第百八十六話 魔王の回想を聞くが無双できない 後編
「遅い!」
ルビーアイの声は怒気を孕んでいたが、ホッとしていたのは隠せなかった。
そうそこにいたのは風龍王。
エメラルドの様に輝く鱗を持つこの世界に存在する5竜王の一体。
火龍王が老いて動けぬ、今、この世界での最強の存在と言って良いだろう。
それに彼の翼にはエメラルドウィングが備わっている。
魔王と龍王の力を併せ持つ彼なら
ふと、気を抜いてしまった。
その時、防御壁が軋む。
「ルビーアイ! 気を抜くな! 余一人ではとても抑えきれんぞ!」
ルビーアイは慌てて魔力を注ぎ直す。
そして、舌打ちしながら
「龍王とあろうものが情けない。これしきの事、一人で抑えられんのか。その背中にある翼は飾りか!」
「無茶を言うな。こんな物一人で抑えられるわけがないだろう!」
「我は抑えて見せたがな」
「グぬぬぬ」
不敵に笑うルビーアイを横目に巨大なドラゴンは唸って見せた。
なぜか悔しそうなドラゴンを見て溜飲を下げる、ルビーアイ。
だが、刻一刻と状況は悪化している。
エネルギーの渦は炉だけに飽き足らず周辺の物質まで飲み込み始めていた。
炉を喰らいつくして大気を、そして、大地を侵食して成長していく。
防御壁を球状にして何とかエネルギーを抑え込むが徐々に押されていく。
広がれば物質が食われてエネルギーが増大していく。
完全にジリ貧だ。
そんな中、次ぐ次と増援がきていた。
土龍王に水龍王、聖龍王。
老いて動けぬ火龍王に、幼い黒龍王は残念ながら彼等では戦力にならない。
と言う訳で現存する力のある龍が勢ぞろいしたのだ。
彼等はルビーアイと並んで力を行使する。
4体の龍とルビーアイの力でやっと事態は拮抗した。
そう拮抗しただけである。
この五人の力を持ってしても対消滅の脅威を収束させることは出来なかったのだ。
そこにトパーズホーンが現れた。
そして、連れてきたのは。
一人の人間。
それにルビーアイは苛立った。
普段、冷静なルビーアイが怒気を上げる。
「トパーズホーン、たかが人に何ができる。そんな奴を連れてくる余裕があるのならお前も手伝え! ていうか、あの防御壁ごと宇宙の果てに転移してこい!」
「無茶苦茶言うなあ! そんなこと出来る訳ないだろ!」
理不尽なことを言うルビーアイにトパーズホーンは涙目で反論する。
そして
「啓示を受けたんだ。教会に応援を求めたら、こいつを持っていけってね」
「こいつを持っていけって教会は切り札を切るつもりはないのか?」
「ああ、今回は必要がないと門前払いを喰らった」
「あいつ等は!」
忌々し気に吐き捨てるルビーアイに人間が近づいてくる。
「ルビーアイ様お久しぶりです。教会よりこれを届ける様に承りました」
「お前はディアマンテの王子。これは」
ディアマンテ王子が持つ宝玉に見覚えがあった。
それは
「ダイアモンドハート」
確かにダイアモンドハートはとんでもない代物だ。
だが、使えなければ無用の長物。
教会は何を考えている。
そう思ったとき辺りが光り始めた。
ルビーアイたちはあまりの眩しさに目を背けることしか出来なかった。




