表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/200

第三十六話 執事の休日。スラリンがお茶目で無双できない。


 農業研修二日目。

 となるところだったのだが、貴也とスラリンはタイタニウムに強制送還されていた。

 クロードにはっきりと邪魔と言われてしまったのでどうしようもない。

 もちろん、反論の余地もなかった。


 と言うわけでその日のうちに車に放り込まれて城に帰って来たのだ。


 そして、なぜかスラリンも一緒に。


 スラリンは車の中でも機嫌が悪く貴也の足をガシガシと噛んでいた。

 まあ、スライムのプニプニの歯なのでそう痛くない。

 これはスラリンが怒っているんだぞと意思表示しているのだろう。


 帰り際にカインに聞いたのだが、スラリンは貴也が自分を置いていったことにショックを受けてかなり怒っていたようだ。

 貴也がいなくなってしばらくは普通に過ごしていたのだが、帰ってこない貴也を心配しているのか態度がおかしくなった。

 それでカインがもう帰ってこないことを伝える? と怒り出してかなり暴れたらしい。


 そして、かなりの間ふさぎ込んでいたとのこと。


 今回、貴也に会えるかもしれないと言ったらスラリンは喜んでついてきた。


 パルムにいた最後の方はカインにべったりだったのでそんなに懐かれていたとは思ってもいなかった。

 スラリンには悪いことをしたなと少し反省。


 でも、いい加減、噛むのは勘弁してほしい。

 貴也は一発、スラリンを殴っておく。

 そして、いつものジャレ合いに発展して運転手に怒られてしまった。


 そこからは二人大人しく城へと帰っていく。


 城に入るときスラリンのことでひと悶着あるかもと思っていたが、スラリンを見ても誰も何も言わなかった。


 この城のセキュリティーが少し心配になる貴也だった。



 そして、あくる日。


 農業研修の予定だったので丸々二日空いてしまった。

 と言うわけで今日と明日は臨時で休暇になってしまった。

 

 まあ、この城に来てから一切休暇がなかったので良かったのだろう。

 一応、執事見習いの貴也は週休二日制である。

 行事や突発的な仕事が入ることがあって定期的に休めないこともあるが、基本は申請した曜日が休みとなる。


 ただ、入って間もなく覚えることが多かったので休みのスケジュールが入ってなかったのだ。

 申請がなかったのでこれ幸いと仕事を回されていたとは思わないことにしよう。

 申請のことを言い忘れていたらしいのだ。

 決してクロードがわざと言わなかったわけではない。

 

 絶対、


 きっと、


 ……たぶん。


 と言うわけで、速やかに申請をしておいた。

 これで休みが定期的に貰える――と思いたい。


 と言うわけで


「今日、明日は休暇を満喫しよう。鬼のいぬまに洗濯だ!」


 そう言った瞬間、背中がゾクゾクっとした。


「決してクロードさんのことを鬼って言ったわけではないですよ」


 何故か土下座して謝罪していた。

 頭にスラリンが乗ってきたがそんなこと気にせず床に頭をつけている。

 しばらくすると背中の寒気がなくなったのでホッと一息を吐いて顔を上げた。


「何やってるんですか?」


 顔を上げると呆然としたアルが立っていた。


「お前こそ、なに他人の部屋に勝手に入ってるんだよ」


 貴也はアルを睨み付けている。

 そんな貴也の視線にタジタジのアルは


「いやですね。なんか貴也さんが変なスライムを連れて来たっていうから、確認をしに」


 アルが言い終わる前にスラリンがダイブしていた。

 それを難なくキャッチするアル。


「おお、やっぱり、スラリンじゃないですか。ひさしぶりですね。農業研修のカインさんについてきたんですか」


 スラリンに話しかけるアル。

 スラリンはキュイキュイ鳴きながらアルの掌の上で跳ねていた。

 なんだか、オレとの再会とはエライ違いだと貴也は軽く拗ねてしまう。


 そんな貴也の心情を察したのかスラリンが厭らしい笑みを浮かべた。

 こいつはどこでこういうことを覚えてくるんだろうと呆れながらも貴也はスラリンとアルを殴っておく。


「なんで僕まで」


 とアルが非難してくるがそんなものは構わない。


 と言うわけで


「で、アルは何しに来たんだ。スラリンを見るだけならもう用は済んだんだろ。早く戻らないと

エリザベートに怒られるんじゃないのか」


 貴也の言葉にブルリと震えるアル。


「大丈夫です。今日は休みですので」


 大きなため息を吐く。

 アルがいまどんな教育を受けているのか好奇心が沸いた。

 だが、それを聞くとこっちにも何かとばっちりが回ってきそうで貴也は口を閉ざすのであった。


「と言うわけで今日はどうしますか。折角なので街の方に繰り出しますか。貴也さん。タイタニウムに来てから観光なんてしてないですよね」


 あからさまに話題を変えてくるアルだったが、貴也はそんな野暮なことは言わない。

 そして、「観光かあ」と呟いていた。


「観光は良いけどスラリンも一緒で大丈夫なのか? 魔物を連れて歩いて問題にならない?」


「大丈夫ですよ。スライムは見たことないですけど使い魔として魔物を連れ歩く人は結構います。登録は済んでますので問題にはなりません。まあ、目印くらいはつけといた方がいいかもしれませんけど」


