第百七十四話 朝食をいただくが無双できない
開口一番、魔王が謝罪してきた。
貴也達はどう反応して良いかわからずにいたが、とりあえず頭を上げて貰う。
魔王に頭を下げられるなんて落ち着けないどころではない。
まあ、トパーズホーンになら頭を下げさせた上、足で踏んづけても平気なのだが……
いまは魔王の城にある広間にいる。
長いテーブルの両脇に椅子が並び、給仕のメイドや執事が控えている。
テーブルには色とりどりの野菜のサラダや果物、ふかふかのパンにスープ。
オムレツにソーセージなどが並んでいる。
昨日、あんなことがあったので気分的に晩飯が満足に食べられなかったのでこの朝食はありがたかった。
魔王との和解を果たした貴也はこれで落ち着いて食事ができると安堵した。
「昨日はあんなことになって本題に入れなかったのだが」
そう言って居住まいを正す、魔王。
朝食を済まし、紅茶を飲みながら談笑して寛いでいた時のことだった。
貴也はいよいよかと魔王と正対する。
そんな貴也に魔王は苦笑した。
「そんなに改まらなくていい。我は別に君を取って食おうとは思っていない。少し君に助言をしたいと思っただけだ」
「助言ですか?」
首を傾げる貴也に魔王は大きく頷く。
そして、厳かに話し始めた。
「君のことはトパーズホーンとの決闘から注目させてもらっている。あの戦いは実に面白かった」
「御眼汚しを。恥ずかしい限りです」
貴也が頭を掻きながら照れている。
「いや、あの戦略は素晴らしかった。自分の力が足りないことを自覚し、ルールを最大限に利用し勝ちにこだわる。自分の身や下手なプライドを捨ててまでも勝利をもぎ取るなど出来そうで出来ることではない。勇者殿には思いつきもしない作戦じゃないのかな」
もしかして皮肉を言ってるんじゃないかと貴也が勘ぐるが、その表情からはそんな様子はうかがえない。
手放しに誉めているのだろう。
だが、貴也としては卑怯者の悪足掻きだと思っているので何とも複雑だ。
そんな貴也の気持ちを察したのか魔王は大きく笑う。
「そんなに自分を卑下する必要はない。君には戦闘力がない代わりに知略がある。それを証明したと誇らねば、負けたトパーズホーンが報われぬぞ?」
あんな奴が報われなくてもどうでも良いが、魔王の手前、ここはのみ込んで置こう。
「それであの魔導具の使い方なのだが……」
魔王の目の色が変わった。
顔は笑顔のままだが、瞳の奥が笑っていない。
ギラリと輝いているように見える。
「余計な使い方を考えていないだろうね」
「余計な使い方というと?」
貴也は惚けておいた。
しかし、そんな貴也の反応も魔王は予想していたのだろう。
肩を竦めて首を振っている。
話についていけないアスカと優紀は首を傾げていた。
「この世界は魔物がいる。それがこの世界のバランスを保っていることには気付いているかね」
「ええ、この世界は科学が発展しています。しかし、その割には兵器がお粗末だ。技術力は変わらないはずなのに日本の自衛隊でさえ世界征服で来てしまえそうなくらい」
「そうだろうな。話に聞く君の世界の兵器は非常に危険なものが多いものな。だが、技術力が同程度なのに兵器が発達していない理由は何だと思う?」
貴也は即答する。
この件に関してはこの世界に来てずっと考えていたことだ。
「まずは魔物ですね。身近な脅威に対抗する手段を持たなくてはならない。そして、この魔物に魔力を伴わない科学兵器は役に立たないのがポイントです」
「そうだ。魔力を纏う者には魔力でしか対応できない。これがこの世界の理だ。これを覆すことは出来ない。例え君の世界にある核兵器でさえC級クラスの魔物を殲滅するのは難しいだろう」
「まあ、核を使えば周囲の環境が破壊されるのでその内死ぬでしょうがね」
「だが、それは魔物だけでなく周辺すべてを巻き込む話だ。魔物の脅威を取り除くために領地を死の大地にしては意味がないだろ?」
「全くその通りです。費用対効果が悪すぎる。だから、科学兵器が発達しなかった。というより身近にもっと手軽な方法がありましたからね」
「そうだ。それが魔法だ」
「人間は効率を考える。魔法で倒すことが可能なのに無理に科学兵器で倒す方法を模索する必要はない。だから、科学兵器の開発は進まず、魔法の研究が進んできた」
「その通りだ」
「そして、それは魔王様の思惑でもあったのではないですか?」
貴也は表情を伺う。
魔王は不敵に笑っていた。
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