第百八十七話 降臨。だが無双できない
光がおさまるとそこにいたのは一人の美女が。
いや違う。ひと等という存在ではない。
これは――
「わたしがそれを持ってこさせたのです。この事態はダイアモンドハートの力をもってしか治めることは出来ません。そして、もう一人」
そう言うと、視線を右にやる。
そこには何も無い筈なのにその美女の言葉と共に一人の男が現れた。
「もしかしてクロノス様!」
ルビーアイが思わず歓喜の声を上げていた。
男はその声に訝し気に眉をひそめたが、直ぐにハッとなり
「生きていたのか」
「はい。いまは魔王ルビーアイを名乗っています」
そう彼は白様の眷属の一人クロノスだった。
感動の対面に思わず駆け寄りそうになったが、その瞬間、防御壁が軋んだので意識をそちらに向け直す。
「クロノス。あなたがこの危機に駆け付けてくれて助かりました」
「あなたは?」
「いま、この世界の管理を代行している女神アクアです。この世界はこのままでは消滅してしまいます。どうか、貴方の力を貸してくださいませんか?」
「オレには関係ないことだ。そこのトカゲ共か、あんたがやればいいだろう?」
そう吐き捨てるクロノスに対して女神は顔を横に振った。
「この世界では神が力を振るうことは禁止されています。わたしが出来ることは助言とわずかながらの手助けのみ。この世界を救うのはこの世界の者でなければなりません」
「そんなのオレの知ったことか! それに白様を殺したこいつ等と力を合わせることなど出来ない」
「なら、なぜあなたはこの場に来たのですか? 白の愛したこの世界を守りたいからではないのですか」
「……」
クロノスは忌々し気に睨み付けるだけで何も言い返せなかった。
そして、女神はクロノスにダイアモンドハートを渡す。
「この世界で今ダイアモンドハートを使えるのはあなただけです。ダイアモンドハートを使ってあのエネルギーの渦の時間を止めてください。あとはわたしが龍達と精霊たちの力を導いて次元の狭間にあれを落とします」
「精霊?」
ルビーアイが疑問に思っている内にまた、あたりに光が満ちてきた。
色とりどりの光の球が飛び交っている。
これが精霊なのだろう。
「それはオレしか出来ないことなんだな」
「はい。時の力をもつ者はあなた以外にもいます。しかし、ダイアモンドハートの力を直ぐに引き出せるのはあなた以外にいません」
「オレがその力を使うと思っているのか? オレは白様を捨てたこの世界を憎んでいるんだぞ」
「それ以上にあなたが白の愛したこの世界を愛おしく思っていることをわたしは知っていますよ」
そう微笑む女神をクロノスは睨み付ける。
「何もかもお見通しか。気持ち悪い。しかも、これを使えばどうなるかも知っているんだろ。本当に神というのは度し難い奴らだ」
そう言うとクロノスはひったくるようにダイアモンドハートを受け取った。
そして
「時間が惜しい。始めるぞ!」
そう言うと球を胸に抱いて目を閉じる。
そして、透明の宝玉が光を放ち始めるのだった。




