第百七十五話 魔王は貴也を否定しないが無双できない
朝に更新したつもりでいました。
遅くなって申し訳ありません
「流石だね。そこまで気付くとは思わなかった」
「いえ、わたしも気付いていたわけではありません。どちらかというと魔王様に誘導されたんじゃないですか」
伺うような目を向ける貴也に魔王は声を上げて笑った。
「思っていた以上だ。同等に会話ができる人間は楽しいな。我の周りには脳筋が多くて困っていたのだ。なんでも力で解決しようとするものばかりで困る」
「それはわたしの周りもですよ」
そう言って貴也は優紀たちに視線を向ける。
優紀は意味がわかってないようだったが、アスカは心外だと頬を膨らませていた。
そんな態度に肩を竦めながら貴也は魔王に視線を戻す。
「魔王様は科学の発展を望まないのですか?」
「いや、科学が発展することは問題ない。ただ、行き過ぎた力は害悪だ。いまのこの世界は非常にバランスが取れている。冒険者が魔物を倒し、村を守る。国も魔物による被害を恐れ他国に野心を抱く余裕はない。まあ、小競り合い程度は許容しないといけないがね」
「科学が発展すれば大規模な戦争が起こると?」
貴也が探るように伺う。
そんな貴也の思惑に気付きながらも話に乗る、魔王。
「まあ、ある難題がとけるまでは問題ないだろう」
「魔力の問題ですね」
「そうだ。城壁や町は科学兵器で壊せる。だが、魔力を持つ騎士や冒険者には効果がない。科学兵器を並べても少数の優れた魔法の担い手たちの前にあっという間に瓦解するだろう」
そこまで言って貴也の表情を伺ってくる、魔王。
その態度自体が貴也の思惑を見抜いている証拠だ。
沈黙が場に落ちる。
闊達な議論が繰り広げられていたと思っていたのに急に訪れた静寂。
アスカと優紀はその変化を息を飲んで見守っていた。
そして、その沈黙を破ったのは貴也だった。
「オレにそれを諦めろというのですか?」
「いや、我は観察者だ。白様の愛した世界を見守るもの。助けを求められれば手を貸すこともあるが、自ら干渉しない。君が我と敵対しようとしないのなら手を出すつもりはない。いつかはこういう日が訪れることは覚悟していたことだ。それが遅いか早いかという話だ」
そう言って魔王はこちらの目をジッと見つめる。
「ただ、覚悟はすることだ。君の判断でこの世界の破滅の歯車が回り始めるかもしれないことを」
一言で僕の心に楔が撃ち込まれた。
流石は魔王。
貴也は憎々し気に彼を睨み付けるのだった。
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