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第十九話 生活魔法は便利で思いのほか楽しいが無双できない

「もう冗談よ。本気でわたしが解剖なんてすると思った」


 三人が帰ってくるとマリアが不機嫌そうに口を尖らせていた。

 まあ、三人とも本気で解剖されると思ったから逃げ出したわけだが、それを言ったらスラリンだけでなく貴也たちも解剖されそうなので言わない。


 というわけで苦笑しながら話題を変える。


「そういえば、さっき、魔力が見えるみたいなこと言ってたけど、どうやって見るんだ?」


「貴也君はまだ見れないか。人それぞれ感じ方が違うんだけど、訓練すると魔力の大小を感じることができるようになるわ。最初は自分の体内の魔力を感じることから、そのうち他の生物の持ってる魔力を把握できるようになるの。一概には言えないけど魔物の強さは魔力の大きさに比例するから、相手の強さを見極めるのに有効なのよ」


 それは冒険者にとって必須と言ってもいいスキルなんじゃないだろうか。

 不意に知らないモンスターに出会っても強さがある程度分かるのであれば生存確率は上がるだろう。

 冒険者にならないにしてもこの能力は鍛えておいて損はないような気がする。


「あと、魔力が高まっているのを感じることができれば、それは相手が魔法や特殊攻撃を放つサイン。優れた人だと、魔力の質を感じてどんな攻撃が来るか予測することもできるわ。まあ、そんなことが出来る人は稀なんだけど、かなり便利な能力ね」


 マリアの魔力の講義が続いていく。

 そして、ふと貴也に視線を向けたマリアが一言。


「貴也君の魔力容量かなり増えてるんじゃない?」


「えっ? マジですか」


「そっだな。初級魔法で三発分ってとこじゃないかな」


「あら、予想よりかなり早いわね。スゴイわよ、貴也君」


 何がスゴイのか分からないが、魔力容量が増えたということはいよいよ魔法が使えるということではないか。

 貴也の期待が大いに膨らむ。


 元々貴也の魔力容量は成長しても大きくない。

 予測ではFランクだ。

 大雑把に言うと生活魔法五発分の魔力で初級魔法を一発撃てる。

 初級魔法が十発撃てるかがFとEの境目だ。


 つまり、オレは二か月足らずで限界の三割も成長したわけだ。

 その成長速度は驚異的かもしれないが、あまりにも少ない魔力容量にがっかりする。


 だが、今は魔法が使えるかもしれないという喜びの方が大きい。

 だって、魔法だよ! 魔法!


「じゃあ、オレも魔法が使えるということですか?」


「うん。まだいろいろ覚えなくちゃいけないけど、可能性はあるわね」


「教えてください」


 はしゃぐ貴也を見てマリアも嬉しそうに微笑む。


「じゃあ、まずは魔力を感じることから、魔力を感じられなければ魔力を操作することはできないわ」


「魔力を感じるっですか」


「うん。まずは大きく深呼吸して身体の真ん中に意識を集中して」


 貴也は深呼吸して、軽く目を閉じる。

 そして、意識を身体の中心……

 

 中心ってどこだ? 

