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第三十七話 執事の休日  大道芸で無双できない

すみません。予約投稿を設定し忘れていつもより早く投稿しています。

 結局、スラリンには目印として『スラリン』とマジックで書くことにした。

 青く透けるプニプニボディにマジックで書かれた『スラリン』の字はなかなか目立つ。

 色を赤にした自分のセンスを誉めてやりたいと貴也はほくそ笑んでいた。


 そんな貴也をスラリンは恨みがましく睨んでいる。


 だが、貴也は気にしない。

 意気揚々と町に向かう車の中から外を眺めていた。


 貴也達は町に向かうために車に乗っていた。

 この城は無駄に広いため、町に出るためには専用の巡回バスが出ている。

 町に出る以外も別の棟に行くにもバスを使う場合が多い。

 歩いていてはそれだけ時間がかかるからだ。


 アルはいつもなら車を出させるのだが、今日は貴也達と一緒にバスに乗っている。

 何が嬉しいのか固い座席の感触を味わいながらホクホク顔だ。


「なあ、アル。気軽に観光に連れ出しちゃったけど、大丈夫なのか」


「大丈夫って何がですか?」


「一応、お前も公爵の次男坊だろ。護衛とかつけなくていいのか?」


 貴也の言葉に納得がいったのか頷くアル。


「領都は治安がいいですから問題ありませんよ。まあ、裏町の方は危険ですけど今日はいく気はありませんし。それに僕もそれなりに強いんですよ。一応Cランクですし」


 意外なことを聞いて貴也は驚いていた。

 Cランクと言えば一人前と言えるレベルだ。

 十代でCランクになれるのなら余程の実力と才能だろう。

 少し、アルのことを侮っていた。


「お前、Cランクだったんだ。そんなに強そうに見えないのにな」


 バカにしているわけではないが貴也の素直な感想だった。

 そんな貴也に苦笑いを浮かべながら答えてくれる。


「強そうに見えないのは仕方ないですよ。本当は騎士になりたかったんですけど、僕には剣の才能があまりないらしくて。Cランクになれたのは魔法使いとしてです」


 そういえば初代タイタニウム公爵は伝説の魔導士だったことを忘れていた。

 魔法の才能は遺伝することが多いので公爵家の人間が強い魔法使いであるのは当然と言えば当然だ。


 となると疑問が一つ。


「オレ、お前が杖とかローブ来ているところ見たことがないんだけど」


 ファンタジー世界の定番、魔法使いと言えば筋力が弱いのでローブとか杖しか装備できない。

 それはこの世界でも同じだ。

 しかも、杖は魔法の威力を上げたり、発動速度を上げたりする補助具の役割を持っている。

 パルムの村にいた魔法使いはみんな分かり易い格好をしていた。


 貴也が不思議がっていると


「僕の場合、剣の才能はないですが、日頃から鍛えているので重い鎧も苦になりませんし、家には魔法の発動を阻害しないどころか効果を上げる金属鎧もありますからね。それを使ってます。それに杖ですけど杖は近接武器として劣りますからね。一人で行動している時は近づかれた時のことを考えて剣を使ってるんですよ」


「じゃあ、普段は杖を使ってるのか?」


「う~ん。ケースバイケースですかね。軍の指揮官が杖もって行け! って支持するより剣を持ってやった方が士気が上がるでしょ。公爵家の人間としてどうしても指揮官的な役割をしなければいけないことが多いので剣を持つことの方が多いですかね」


