第百八十九話 回想は終わるが無双できない
遅れました。
「そんなことがあったのですか」
重い沈黙が流れる。
龍や魔王達の尽力で事件は解決したと世には伝わっていたが、その中には犠牲者がいたのだ。
それも魔王ルビーアイの敬愛している人物。
クロノス。
テンペスト以外の白様の眷属。
確か、あと二人いたはずだけど、今はそんなことを考えている時ではなかったな。
貴也は魔王と向き合う。
少し瞳が揺れていた魔王だったが、一瞬で気を取り戻した。
「科学は信用できないということですか?」
「違う。大きすぎる力は世界を破滅させるということだ。考えることは良い。人間はそうやって進歩してきたんだ。だが身の丈に合わない力は不幸を招く」
まあ、一度、科学の所為で世界が破滅しかけたところを見たのだ。
しかもその所為で大切な人を失っている。
おいそれと協力しようなんて気はしないだろう。
協力できない理由を話して貰えただけで御の字と諦めなければいけない。
だが、そんなことで諦めることが出来る人間なら貴也はこんな風になっていない。
どうでも良いことは妥協するが自分の目的を曲げたことは一度もないのだ。
優紀のことを負けず嫌いとた貴也はいうが、彼女に言わせれば彼こそ諦めが悪い頑固者だと断言するだろう。
貴也は鋭い目で魔王を伺う。
「今回、僕がやろうとしていることは身の丈に合わないことだと」
魔王が貴也を睨み返してきた。
すさまじいオーラがにじみ出てきた。
何か反応を誤れば殺されるかもしれない。
緊迫した雰囲気に優紀たちは息を飲むのも忘れている。
そんな時がどれくらい続いただろうか。
何時間もあったようで、一瞬だったかも知れない。
ただ、先に折れたのは魔王だった。
彼は深い溜め息を吐いている。
「お前のような人間が稀に生まれるから面白いなあ」
「それでは?」
「協力はせね。――だが、妨害もしない好きにするがよい。ただ、その技術を広めるのなら覚悟をすることじゃ」
「ありがとうございます」
本当は研究の手伝いをして貰いたかったが、邪魔をしないと言質を取れたことで今は満足しておくべきだろう。
貴也はホッと息を吐くと魔王にニヤリと微笑みかける。
「それでスライムを少し分けてもらえませんか? 別にそのスライムをどうこうしようとは思いません。どうせ魔王にしか増やせないならそんな数で世界をどうにかできる訳ないでしょ。スラリンにも友達が必要だと思うんですよ。一人では寂しいですし」
貴也の台詞に魔王はどっと笑い声を上げた。
「協力はせぬと言っただろうに、本当に度し難い奴だなあ。お前のような奴は初代以来じゃ。あやつも口八丁手八丁で余の知識を得ようとしておった」
魔王はひとしきり笑ったあと席を立つ。
「一時滞在を認める。その間はここを好きに使え。余の気が向けばお前の問いにも答えてやろう」
「ありがとうございます」
魔王が去る背中に貴也は頭を下げていた。
いつもお読みいただきありがとうございます
これからもよろしくお願いします




