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第百八十四話 あの事故について聞くが無双できない 後編


「電磁シールド正常値。反物質投入シーケンスに入ります」


「シールド一部開放。投入口接続。密閉状態再度確認。シールド正常作動」


 次々と確認作業が進んでいく。

 この辺りは慣れたものなので問題もなくスムーズに進んでいく。


「最終確認。重力波及び異物混入アラートが消えません」


「それ以外はどうだ?」


「問題ありません」


「なら実験を続行する」


「「「所長!!」」」


 所長の決断に複数の声が上がった。

 みんな危険性を理解して反対しているのだ。


「これぐらいの異常は許容範囲だ。我々は世界のエネルギー問題に責任がある。こんなことでこの計画を頓挫させるわけにはいかないんだ」


 所長の言葉には迷いはなかった。

 その断固たる決意は変わりそうにない。

 そう強く言われては部下たちがこれ以上反対することは出来なかった。

 というより、この場にいるものはこの計画の推進派である。

 心のどこかで実験を続行したいと思っている人ばかりだ。


 そして


「実験を開始する」


 所長は開始スイッチを押した。


「反物質投入を確認」


 沈黙が流れる。

 この場にいる全員の目が計器に向かった。


 …………


「十秒」


「二十秒」


「三十秒経過。反応ありません」


 静寂が流れていた。。

 オペレーターがカウントダウンの声だけが室内に響いている。

 本当に二十秒から三十秒の間など永遠にも感じられた。

 そんな中、無情にもオペレーターが計器に反応がないことを告げる。

 いつもなら投入した直後から光、熱、衝撃、圧力、あらゆるセンサーから反応が返ってくるのに。


「どういうことだ?」


 所長の声に動揺があった。


「対消滅反応を観測できません。――待ってください! 映像データ出します」


 オペレーターが素早く手元のコンソールを操作する。

 そしてメインスクリーンに実験開始時の映像が映し出された。


「試料の氷が消えていく? どういうことだ! 試料の氷が消えているのに対消滅反応が起きないなんて」


「わかりません。計器を見る限りでは対消滅は起こっていません」


「そんなバカな。反物質と物質が接触して対消滅が起こらないなんてことがあるのか? それならなんで氷が無くなっているんだ」


「何か不測の事態が起こったとしか……」


 全員に動揺が走っている。

 誰しもの頭に最悪の想像が浮かんでいた。


「炉内に反物質は残っているのか?」


「わかりません。電磁シールドに干渉されて外部からは確かめるすべはありません。現在、カメラ映像を確認していますが、それで分かるとは……」


 重い沈黙が流れる。

 そんな中、ある研究員が


「磁気シールドを一部解除して中に反物質が残っているか確認してはどうですか」


 不用意な発言に怒鳴り声が上がる。


「そんなことをして、もし反物質が残ってたらどうするつもりだ。あのメルトダウン事故よりひどいことになるかもしれんのだぞ」


「ですが。このまま指を咥えてみてても事態は改善しませんよ!」


 それをきっかけに場の空気が沸騰した。

 ケンカする勢いでの言い合いが始まる。

 それは議論と呼べるようなものではなかった。


 多分、緊張に耐えられなくなっていたのだろう。

 不安をぶつけ合うように自分の意見をただただぶつけている。

 もう収拾がつかなくなっていた。


「黙れ!」


 所長が大声で一喝する。

 その声にみんなの怒鳴り声が止まった。

 まだ、一部理性が残っていたらしい。


「試料の氷は炉内のどこにも存在しいないのだな」


「映像、質量センサーを見るに固体として存在していることはないと思われます。可能性としては水蒸気として存在しているか。別の物質になっているか……」


 最後の方は聞きとれなくなるような小さなものになっていた。

 多分、口に出すして現実になることを恐れているのだろう。


「エネルギーを発生させずに対消滅が起こる可能性は?」


「わかりません。ただ理論上も今までの実験結果からも非常に低い確率化と」


 そんな部下の返答を所長は聞いていないようだった。

 ブツブツと独り言を呟きながら思考に没頭しいている。


「氷の存在が消えたということは何らかの変化があったはずだ。接触して何らかの反応があったとすれば反物質と物質が共存している確率はかなり低いだろう。だとすると……」


 所長の顔が苦渋に歪む。

 そして、結論というより願望を口にする。


「反物質が取り込まれ、すべて正常は物質に変わった。そう考えるのが妥当か――」


「所長。逃げないでください。物質が全て反物質に変わってしまった可能性もあります」


 所長はその言葉を発した職員を睨み付ける。

 睨み付けられた本人も苦笑いを浮かべていた。

 それは誰もが考えている最悪のシナリオなのだから。


 そこからは沈黙がまた続いていた。

 時間だけがこくこくと進んでいった。


いつもお読みいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願いします

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