第一話 鑑定チートで無双できない
誤字訂正 17/01/20
視界を真っ白に染め上げていた光はいつの間にか消えていた。
身体は痛くない。
手で身体中をまさぐってみる。
「あれ? 大きなケガはしてないみたいだけど……」
ところどころ擦りむいたのか痛みはあるが死の危険があるような大きなケガの気配はない。
出血もなさそうだ。
でも、あまりに大きなケガだと脳が痛覚カットして痛みを感じないとか聞くし、
足なんかがあるように感じる幻肢?
なんてこともあるかもしれない。
もしかしたら、即死で幽霊になってるかもしれない。
うわ! めっちゃ怖ええええええええ
貴也はこう見えてビビりなのである。
そんなことを何分続けていたのか、
でも、このままでいても仕方ないと一大決心!
怖くて開けられなかった目をそっと開けることにした。
「ああ、やっぱり怖い」
ぎゅっと目をつぶり直す。
何やってるんだと思いながらも怖いものは怖いのだ。
その時、手に何かが触れた。
「ひっ!」
びっくりして手を引く。
目を見開いて何が触れたか確認する。
「なんだよ。ただの草じゃん」
ほっと一息ついて周りを確認する。
「え? 何で?」
貴也の目の前には見知らぬ景色が広がっていた。
両サイドは森で、今、貴也が座り込んでいるところは一定の幅で前後に開けている。
「これ道? えっ、日本だよね。東京だよね?」
車がすれ違えるくらいの幅の道。
もちろん未舗装。
土がならされて平らになっており雑草がところどころに生えている。
「田舎の農道かなんかか? もしかして大臣をひき殺した犯人が目撃者を消すために山の中に俺を捨てて行ったとか?」
いやいや、そんな面倒なことをしてどうなる。
店のあった場所は都心では閑静な方だけど、人通りはあるし、あの場にはSPも店の関係者もいた。
すぐに逃げた方がリスクは下がる。
「だったら、ここはどこなんだ?」
不安なのかさっきから考えが言葉に出ている。
何とか落ち着こうとするが意味が分からない。
「誰か説明しに来いよ!!!!!」
大声をあげてみた。
貴也の声は森の中に吸い込まれていく。
返事は勿論ない。
貴也もそんなものは期待してなかったし、返事があったら逆に怖かった。
深く息を吸い込む。
少しだけ気分がすっとする。
「うん。落ち着いた。落ち着いたと思い込むぞ」
目をつぶり、もう一度深呼吸してから、ゆっくりと今度は慎重に周りを伺う。
両端の森は結構深そうだ。
先が見えない。
現代人の貴也が踏み込んだらいけないのは確かだ。
そうなると、前に進むか、後ろに進むか。
まあ、ここがどこかわからないんだからどっちに行っても一緒なんだけど。
ほんと西も東もわからない。
いや、待てよ。
確か腕時計を使えば方角が分かったはず。
「てか、何で昼? 夜の9時頃だったよね。って午後3時回ってるじゃん。俺どんだけ寝てたの!」
いまさらなことに気付いて再度、驚き慌てふためくがとりあえず当初の目的を実行しよう。
貴也は腕を上げて短針を太陽の方に合わせる。
「確か、短針と十二時の間が南だから、こっちがひが……」
貴也は東の空を見上げて呆然としていた。
「ああ、俺、疲れてるんだ。きっと、まだ、夢見てるんだよ。それとも、車に轢かれた所為で昏睡状態なんだ。だから、終わらない夢を見ている。そうだよ。車に轢かれてケガしないわけないじゃん。そうか夢か……夢ならいいのに、あは、あは、あはははははははは」
貴也の目の前にはなぜか月が浮かんでいた。
こんな、明るい時間に月が見えている。
うん、見えるかもしれない。
きっと、そう言う日もあるだろう。
明け方、西の空に月が浮かんでることなんて良くあるじゃん。
大丈夫。あることだよ。それに月もたまには二つに見えるよ。
「って、あるわけないじゃん。月が二つって! 月がどうして二つもあんの!」
さっきからおかしいことだらけだと思っていた。
突然、森の中の道に飛ばされていた。
車に轢かれたはずなのに大きなケガがない。
それに気にしないようにしてたけど森の方から聞いたことのないような生き物の鳴き声が聞こえる。
ちらっと見えた鳥?
なんか極彩色なんだけど、それになんかデカくない?
尻尾が長くて始祖鳥みたい。
極め付けが二つの月。
「これってもしかして異世界?」
言葉に出してみるとなぜか腑に落ちた。
ネットでよく読んだパターンだ。
事故にあって死んだけど、どういう訳か異世界に転移したり転生したり。
ありがち、ありがち、テンプレじゃん。
もう飽きたってこういう展開。
だからさ……
「マジ勘弁してくれませんか」
ひざまずいてうなだれてしまった。
10分後
「おし、落ち込んでられねえ。とりあえず、どうするかだ」
状況が分かれば開き直れる貴也だった。
ああ、いままで散々パニくってたくせにって。
うるさい。これからがNEW貴也の見せ所だっていうの!
こうなりゃ、テンプレ上等だ!
異世界で無双してやる。転移者を舐めんなよ!
やけくそになっているのか、テンションが上がっていく。
ということで、持ってる知識を総動員。
伊達に漫画にラノベ、ネット小説を読み漁っているわけではない。
ということで最初は……
「鑑定だ!」
そう異世界ものといえば≪鑑定≫だ。
日本とは全く違う世界。
何も知らない日本人には知識が必要。
≪鑑定≫はなんでも知ってるよな。
なんでもは知らないわよ。知ってることだけ。
「というわけで≪鑑定≫」
…………
「あれ? ≪鑑定≫」
………………
何の反応もない。声も説明文も浮かんでこない。
「う~~ん。そうか触れないとダメなパターンとか?」
道路わきに生えている薬草っぽい草をむしり
「≪鑑定≫」
……………………
「NOぉおおおおおおお」
どういうことだ。
調薬とかのスキルがないと草関係は鑑定できないのか?
スキルレベルが足りないのか?
「それとも鑑定スキルがないのか?」
あっ、今のフラグだ。
言っちゃダメな奴だ。
でも、言っちゃったものはしょうがない。
認めたくないものだ。若さゆえの過ちというものは。
でも、本当に鑑定系のスキルないのかなあ。
違う名前だったりするとか?
えっと、そういうのを知るには……
「ステータス オープン」
そうだよ。
まず自分のことを知らないと『敵を知り己を知れば百戦危うからず』っていうし、己の前に敵を知ろうとしちゃだめだよね? ね?
…………………………
反応がない。
あれ? ステータスとか見れないの? マジで?
嘘だよね。
異世界ものなのに鑑定がないなんて言わないよね?
第一話なのにプロローグより短めです。
しかも敵も味方も現れない。
どうなるんだろう。大丈夫だろうか。
誤字脱字報告、感想良ければお願いします。