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第十八話 スラリンが優秀すぎるが無双できない。


「まあ、なんか知らんけど飯にするっぺ」


 カインが暗い雰囲気に気付いたのか、ことさら明るくそう言った。

 確かにくよくよ考えていても仕方がない。

 ここは『まだ、一年もある』と開き直るところだ。

 それに貴也にはいざとなればギルド職員になるという道があるではないか。

 そう考えると気が楽になった。


「そうだな。腹減ったし。カイン、さっさと用意しろよ。使えねえなあ」


「そうよ。わたしたちが話している間になんで用意しておかないのよ」


「ひどいだ! 人が気を使ったのに」


 涙目で叫ぶカインを放っておいて貴也はカバンから弁当を取り出す。

 今日はサンドイッチにした。

 って言っても貴也が作ったわけではない。

 だって今日休みだし、カインも料理が上手いから任せてるよ。


「わたしはこれと、これ?」


 真っ先にサンドイッチをかすめ取っていくマリア。

 このままでは自分の分がなくなると貴也も慌ててサンドイッチを確保。


「ああ、オラが作ったのにオラの分が」


 嘆くカインを無視して話を続ける、マリアと貴也だった。


「もぐもぐ、マリアさん、ちょっとは遠慮したらどうですか? いきなり来られて、昼飯持ってかれると取り分が少なくなるんですよ。今度からお金取りますよ。カイン、お茶」


「何言ってるの。貴也君だって居候でしょ。そっちこそ遠慮したら。カイン、お茶」


「なに勝手なことを言ってるだ。二人とも似たようなもんだべ。はい、お茶どうぞ」


 文句を言いながらもお茶の用意をしてくれるカインだった。

 お茶を飲み、落ち着いてきた貴也は


「カイン。なんか甘いものない?」


「あっ、わたしも。冷やしたスイベリーとかがいい」


「本当に自由人だな! ちょっと待ってるだ」


 そういってカインは畑に戻っていく。

 それと入れ違うように水まきを終えたスラリンがこちらにやってきた。

 そして、定位置である貴也の頭に納まる。


「ねえ、前から気になってたんだけど、そのスライムって何者なの?」


「何者って言われても、スラリンはオレがこの世界で初めて会ったスライムだけど」


「その子、普通のスライムとは違うわよね。ただのスライムが水魔法を使うなんて聞いたことないもの」


「そうなの?」


 小首を傾げる貴也にマリアは呆れた声をあげる。


「この辺にいるスライムは最弱種で打撃体制が少し強いくらいの雑魚モンスターよ。魔法どころか特殊技能も持ってないわ。攻撃なんて体当たりだけだし」


「そういえば、最初の頃はそんな感じでしたね。水を吹けるようになったのは大分前ですけど。最近では土を耕すこともできますよ」


 貴也が試しにその辺を耕すように命令するとスラリンは形状をドリルのように変形させて土の中にダイブ。グリグリとモグラのように土の中を進んでいく。そして、スラリンの通ったところの土は柔らかフワフワになっていた。