 まあ、とりあえず鳩尾あたりに集中してみよう。


 集中してしばらく――


「えっと、何も感じないんですけど」


「まだ、一分も足ってないじゃない。もっとしっかり集中する。魔法の道は長く、険しいのよ」


 マリアは腕を組み、厳かにそういった。

 貴也は素直に頷き、さらに集中していく。



 五分後


「ダメだ。やっぱり、何も感じない」


 オレって才能ないのかなあ、なんて貴也が思い始めていると


「マリアも無茶な教え方してないで、普通に教えるっぺよ」


「ええ、貴也君ならこの方法で覚えられるよ。自分で魔力を見つけられた方が嬉しいじゃない」


「何言ってるだよ。ただの自己満足でなんの効果もない方法だっぺ。そんなことやっても時間の無駄だよ」


 カインはこう見えても合理主義者だった。

 整理整頓、無駄なことをするのが嫌いなのである。


 カインは溜息を吐きながら貴也の前にやってきた。


「ほら、貴也。ちょっと手を貸すっぺ」


 カインは貴也の手を掴もうと手を差し出した。

 貴也はその手を引っ込める。


「ええ、オレ、男の手を握る趣味ないし、やってもらうならマリアさんがいい」


「しょうがないわね。ほら貴也君。手を貸して」


「はーい」


 素直に手を差し出す貴也を見て


「酷いだ!」


 叫びながら畑の方に駆け出していくカインだった。

 そんなカインの背中に貴也は


「お~い。カイ~~ン」


 カインが振り返り、何かを期待する目を向けてくる。

 うんうん。仕方がない。

 ここは期待に応えてあげよう。


「鍬忘れてるぞ!」


 戻ってきたかと思うと鍬をひったくり、スゴイ速さでまた駆け出した。


「貴也なんて大嫌いだ!!!!!!」


 叫びながら怒涛の勢いで森を開墾していく。

 木をなぎ倒して森を切り開き、鍬で耕して畑にしていく。

 あっという間に一アールほど畑が広がっていた。

 スラリンも負けずに畑を広げていく。

 この勢いだと今日中に目の前に広がる畑と同じ規模のものが出来てしまうのではないかと貴也は冷や汗をかいていた。


「ちょっと言い過ぎましたかね」


「まあ、いいんじゃない。畑が広くなって悪いことはないし、それに見て、もう楽しんじゃってるみたいよ」


 マリアの言う通りカインを見ると満面の笑顔で鍬を揮っていた。

 いきなり、この場に現れた人は喜々と笑い声を上げながら木を薙ぎ払い、根をものともせずに鍬を揮う姿を目撃することになるだろう。

 味方によっては猟奇的シーンだった。


 だから、貴也も忘れることにした。


 いまは魔法のことが優先だ。

 あんな猟奇的なカインのことなどかまってる余裕はないのだ。


「なんか酷いこと言われてるような気がするだ!」


 遠くで声が響くがスルーする。


「それではお願いします」


 貴也は手を差し出す。

 マリアはその手を握りゆっくり目を閉じた。


「行くわよ」


 そういうと大きく息を吸い込んだ。


「………………」


 しばらく待っているが変化はない。

 ただ手を握られているだけ――


「あれ?」


 マリアが握る手を意識してみると最初は気付かなかったけどなんだか暖かい気がする。

 手の暖かさだと思っていたけどそれとは何かが違う。

 その違和感は意識すると一気に大きくなった。


「なんか熱い。っていうか押さえつけられる? いや、電気みたいにビリビリする」


 なんか不思議な感覚が手に合った。

 今まで感じたことのない感覚でどう表現していいかわからない。

 でも、何かエネルギーのようなものがそこにあるのはわかった。


「スゴイわね。何も教えてないのに魔力を感じ取れた。やっぱり、素質の違いかしら」


 軽く呆れたようにマリアは手を放す。

 それと同時に手に合った感覚がなくなった。


 そして……


「あっ、マリアさんの手ほどじゃないけど身体の奥に何かがある。これがオレの中にある魔力なんですか」


 身体のどこだとは言えない。

 身体の奥の方としか表現できないところに先程感じたものとは比べられないほど小さいが同じような力を感じる。


「本当にスゴイわね。もう自分の体内にある魔力を感じ取れるなんて。じゃあ、次のステップに行くわよ。その力に意識を集中して」


 貴也は自然と目を瞑り、身体の奥にある魔力に意識を向ける。

 それは不均一で形を成していない。

 比較的大きな塊が身体の芯に留まっているが、気を抜くとすぐに何処かに行ってしまいそうだ。


 貴也は魔力に意識を向ける。


 そうすると、身体中に散らばっていた魔力が集まってきた。

 そして、大きな塊となって丸く形を変えていく。


 いつの間にかマリアは背後に回って背中に手を当てていた。

 どうやら集中し過ぎていたみたいでそのことに全く気が付かずにいた。


「ホント、呆れた才能ね。まだ、何も教えてないのに魔力制御が出来てる。普通ここまで出来るのに二、三日はかかるのに一回でなんて……」


