあえてツッコまなかった。

 そんな貴也の態度を察したのかアルは何事も無かったかのように話を変えた。


「じゃあ、魔法の講義を始めましょうか」


 こうして魔法の講義が始まった。


「アル先生。質問です」


「はい。なんですか。貴也君」


「なんでこの世界では魔力を数値化してないんですか? 冒険者ギルドで測定してもらったときはF~Sで判定だったんですけど」


「いい質問だね。魔力の数値化は可能なんだけどしないんだよ」


「出来るのにしないんですか?」


「そうだね。今日はまずはそこから講義を始めようか」


 そういってアルはノリノリで話し出した。

 悪ふざけでこんな口調で話していたが、アルはもちろん貴也も楽しくなっていた。

 と言うわけで先生コントがしばらく続く。


「まずは魔力の数値化をしない理由なんだけど、コスト的な問題と現実的な問題があるんだ」


「コストと現実?」


「そう。まず、コストだけどこれは分かり易いよ。精密に図ろうと思うと機械が大きくなるし高くなる。この世界にはある程度の大きさの村なら冒険者ギルドの支部があるからね。そこに高価な機械を置いていられるほど予算がないんだよ」


「世知辛い世の中だね」


「まあね。それと現実的な問題。貴也君も魔法は使えるからわかるだろうけど、同じ魔法でも使い方や体調で魔力の消費量が変わるだろ?」


「うん。威力を上げようとするといつもより多めに魔力が減るね。それに調子がいい時は魔力の消費量が低い気がする」


「その通り。気のせいじゃなくて個人でも魔力の消費量は状況によって変わるんだ。それと同じように人によって魔力の消費量が変わる。貴也君が魔力一でトーチが使えるけど僕は魔力を二使わないとトーチが使えないなんてことが起こるんだ。それは上位の魔法になればなるほど顕著になる」


「でも、なんでそれが数値化しない理由になるの」


「冒険者は命の危険がある仕事だからね。不確かな情報はない方がいいんだよ。数値化されるとどうしてもそれに引き摺られちゃうからね。数値があるとイメージがしやすいだろ。上級火炎魔法の使用魔力40と本に書かれていて、自分が魔力400だったら、何発撃てる?」


「十発です!」


「そう、でも、現実は八発しか打てないかもしれないし、十二発撃てるかもしれない。個人の能力や状況によってそれくらいは変わってくるんだ」


「なるほど、だから、Cランクなら上級火炎魔法が八発~十五発撃てますよって幅を持たせてるんだね」


「そうだよ。理解が速いね」


「流石、冒険者ギルドもお役所だね。訴訟リスクを下げるためにあらかじめ言い訳を設定してるんだね」


「貴也君。ちょっと言い方を考えようね」


 アルは頬に冷や汗を垂らしていた。


「は~~い」


 貴也はニヤリと笑いながら大きく手を上げている。


「と言いうわけで、携帯出来るサイズの魔力量を測定できる機器が出来るまでは魔力の数値化は実施されないだろうね」


 そういってアルは締めくくった。

 一区切りついた所で貴也は口調を改めた。


「それでさあ。魔法が数値化されていない理由はわかったけど、オレって魔力容量がFランクのはずなんだ。でも、その割に魔法が多く使えたり、魔力枯渇が起こりにくかったりするんだけど、これってどういうことなんだ。魔力操作が高いから消費量が少ないとかそんなレベルじゃない気がするんだ。測定ミスとかあるのか?」


「急に口調を戻さないでくださいよ」


 とアルが苦笑した後、真面目に答えてくれた。

 貴也も測定ミスには願望が含まれているので真顔で聞いている。


「貴也さんの場合、魔力の回復量が異常に高いんです。通常、魔力容量と魔力の回復量は同レベルかいくつかレベルが下がります。魔力容量より回復量の方が高い場合は稀です」


「確か、オレの魔力回復ランクは……」


「Aです」


 どうやら、アルも貴也の資質について把握しているようだ。

 この世界の個人情報保護の観念を一度確認しておきたい。

 まあ、日本でも上層部は個人の情報など簡単に調べられる方法があるのかもしれないけど……


「違うと大きな問題でもあるのか?」


「逆なら大問題ですけど、貴也さんの場合は大きなメリットです。こんな人、過去にもいたかどうか。通常、魔力容量と回復量が同レベルなら八時間の安静で魔力枯渇から全回復すると言われています」


 アルは脇に置いてあったホワイトボードを取り出して説明を始めた。


 あくまでも参考と言うことで火の生活魔法を魔力1として計算すると


 Fランク    0~  49

 Eランク   50~ 299

 Dランク  300~ 799

 Cランク  800~1499

 Bランク 1500~3000

 Aランク 3000~9999

 Sランク 10000以上


 となる。


 貴也の場合

 最大で考えれば約一万が八時間で回復するので

 一時間で1250

 一分間で21回復する計算になる。

 つまり、魔力枯渇を起こしても二分半で全快する。


 それと身体能力強化系の魔法と相性がいいのはこの魔法は自分にかける分には魔力消費が少ない点と持続時間が長い点にある。

 上級の身体能力強化魔法は消費魔力15で持続時間が五分。

 一分ごとに別の身体能力強化呪文を唱えていけば最大五つの能力強化が出来る。

 通常、魔力75消費するところ貴也はすぐに回復してしまうため、最大値の15減っているだけの状態で回数無制限となる。


 普通の冒険者は魔力が惜しいので常時、身体強化魔法をかけておくことなどしない。

 それに戦闘途中に魔法が切れるのは厄介なので戦闘開始時に掛けなおす。


 だが、魔力消費を考えなくていい貴也の場合は常時かけておいた方が有利だ。

 もし、無意識で魔法を一定サイクルでかけられるようになれば破格の性能となる。

 これだけでDランク上位からCランクの性能はあるかもしれない。

 

 それを聞いて貴也の目は輝きだした。

 それを見ながらアルは


「ただ、回復量の正確な数値はわかりませんし、身体強化魔法の消費量もあくまで目安です。かなりの希望的観測が混じってますよ」


 そう言っておいたが貴也は聞いていなかった。

 アルは嘆息しながら


「じゃあ、試しにやってみますか。あくまでも理論上の話で上手くいくかはわかりませんけど」


 と言うことしか出来なかった。

 



 結果

 この方法は成功した。

 貴也もアルも驚きを隠せない。


 上級身体強化魔法五種類。

 知覚速度強化 ライトアクセル

  速度強化  ライトスピード

  筋力強化  オーガパワー

  防御膜生成 ミスリルガード

  武器強化  ギガマジックウェポン


 魔法をかけ続けること六回目。

 一時間経過したが貴也が魔力枯渇を起こす気配はない。


 それどころか、何種類の魔法を使い続けているため、技能が向上したのか初めの頃より楽になっている。

 あと、一、二種類なら可能か、それとも最上級魔法でも対応できるかもしれない。


 貴也はうずうずとしていたが、身体能力強化魔法はデメリットもある為、アルに止められた。

 あまりの剣幕だったのでここは従っておく。


 それにしてもこれは嬉しい誤算だ。

 これならまだ冒険者の道も開けるかもしれない。

 全く懲りない貴也だった。


 そんな時だった。

 隣の部屋の扉が開いたのは


「なんだ。アルか。騒がしいから見に来たんだけど」


 そこには白衣を着た金髪碧眼のイケメンが立っていた。




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