 なるほど、確かに重要施設であるこの城の中に入れているのだから問題になるわけないかあ。

 しかし、目印かあ。


「目印っていうと首輪とかか」


「ええ、首輪に限りませんけど野生の魔物が絶対に身に着けないようなものを着けておくといいと思います」


「っていってもこいつが身に着けられる物って何かあるのか?」


 う~ん。二人でしばし考え込む。

 つるんとしたボディにはアクセサリー類は身に着けられそうもない。

 身体に穴をあければバッチやピアスを身に着けられるだろうが


「スラリン。ちょっと身体に穴をあけていいかなあ。ちょっと小さな穴なんだけど」


 ニコニコ顔で貴也が近づくとスラリンはブルリと身を震わせて逃げ出した。

 今日の攻防は貴也のそう広くない部屋である。

 貴也は逃げ道をつぶして部屋の角に追い込んだ。


「大丈夫だよ。少しチクっとするだけだから。痛いのは最初だけだからね」


 ニヤニヤ笑いで近づいていく貴也。

 スラリンは涙目でプルプル震えている。


「貴也さん。スッゴイ悪党に見えますよ」


「オレにも自覚がある」


 そう言って苦笑いしているとスラリンが貴也の股の間をすり抜けて逃げ出した。

 そして、距離を取ってから『シャー』と猫が威嚇するように毛を逆立てている。

 まあ、毛がないのでスライムボディがそう見えるだけなのだが

 本当に器用なスライムだった。


「でもどうする? 女の子ならリボンでもつけておけば良いかもしれないけどスラリンはオスだろ?」


「えっ? スライムに性別ってあるんですか?」


「えっ? 無いの?」


「知らないです。スライムの生態を研究した本とか見たこともないので」


 そうなのか。

 てっきりオスと思って接していたのに性別がないかもしれないわけか。

 待てよ。

 性別がないのなら別に男扱いでも問題ないんじゃないか?


 よし、ここはスラリンに決めて貰おう。


「なあ、スラリン。お前は男と女どっちがいい。男なら右手に女なら左手に乗ってこい」


「何バカなこと言ってるんですか。いくらスラリンでもスライムにそんなことわかるわけないじゃないですか」


「バカにするなよ。スラリンは賢いんだぞ。ほら、スラリン。あんなこと言われて悔しくないのか? そら? 決めてくれ」


 そういって貴也は両手も差し出す。


 そして、スラリンの決意は……




「だから言ったじゃないですか」


 アルの呆れた声が聞こえる。


 スラリンは貴也の頭の上に乗っていた。

 貴也はピクピクとこめかみを震わせながらスラリンを下した。


 そして


「よ~く分かった。スラリン。お前の決意は大切にしてやる。オレはこれからお前を『おネエ』として扱うことに決めた」


 ビシッと指さすとスラリンがガーンとショックを受けている。

 そして、首(スライムには首がないけど)を何度も左右に振ると右手にすり寄ってきた。


「なんだ。やり直しがしたいのか?」


 コクコクと頷くスラリン。

 貴也はニヤリと悪党面で笑うと


「これが最後だぞ。次にしょうもないボケかましたら『おネエ』確定だからな」


 そう釘を刺すとスラリンは床に額をつけて謝っていた。


「おし、どっちだ!」


 ポンとスラリンは跳んで着地する。



 そして、その先は……



 頭の上だった。


 あれだけボケるなと言ったのに。

 こいつ、ちゃんと振りが分かっているな。


 貴也はニヤリと笑い。

 スラリンも左の口の端を吊り上げる。


「よしお前の覚悟はよくわかった。今日からお前は『おネエ』だ。スラリン改めスラミちゃんだ」


 ガーンと固まるスラリン。

 そして、プルプル震えながらこちらに目で訴えかけてくる。


 貴也は呆れたように首を振りながら


「確かにお前には日本の作法として『テンドン』と『お約束』を教えた。ボケが受けたらもう一度同じボケをしろと。あと、やっちゃダメだと言われたら、それは『やれ』のサインだと教えた」


 うんうんと頷くスラリン。

 そこで貴也は大きく目を見開く。


「しか~し。それは時と場合。つまりTPOをわきまえないとダメなんだ。これは空気が読める日本人にのみに使いこなすことが出来る高等テクニック! まだまだ未熟なスラリンに使いこなせる技ではないのだよ!」


 ダ~ンと喪黒○蔵バリに指さすとスラリンは本日三度目になるガーンと固まっていた。


「ふふ、と言うわけでお前は今日から『おネエ』扱いでスラミちゃんだ」


 貴也がそう言い切るとカプリと足に咬みついてきた。

 そこからはいつも通りト○とジェ○―ばりの仲良くケンカしな状態になってしまった。


 結果

 スラリンの名前はそのまま性別は男と言うことで結論が出た。

 うん。スラリンは賢いなあと言うことで今日も無双できそうにない。


 追伸

 今までのやり取りを見ていたアルが頬に冷や汗を垂らしながら


「あのぉ。本当にスラリンってスライムなんですかね」


 うん。それは貴也も同意します。




誤字脱字報告、感想など頂けたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
別作品の宣伝です。
カワイイ男の子が聖女になったらまずはお尻を守りましょう
良ければ読んでください。

あと宜しければ下のリンクを踏んで投票していただけると嬉しいです。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