 マリアがブツブツ言っていた。

 魔力に意識を向けている所為かマリアの声が遠くに聞こえる。

 だが、その意味は分かる。


「貴也君。聞こえてる?」


 貴也は目を開ける。

 焦点が合ってない。

 まだ意識は魔力の方に向いている。


 徐々に覚醒していくがマリアが慌ててそれを止めた。


「まだ、魔力に意識を集中しておいて、集中したまま聞いて」


 また、難しいことを言う。

 彼女の言葉に耳を傾けると魔力が霧散しかける。

 と言っても本当にそこからなくなるわけではない。

 感じられなくなるだけだ。


 それほど魔力は意識しないと感じられない希薄なものらしい。

 それでも、マリアに言われたことを実行する貴也。


「いい。そのまま、魔力の塊を指に持っていって。ここよ」


 マリアが右手の人差し指を軽く握った。

 その感覚のお陰かイメージがかなり楽になった。


 そうか! イメージか。


 貴也は丸い魔力が身体を伝って指の先に動いていくところをイメージする。

 イメージと感覚にブレがあるものの何度もイメージを修正していく。

 そして、指の先に魔力が移動するころにはイメージと感覚のズレはなくなっていた。


「指先に魔力が集まって来たわね。じゃあ、最後、その魔力を炎にかえるわ。あなたの指はマッチよ。指先から炎が出てくるのを想像して」


 マリアはごくりと唾を飲み込む。


「最後に呪文よ。『魔力よ。我が指先に灯火を。トーチ』」


「魔力よ。我が指先に灯火を。トーチ!」


 貴也の声に反応したのがわかる。

 魔力が何かに変わっていく。

 貴也が指先に視線を向けるとそこには火が灯っていた。


「うわ、すげええ。なんか指から火が出てる」


「ホント、ビックリだわ。まさか本当にできるだなんて」


 マリアは口を開け放して驚いていた。

 だが、それ以上に貴也は驚いていた。

 そして、踊りださんばかりに喜んでいた。


「マリアさん。マリアさん。火ですよ。オレ魔法で火を出したんですよ」


 マリアの肩を揺すって大喜びする貴也。

 それを見て平静を取り戻したのか貴也は手を振り解かれた。


 指先から火はすでに消えていたので問題はなかったが、一歩間違えれば、マリアの服に焦げ跡くらいは残っていただろう。


 ということでお説教タイムである。


 十分ほど懇々と魔法の危険性をいい聞かせられた。

 だが、貴也はそれどころではなく全く耳に入ってこない。

 魔法が使えることが嬉しくて、魔法が使いたくてうずうずしている。


 そんな貴也を見て、マリアは盛大に嘆息した。

 いまは何を言っても仕方がないかと諦めたようだ。


「いまのがトーチね。まあ、ちょっとした明かりの代わりにしたり、薪に火をつけたりする以外に使えないけど、魔法よ」


「これが魔法かあ。やっぱりスゲエなあ。『魔力よ。指先に炎を灯せ、トーチ!』うわ、火が出た。マジスゲエ」


 一度使って慣れたのか、もう、左程集中しなくてもトーチくらいの魔力は集められるようで失敗せずに魔法が発動している。


 本当にスゲエなあ。

 何もないところから炎が出るなんて。


 貴也は喜んで何度もトーチの呪文を使い続けた。



=============================



「本当になんなんだろう」


 驚くべき魔法センスだ。

 例え、生活魔法と謂えども初めて使う魔法を一発でものには出来ない。

 普通は何度も失敗して感覚を掴んでいくものだ。


 見た感じ、貴也は一度も失敗していない。


 それに……


「貴也君。あなた何回トーチの魔法を使った?」


「えっ? 五回ほどですけど」


 なんでそんなことを聞くんだろう? 

 と不思議そうな目でこちらを見ている。


 そんな貴也に文句を言いたくなるがグッと堪える。


「もう一つ。呪文を教えるわ。『魔力よ。我が掌に水を。ウォータ!』」


 マリアの掌から水が溢れる。

 水の生活魔法、ウォータだ。

 魔力の込め方によるが大体、コップ一、二杯程度の水が出てくる。


 そんなマリアの魔法を見て目を輝かせながら、貴也はウォータの呪文を唱え始める。


「『魔力よ。我が掌に水を。ウォータ!』――うおおおおお、マジで水が出た!」


 今度も一回で成功。

 そして、手から水が出ることの何が面白いのか、変な踊りをしながら何度も水を出していた。


 やっぱり、おかしい。


 多少の見誤りはあっても貴也には初級魔法一五発分くらいの魔力しかなかったはずだ。


 まだ、魔力枯渇はしないにしても、そんな低容量の魔力で魔法を連発すれば急激な魔力の消費で息切れを起こす。

 集中力が乱れ下手すれば立眩みや眩暈を起こしても不思議ではない。

 なのに失敗する気配もない。


 これは不思議というより異常だ。

 本当にこの人の魔力容量はFクラスなのだろうか?


