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第二十一話 偽物を尋問するが無双できない。


「そうか。日本人なのか。奇遇だな」


「えっ?」


「オレもつい最近日本から来たんだ」


「マジですか?」


「おう、本当だぞ。異世界にきて二か月ちょいの新人だが、お前の先輩だ。わからないことがあったら何でも聞いてくれ」


「はあ」


 頬に冷や汗を垂らした偽物は視線を彷徨わせながらなんとか返事をした。

 それもそうだろう。

 日本から来たと嘘を吐いたら、偶然にも本当に日本から来た人間が目の前に現れたのだ。


 はてさて、こいつはどうやって嘘に嘘を重ねるのか、貴也は意地悪くニヤニヤしている。


「同郷の人間と会うなんて久しぶりだなあ。日本はどうなってる」


「どうなってると言われても、あなたが知ってる日本がどんな状況だったか知りませんし、二、三か月じゃ変わってないと思いますよ」


 すぐに襤褸は出さないか、こいつ意外に賢いのかも

 

「そうだ。○ンピースはどうなった? お前の歳なら読んでただろう?」


「○ンピースですか。すみません。知らないです」


 はい、ダメでした。

 賢いかと思ったけど、全然だめです。

 減点一。

 とぼけるならもう少し上手くとぼけないと

 日本で彼くらいの年齢だったらワン○―スを読んだことがない人がいたとしても、知らない人はいないはずだ。


 貴也はニヤニヤしながら他の質問をする。


「君はどこ出身なんだ?」


「日本ですけど」


「だから、日本のどこ? オレはミズーリ州の北京に住んでたんだけど」


 偽貴也は何かを思い出そうと天井に視線を向け、そして


「僕は東京です。葛飾区の亀有ってとこに住んでました」


 両さんかよ!

 貴也は思わず吹き出しそうになった。

 地名的にはあっているがその情報源が気になる。

 教えた奴グッジョブだ。


 でも、亀有を知ってるなんて、こいつにはそれなりに日本の知識があるわけだ。

 でも、大した知識ではない。

 ちゃんとした知識があれば日本に州はないし、

 北京は日本の地名としては響きがおかしいことに気付いただろう。

 というわけで減点二だ。


 それにしても、日本人の知り合いがいる程度だろうか。

 それとも日本を紹介するような本が出回っているのだろうか。

 この辺は要調査だな。


 はてさて、次はどんな質問をしてやろうか。

 最終的には相場貴也を名乗った理由を聞き出さないといけないけど、急がなくてもいいだろう。

 面白そう――ゲフン、ゲフン。

 こいつが何を企んでいるか調べなければいけないからな。


 というわけで。


「ああ、悪い。オレの名前を言ってなかったな。オレの名前は山田太郎だ。気易く太郎と呼んでくれ」


「太郎さんですね」


 うん。日本人なら山田太郎だろう。

 例えに挙げられるNO.1だ。

 決して気は優しくて力持ちではない。

 でも実際に山田太郎ってあったことがないんだよなあ。

 だから、減点三。

 普通の日本人ならこの名前にはツッコむよね。


 なんてことを考えながらにこやかに笑う、貴也。

 そんな貴也に若干気圧されながらもぎこちない笑みを浮かべる偽物だった。


「そうだ。こちらに来たばかりだったら、金も何もないだろう。冒険者ギルドに行けばしばらくの間生活に困らないようにお金を支給してくれるんだ。早速、行ってみよう」


「冒険者ギルドですか……」


 偽貴也の頬を冷や汗が伝っている。

 こんなに分かり易くあたふたする奴を見たことがない。

 貴也は膝を抓って何とか笑いを堪えた。


 それにしてもこの世界は嘘を吐いたら死んでしまう、みたいなルールがあるのだろうか

 素直な人が多すぎる。

 この世界にきて平気な顔をして嘘を吐く人間を見たことが……

 いや、いたな。

 『マ』で始まって『ア』で終わる人が。


 まあ、彼女のことは置いておいて、今はこの偽物だ。

 ちょっと早かったが冒険者ギルドに連れていくというカードを切った。

 さて、この偽物はどういう反応をする?