「そんなもんなんだなあ」


「そんなものですよ」


 とアルは溜息を吐く。

 多分、アルとしては剣で華麗に戦うことに憧れているのだろう。

 まあ、その気持ちはわからないでもないのだが、人には適材適所と言うものがある。


 それに指揮官が直接戦うような場面はない方がいいのである。

 そういう意味では剣の腕がないので嫌でも後方に置けるのは周りにとって幸運なことかもしれない。

 猪突猛進の指揮官なんて物語なら派手で見栄えがいいが、現実にいたら迷惑以外の何物でもない。


 大将がやられればそれは負け戦となるのだから


 そんなことを考えている間にバスは城門を通り街に出てきた。

 今日の目的地は下町の方の散策なのでまだ時間がかかる。

 城から出るまで信号もない一本道を車で走って三十分。

 さらに山の手を抜けるのに四十五分近くかかるのだ。

 本当に領都は広すぎる。



「やっと着いた」


 貴也はバスを降りて背伸びしていた。

 貴也達は東の下町の中心地で降りていた。


 それにしてもここが異世界とは驚きである。

 片側四車線の道路が一直線に伸びて城と領都の東門を繋いでいる。

 そして東門は領都の正門でそこから真っ直ぐに王都へと続く道が広がっているのだ。


 それにこの大通りただの広い道路ではない。

 車線の真ん中に噴水や教会、劇場などがある緑豊かな立派な公園があるのだ。

 この公園を回るだけでも一日くらい潰せそうだ。


 この東側の街は領都の玄関口。

 最も人通りが多く栄えている観光の街。


 領都の下町は別に区切られているわけではないが四つに分けられる。

 東側は観光客や冒険者が多く滞在している。

 北側は商人が西側には職人が多い。

 そして、南側は農家が中心だ。

 流石に東西南北の門から城に続く大通りの周りは商店や住宅街が軒を連ねているがその奥には農業工場や普通の農地が存在する。

 この街に初めて来た時には全く気が付かなかったが。


 アルの説明を聞きながら、貴也はキョロキョロと周りを見ながら歩いていた。


 南側の街を見た時にも綺麗な街だと思ったが、ここは別物だった。

 いい意味で観光地だ。

 建物のデザインは洗練されており、奇抜な物や大きな建物も多い。

 だが、それらが全体の調和を乱していない。

 それにそこかしこに緑が配置されていて目に優しかった。


 非常に心地よい街だった。


 貴也達はまず公園内の教会を抜け中央にある噴水を目指す。

 流石にスラリンを連れて教会に入るのには抵抗があった。

 それに噴水の周りは広場になっていて大道芸人や露店が軒を連ね毎日賑わっているそうだ。


 移動時間もあってそろそろ昼時。

 屋台を冷やかしながらそこで昼食をとるのもいいだろうという話だ。

 公爵家の人間が立ち食いなんかしていいのかと思うが、アルがそうしたいと言うのだから問題ないだろう。


 アルを先頭に歩いていると、今まで大人しくしていたスラリンが貴也の頭で跳ねだした。

 そして、何を見つけたのか屋台に、向かって飛び出していった。

 アルは慌ててスラリンを追い、貴也は笑いながらゆっくり歩いていく。


 スラリンの目当ての屋台は串焼きを売る店だった。


 そして、スラリンはと言うと……


 屋台にへばり付いて盛大に涎を垂らしてその串焼きを眺めていた。

 流石に勝手に食べるような真似はしていない。

 でも、垂れている涎が串焼きにかかりそうになっていた。


 アルはと言うとそのスラリンをひきはがそうとしていた。

 でも、スラリンはそこから離れようとしない。

 店主の親父は串焼きを焼きながらも突然現れたスライムに驚いている。

 と言うより涎を垂らすスラリンにドン引きしていた。

 まあ、その間も焦がさないように手が動き続けているのは料理人魂なのだろう。


 貴也は無言でスラリンを掴むと無造作に地面に叩きつける。


「いらっしゃい!」 


 店主は顔を引きつらせながらも威勢のいい声でそう言った。

 そんな店主に貴也は頭を下げる。


「親父。家のスラリンが悪いことしたな。涎はついていないと思うがいま焼いている串焼き全部くれ」


「毎度あり!」


 現金なもので店主は生き生きと串焼きを焼いていき、包み紙に入れていく。

 照り焼きソースっぽい醤油ベースの串焼きが香ばしい匂いをさせて食欲を掻き立てる。


 スラリンが立ち直ったのか貴也の足元でピョンピョンしているので貴也は先に串焼きを二本貰い、その内の一本をポイっと投げる。

 すると、スラリンが器用に飛び上がって空中でダイビングキャッチ。

 串もろとも食べてしまう。

 スラリンは恍惚とした顔でモグモグと咀嚼してゴクリと飲み込み、キラキラとした目でこちらを見ている。


 仕方がないので貴也は自分が食べようと思ってた串焼きを同じように投げる。

 スラリンはまたもやジャンプ。

 華麗にキャッチしてモグモグだ。


「器用なもんだなあ」


 店主が感心しながら残りの串焼きを渡してくれた。

 三十三本あったが、おまけしてお代は三十本分でいいとのことだ。


「と言うわけだ、アル。良きに計らえ」


「あのぉ。一応、僕は雇い主の家の者なんですが」


「今日は非番だからな。それにオレはお前の親父に雇われているのであってお前に雇われているわけじゃねえ」


 そう言い切る貴也にアルはガクリと項垂れて渋々財布からお金を出していた。

 公爵家の次男坊の癖にけち臭い奴である。

 なんてことを思っているのは一応秘密だ。


 その間にもスラリンはもう一本、もう一本とおねだりしてくる。

 貴也は右に左に串焼きを投げていく。

 途中、フェイントを交えて投げてみたがスラリンは見事にすべてキャッチしてのけた。

 

