第百八十八話 事故の結末、だが無双できない
「ルビーアイ。あなたは防御壁の維持を。そして、他の龍達は力を我が作る光玉に込めなさい。精霊たち踊りなさい」
「ちょっと待て、一人でこれを維持しろって!」
ルビーアイの叫びは無視される。
仕方なくルビーアイは全力で魔力を放出した。
防御壁は軋みを上げる。
いつ崩壊してもおかしくない。
「いまです!」
女神の叫びと同時に、ダイアモンドハートから光が迸る。
そして、防御壁の崩壊は止まった。
というかエネルギーの膨張が止まっている。
荒れ狂うように飛び回る光の球が女神の翳す光玉に吸い込まれていく。
それと同時に龍からもそれぞれの属性の光が光玉へと吸い込まれて行った。
最初に聖龍王が倒れた。
そして、水龍王、土龍王と倒れていく。
緑竜王だけは何とかその場に踏みとどまっていた。
だが、力を根こそぎ奪われたためか立っているのがやっとみたいだ。
そして、女神は光玉をエネルギーの渦に向けて放り投げる。
防御壁に当たるとそれは弾け、その空間に漆黒の亀裂が走った。
虚無の空間。
ただ黒く、何も見通せない。
ルビーアイは根源的な恐怖を感じていた。
そして、瞬く間に防御壁の球体はエネルギーの渦ごと虚無の世界へと飲み込まれていく。
漆黒の中に防御壁の球体が消えると暗黒の亀裂は何事も無かったかのように閉じていった。
そして、平穏がやってくる。
「終わったのか?」
不吉なフラグを立てかねない言葉を漏らしながらも何も起こらなかった。
全身から力が抜けルビーアイは膝から崩れ落ちた。
世界の危機は去ったようだ。
しばらく、ぼおっとしていたルビーアイは我に返って辺りを見渡す。
そこには既に精霊も女神アクアの存在もなかった。
そして、横たわるクロノスの姿が目に入った。
ルビーアイは慌てて駆け寄る。
クロノスは顔を上げて
「すまなかったな。オレ達が身を投げ出して白様を守らなければならなかったのに」
弱弱しく伸ばすクロノスの手をルビーアイは慌てて握る。
その手に生気はない。
その手は死人のように冷たく、感じる脈は僅かだった。
「クロノス様……」
ルビーアイの頬を涙が伝う。
「お前が生きていてくれてよかった。きっと白様もどこかで喜んでくださっているだろう」
「でも白様は」
「いや、白様はどこかで眠っている。我等眷属は白様と同一の魂を持つ者。白様が死ねば我等も消える」
「本当に白様が」
「ああ、オレがお前に嘘を吐いたことがあるか。白様は何処かで静かにこの世界を見守っておられる。だから、ゴフ」
クロノスが咽て咳き込む。
「クロノス様!」
クロノスを抱きかかえるルビーアイを手で制する。
そして
「もう時間がないな。最後にお前に会えてよかった。白様が心穏やかに眠っていられるように、この世界を頼んだぞ」
クロノスか力が抜けた。
ルビーアイの手からクロノスの手が零れ落ちる。
既に息はしていない。
力を使い果たしてしまったクロノスは眠るような穏やかな表情で息を引き取っていた。