 貴也の推測ではこいつは家出少年だ。


 この村には異世界人がよく来ることは知られているので見たことのない人間に寛容なところがある。

 現にカインがいい例だろう。

 そういう人に取り入って何とか生活の基盤を整える。

 その先は深く考えてないのだろう。

 まあ、家出して行き倒れるような奴が思慮深いわけがない。


 というわけで、ここでクエスチョン。


 冒険者ギルドに行くか? 行くないか?


 冒険者ギルドに行けば異世界人には特典があります。

 しかし、異世界人を騙ってその特典を受けようとするのは犯罪です。

 実際にそういう人間は後を絶たないらしい。


 だが、騙せた人間は皆無です。


 この国の人間は生まれてすぐに市民や領民、国民、貴族、王族のどれかの籍に入れられます。

 冒険者夫婦の場合、特定の戸籍がない場合は生まれた時に冒険者ギルドに登録されます。

 この登録の際に魔力の波長が記録されます。

 魔力の波長は指紋のように同じ形の人はまずいません。

 だから、魔力の波長を検索されれば身元がバレます。

 ということでこの偽物が冒険者ギルドに行くと言えば即逮捕、牢屋行きとなるというわけです。


 まあ、実際は未成年ぽいし、お説教されて強制送還ってとこでしょう。


 さあ、偽物君はどうする?


「冒険者ギルドはちょっと……僕、戦闘とか出来そうにないんで」


 おお、首の皮一枚つながったね。

 貴也は笑みがこぼれそうになるのを堪えながら親身に相談に乗るような顔で偽物を諭す。


「そんな心配はいらないよ。オレも最初は冒険者ギルドに行くのは怖かった。でも、ギルド職員はみんな親切で親身にこれからの生活についてアドバイスしてくれるんだ。決して、無理やり魔物討伐に出させたりしないよ。それどころか、危険だからって冒険者にはさせられないとまでオレは言われたんだから。戦闘を無理矢理させられることなんてないよ」


 うん。半分以上嘘だけど、ギルドの方針については正しいと思うぞ。

 さて、これで逃げ場はないだろう。

 どうする?


「えっと。ああ、そうだ。太郎さんはどこで働いてるんですか? やっぱり、不安なんでしばらく太郎さんと同じところで働けませんかね」


「太郎さん? 太郎さんって――ゲフンゲフン」


「大丈夫ですか?」


 突然、俯き、むせだした貴也を心配そうに見る偽物。

 そんな彼に片手を上げて「問題ない」と応える貴也だった。


 本当に今のは危なかった。

 山田太郎と名乗っていることをすっかり忘れていた。

 ちょっと気を付けないといけない。


 それにしてもこういう逃げ方をするとは思わなかった。

 ここで断ったら、彼はこのままどこかに行ってしまうだろうか? 

 行った先で自分の名前を使って悪いことをされては堪らない。


 でも、ルイズの店に連れていくのも……


 考え込む、貴也。


 そんな貴也に笑顔を向けながら偽物は


「やっぱり、無理ですよね。無理言ってすみませんでした。仕事は自分で探してみます。では、僕はこの――」


「よしわかった。話をしてみるからついて来い」


「え?」


「だから、紹介してやるからついて来いって言ってるんだ」


「そんな無理しなくても」


 狼狽える偽物に構っていられない。

 ここで逃がしたら面白くないじゃないか。


「心配するな。大船に乗ったつもりでついて来い」


 胸を勢いよくたたいて、頼もしさをアピール。

 絶対、逃がさないよと心の中で舌を出しながら、偽物の背中を押す。


「よし善は急げだ。とっとと行くぞ」


「はい」


 偽物は足取り重く貴也の後についてくる。


 はてさて、この後どうなるか?

 ここから先はルイズやお客様も絡んでくるので予想が出来ない。

 なんだか、オラ、ワクワクすっぞ

 って感じで胸を高鳴らせる貴也だった。

 

 

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