 なんだか楽しくなって調子に乗って投げすぎてしまった。

 串焼きはすでに二十本を切っている。


 こいつどんだけ食う気なんだと思っているといつの間にか周りには人垣ができていた。

 拍手や歓声が起きている。

 どうも、大道芸の一種と勘違いしたらしい。


 貴也は串焼きの親父に視線を送りニヤリと笑う。

 流石は商売人、それだけで貴也の意図を察したのか、そっと小さな籠を渡してくる。


「この世にも珍しいスライム。名前はスラリン。ここの串焼きが大好物でどんなに遠くに投げてもキャッチして食べてしまいます。どうですか誰か一つ投げてみませんか? 串焼きは一本、百五十ギルですよ」


 貴也は人垣の近くに籠を置きながら客を呷っていた。

 そんな中、屋台の近くにいた客が面白がって串焼きを買い、貴也に近づいてくる。


「おっ、お客さん。やってみますか? では『スラリン、行くよ』と言って串焼きを投げてください」


 言われた通り若い男のお客さんが『スラリン、行くぞ!』と言って山なりに串焼きを投げる。

 スラリンの目の前に投げられた串焼きを少し前に出てジャンプ。

 見事にキャッチして嬉しそうにモグモグしながら食べている。

 観客から今までで一番の歓声が上がった。


「きゃああ、すご~い」


「わたしもやりたい」


「串焼き三本ください」


「カワイイ!」


 スラリンの愛らしい姿に歓声が上がった。

 女性の黄色い声援の方が多い気がする。


 屋台には人が殺到し、串焼きを受けとるそばからスラリンに投げていく。

 スラリンは器用にそれをキャッチして食べていく。

 女の子の方が多いので物を投げなれていないのか、串焼きは投げた人の目の前や見当違いの遠くに飛んでいく物もあった。

 が、スラリンは持ち前の素早さですべてキャッチしてしまう。

 そして、食べることを忘れない。

 そのたびに歓声は大きくなっていく。


 うんうん。

 なんか思ったより騒ぎが大きくなってしまったなあ、と思いながら貴也は冷や汗を掻いていた。

 冗談半分で置いた籠の中には小銭が山盛りになってこぼれている。


 それにしても


「なあ、親父。何かやばい物入れてないだろうなあ」


 貴也は半眼で店主を睨んでいた。

 店主は自信なさそうに


「ただのラージラビットの肉ですよ。調味料もそこらへんで買えるもので怪しい物なんて入れてません。スライムにとってはどうか知りませんが……」


 二人で冷や汗を垂らしていた。

 もう何本食べたのか分からないがスラリンの食欲は留まるところを知らない。

 すでに串焼きは売り切れてしまった。

 半分以上はお客さんが自分で食べたり持ち帰ったりしているだろうが……


「あいつ、いったい何本食べたんだ」


 切実な言葉が貴也の口から洩れていた。

 と言うわけで、切りのいいところで「今日はこの辺で終了です」と言って場を収めた。

 周りから軽く不満の声が上がったが、人が少しずつ離れていく。

 スラリンも不満そうに周りを跳ねていたのには呆れることしかできなかった。


 貴也は籠を回収し、お金を懐に収めてから返す。

 店主はお礼と言っていくらか包んでくれた。

 まあ、あの売り上げならこれくらい貰っても問題ないだろうとそれもありがたく頂く。


 貴也達がその場から立ち去ろうとすると


「じゃあ、また機会があったらたのむな」


 と店主が手を振ってきた。

 貴也は苦笑いを向けながら手を振り返して歩き出した。


「それにしてもスゴイ騒ぎでしたね。本当に貴也さんといると飽きない」


 アルがすっかり感心している。

 なんかいつも騒ぎを起こしているみたいに思われて心外だが今日のことは言い訳のしようがなかった。


「それにしても腹が減った」


 貴也はそういいながらもう冷めてしまった串焼きを食べる。

 アルも貴也から一本貰ってかぶりついた。


 ウサギ肉は日本でも異世界でも食べたことがなかったが以外に美味かった。

 鶏肉に近いが少し癖がある。

 それを店主、特製のタレが上手く消すというか旨味に変えている。

 これはなかなかの味だ。

 冷めて少し硬くなってしまったのが残念で仕方がない。

 どうせだったら焼きたてを食べたかった。


 貴也達は歩きながらもう一本取ってかじりつく。

 そんな中、貴也の足元をついていたスラリンが一つ鳴いた。


「なんだ。スラリン」


 視線を下げるとスラリンの視線が串焼きに向いていた。


「お前、まだ食べる気かよ」


 コクコクと頷くスラリンに貴也とアルは絶句することしか出来なかった。




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