 でも、さっき見たときは初級魔法三発分くらいの魔力しかなかった。

 それはカインも一緒に確かめている。

 何が起こっているのか分からない。


 マリアが悩んでいるとバタンと貴也が倒れた。


「貴也君。大丈夫!」


 考えごとを中断してマリアは貴也に駆け寄った。



=============================



「あれ? ここは」


「貴也君。大丈夫」


「マリアさん?」


 目を開けるとマリアさんの顔が目の前にあった。

 頭の裏には柔らかい感触。

 どうやら膝枕で寝ていたらしい。


 貴也は慌てて頭を上げる。


「痛っ」


 その時、突然、起き上がった所為か頭に鈍い痛みが走った。

 なんだか身体も重い。


「もう、何も考えずに魔法を使うから。魔力枯渇を起こして倒れたのよ」


 どこかホッとしたように息を吐くマリア。

 どうやら、心配させてしまったようなので素直に謝罪する。


「ごめんなさい。ちょっと、調子に乗ってました」


「謝るのはこっちの方よ。わたしがちゃんと見て注意しなきゃいけなかったのに、考え事をしていて。――本当にごめんなさい」


 マリアが頭を下げるので貴也は慌てて頭を上げさせる。


「そんなマリアさんが謝ることじゃないですよ。いいから、この件はこれでお仕舞いです。それよりオレってどうなったんですか?」


「魔力枯渇を起こしたの」


 マリアが貴也の現状を話してくれた。


 どうやらというか、予想通りというか、貴也は魔法の使い過ぎでぶっ倒れてしまったようだ。

 話を聞くと体内にある魔力が少なくなったり、急激に減ったりすると、頭痛や倦怠感脱力感に襲われるらしい。

 普通はこの時点で魔法を使うのをやめるのだが、気にせずに使い続けると気絶や意識はあっても身体を動かせなくなる。

 貴也は調子に乗って魔法を使い続け、魔力をほぼ使い切って気絶してしまったそうだ。


 本当に情けない話だ。

 魔法というオモチャを与えられて疲れも忘れてぶっ倒れるまで遊んでしまった。


 うんうん。どこの子供だよ!


 自分に思いっきりツッコんで反省だ。

 こんなバカなことでそうそう迷惑はかけられない。

 魔法は計画的に使おうと心に決める。


 だって、もしこれがモンスターとの戦闘中だったら、調子に乗って魔法を放った後気絶して、そのまま……


 ぞっとした。

 背筋から冷や汗がダラダラとこぼれてくる。


 現に魔物に囲まれてパニックを起こして魔法を連発、動けなくなって殺されるということはよくあるらしい。

 本当に気を付けようと心に刻む貴也だった。


「いまはまだ身体に怠さを感じるかもしれないけど、魔力が回復すれば元に戻るわ。今日はこれ以上魔法を使わないで、ゆっくり、寝ること。いい!」


「はい」


 しょぼんと肩を落とす貴也。

 でも、生活魔法は思いのほか楽しかった。


 トーチは明かりや火種、食べ物を温めるくらいには使えそうだ。

 それにウォータ。

 これがあれば飲み水に困らないし、洗い物にも便利だろう。

 

 生活魔法という名は伊達ではない。

 伊達ではないけどその名のとおり生活する上でちょっと便利な魔法程度なんだよなあ。

 攻撃力には全く期待がもてそうもない。


 生活魔法は便利で思いのほか楽しかったが無双は出来そうになかった。


 

 ところでそのころカインはというと……

「オラオラオラ。ドンドンいくっぺ!」

 貴也が倒れたことなど知らずに森を蹂躙していたのであった。




初ブックマークが付きました

嬉しいものですね。

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