「カインが土魔法を使いながら鍬で畑を耕しているのを見て覚えたみたいですよ」


「驚いたわね。スライムって学習能力が高いのかしら。それともこのスライムが特殊なのかしら」


「スライムってみんなこんなものなんじゃないんですか? カインも別に驚いてませんでしたよ」


「そんなわけないじゃない。カインは何にも考えてないだけよ」


「悪口はオラに聞こえないように言ってくれ」


「いやよ。わたしは陰口が嫌いなの。悪口は本人の前で堂々と言うわ」


 胸を張るマリアにカインは『悪口は言わないっていう選択肢はないだか』と肩を落として呟いていた。

 その間もカインは水魔法でスイベリーを軽く洗い、そのあと氷魔法で冷やすことは忘れない。

 貴也とマリアはお皿に盛られたスイベリーを摘まむ。

 スイベリーはベリー系の甘酸っぱい果物だ。

 大ぶりのイチゴで水分量が多く、甘みが強い。


「う~ん。美味しい。やっぱり、食後にはスイベリーよね」


 満足そうにパクパク食べているマリア。

 結構な量があったのに瞬く間になくなっていく。

 貴也は自分の分の確保を忘れてないので問題ない。


「オラがとって来ただに、もうないだ」


 涙目のカインに仕方がないから一個分けてやった。

 お礼を言われたので『感謝しろよ』と踏ん反り返っておく。


「それで話を戻すけど、このスライム、なんでこんなことになっているの?」


 マリアの質問に三人そろって首を傾げる。

 貴也にカインにスラリンで三人だ。

 スラリンは首がないけど器用なので身体全体を傾けて首を傾げることを表現している。

 確かにこのスライムはおかしい気がしてきた。


 そんな三人を見ながらマリアは考え込みだした。


「う~ん。スライムって弱いし、どこにでもいるから意外に生態の調査とか行われてないのよね。スライムが人に懐くことはあるけど、一緒に生活するくらいに馴染んでるのって見たことがないし。まあ、普通はスライムを使い魔にする人なんていないからなんだけど」


 別に貴也にはスラリンを飼っている自覚はない。

 勝手について来て、勝手に居ついただけだ。

 所謂、居候。

 『何それ、オレってスラリンと同じ扱いなの』

 と呆然とする貴也。

 そんな馬鹿なことを考えている貴也は置いといてマリアの考察は続く。


「でもスライムって魔力もそう高くないから、こんな規模の魔法は使えないはずなんだけどな」


「スラリンの魔力はそんなに低くないっぺよ。多分、一般人と同じか少し多いくらいだっぺ」


「そんなわけないじゃない。もしそんなに強かったら、それだけでEランクよ」


「じゃあ、見てみるっぺよ」


 カインに言われてマリアはジッと観察する。

 そして、驚き、顔をあげた。

 貴也も見てみるがなんの変化も見られない。

 うっすらと頬を赤らめているくらいだ

 照れてんじゃねえよ、スラリン。


「本当だ。このスライム、普通では考えられないくらい魔力が高い。でも、どうして」


 顎に手を当てて考え込んでいるマリアにカインは何でもない事のように話し出す。


「初めて会った頃は普通のスライムだったぺよ。だけど、しばらく生活してたら徐々に魔力が大きくなっていっただ」


「じゃあ、元からこんな風だったわけじゃなくて成長したってこと」


「そうだと思うっぺ」


「何か変わったことした?」


「別になんもしてねえだ。オラたちと同じ物を食って畑仕事を手伝わしてたくらいかな。ああ、雑草とかも食べてたっぺ」


 あれ? もしかしてオレがやらかしたか?

 貴也はツーっと視線を外す。

 軽く後ずさり逃げ出す準備。

 だが、そう簡単に逃がしてくれるわけがない。

 後ろを振り返った時点で肩をガシっと捕まれた。


「貴也君、何か知ってる?」


「いや。記憶にございませんが」


「何か知ってるわよね」


 マリアの顔が近づいてくる。

 美人の顔がこんなに近くにあったら普通ドキドキするものなのだが、これは別のドキドキだ。

 こんなドキドキいらない。


 冷や汗を垂らしながら視線を外す。

 だが、顔を押さえつけながら目を合わさせられた。

 完全に逃げ場なし。


「た・か・や・く・ん」


 貴也は観念して話し始めた。


 なんでも食べるスラリンを見て、本当になんでも食べられるのか試したくなって色々と食べさせたこと。

 置時計、エネルギーキューブ、割れたガラスのコップ、そして、物置に放り込まれていた壊れたトラクターを食べさせた話したら完全に呆れられてしまった。


「あのトラクターかあ……まあ、捨てるのに困ってたもんだから構わねえけど、今度からは一言いってからするっぺよ」


「ごめんなさい」


 これに関しては素直に謝罪した。

 うん、あの時は面白くてついつい調子に乗ってしまった。

 あとになって冷や汗をかいたものだ。


 本当にごめんなさい。


「う~ん。どれがこのスライムを変化させたんだろう。カインの作る野菜は魔力豊富で栄養満点だから、その影響かもしれないし、魔力と相性の悪い機械部品が逆に変な作用を及ぼしたのかもしれない。エネルギーキューブも怪しいわね」


 ブツブツと呟く、マリア。

 しばらくしてニヤリと笑う。


 なんだかいやな予感がした。

 それは貴也だけでなく、カインも、スラリンも同様だったらしくみんな顔色を悪くしている。


 そして


「ねえ、頼みがあるんだけど――」


 いやだ。その先は聞きたくない。


「スラリンをちょっと解剖させてくれない」


 三人は脱兎のように逃げ出した。


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